酷すぎる内容
「は? 解雇……?」
聞き慣れない言葉に、思わずザガロは呆然となった。
自ら望んでここへ来たわけじゃない。逃げ出したことも数えきれないほどある。
今は逃げ出すことこそしなくなったが、与えられた仕事を真面目にやったことは一度もなく、適当にどこかで時間を潰しながら不平不満をこぼすだけの日々を送っていた。
そこからようやく解放される? 解雇ということは、もうそんな毎日を送らなくて良いということだよな? それはつまり、侯爵家に戻れるということか。
案外、許されるのが早かったな──。
やはり、自分が優秀だからということなのか。『解雇』という響きは多少気に入らないが、侯爵家に戻ることができるなら、それには目を瞑ってやってもいいだろう。これまで侯爵子息である自分に散々無礼を働いた代償は、屋敷に戻ってから何倍にもして返してやるが。
「それにより、男爵家が取り潰しにならなきゃいいけどな……」
むしろ、取り潰しになってしまえば良い──と願いながら、ボソリと呟く。
「ん? 何か言ったか?」
しかし、それに反応したカスパルが近づいてきたのを見て、彼の腕の中にいるミディアもろとも、ザガロは親の敵のような目で睨みつけた。
こいつらだ──。
この二人さえいなければ、自分がこんな目に遭うこともなかったのに。
「僕はもうお役御免なんだろ? だったらさっさと僕を離せ! 一体いつまで押さえつけておくつもりだ!?」
侯爵子息である僕に、よくもこんな真似を──。
怒りで全身を震わせながら、ザガロは未だ自分を押さえつけている使用人達を怒鳴り散らすと、最後の抵抗とばかりに力一杯暴れ、強制的に彼らの手を自分の身体から離させようとする。
しかし使用人達の手は緩められることはなく、それどころか、御者が持ってきた縄により、彼の身体はがんじがらめに縛り付けられてしまった。
「なっ……おい! これはどういうことだ!? どうして僕を縛り付けたりする!?」
ミノムシのような状態になっても尚、偉そうな態度を全く崩さないザガロ。
その様子に、カスパルは名残惜しげにミディアを地面に下ろした後、「ちょっと待ってて」と告げ、嫌そうな顔をしながらザガロへと近づいた。
このままでは、埒が明かないと思ったからだ。
「全くもう、めんどくさいな……」
「めんどくさいって……それはもしかして、この僕のことを言っているのか!?」
「お前以外にいないだろうが」
大声で喚くザガロの目の前にしゃがみ込み、カスパルはわざとらしく大きなため息を吐く。そうして、鋭い視線でザガロを睨みつけると、徐に言葉を紡いだ。
「かれこれ三ヶ月ほどお前の動向を見守ってきたが、どうやら我が家のやり方では生ぬるすぎるらしいから、別の手を打った方が賢明だろうという答えに達した。お前のせいで我が家の使用人達の負担が増大していて、彼らにも申し訳ないと思っていたところだったしな」
その言葉に、使用人達が大きく頷く。が、ザガロは当然、そんな言葉は聞き入れない。
「そんなこと知るか! 僕にはなんの問題も──」
「いや、実際のところ問題だらけだったよ? まぁ……メラニン侯爵がわりと“できた人”だったから、少しだけ期待して君を引き取ったんだけど、まさかここまで“外れくじ”だったとは思わなかった。せめてもう少しぐらいマシでいてくれたら、俺もここまでしないで済んだのに。本当に残念だよ……」
ちっとも残念そうに感じない口調で、カスパルは淡々と言葉を紡ぎ続ける。
実際、ザガロがきちんと真面目に働いてくれていたら、カスパルはそのまま男爵家で使用人として使ってやっても良いかと考えていた。
無論、自分がミディアと結婚してからは同じ屋根の下にいられると気が休まらないため、その時には自分の両親と共に領地へと向かってもらうつもりでいたが。
ザガロを引き取って三ヶ月──毎日使用人達から彼に関する報告を聞いていたが、それはあまりにも酷すぎる内容だった。




