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10...嫉妬の行方






 「ロゼアル様。明後日帝都ファルムスで旧友に会いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 アリエルはロゼアルと共に朝食を食べながら、にこにこと微笑みながら許可を求めてきた。

 

 「アリエルが友人と会うなんて珍しいね!よく泊りに行っているレキアラント侯爵令嬢かな?」

 「いいえ。昨日偶然再会した旧友が帝都に訪れておりまして、折角ですのでゆっくり話したいと思っています。」

  「そうなんだね。構わないが、必ず護衛は連れて行くんだよ?」

 「わかりました。ありがとうございます。」

 アルはにっこりと微笑みながらも胸中は穏やかではいられなかった。昨夜侍女から告げられたことが警鐘としてずっと頭の中で鳴り響いているように感じる。

 その友人の事を問いただしたい気持ちが溢れ出しそうで我慢するだけで精一杯だった。言いたいことのほとんどを飲み込んで兎に角優しい夫でいようと心掛けながら昨夜の報告を思い出していた。



 「旦那様。奥様のことでご報告がございます。」

 「アリエルのことはアリエルに任せている。彼女の動向についてであれば、私は聞くつもりはないぞ。」

 「-しかし・・お耳に入れた方がよろしいかと・・」

 普段はアリエルに対して優しく接しているロバートがこのように食い下がることは滅多にない。余程のことがあったのだろうか。それでも彼女のプライベートはできる限り詮索したくない。自由にさせてあげたいというのがこの結婚の趣旨だったのだから。


 「それはアリエルの命にかかわるようなことなのか?」

 「・・今の時点でそのようなことはございませんが・・しかし奥様の不名誉に繋がりかねない内容かと。」

 ロバートの曖昧な物言いに苛立ちは感じたが、彼女の不名誉とはどうゆうことなのか?アルは問わずにはいられなかった。

 「それはどうゆう事だ。」

 「詳しくは奥様付きの侍女が直接申し上げたいと外に控えております。部屋に入れてもよろしいでしょうか。」

 「・・・許可しよう」

 ロバートは恭しく頭を下げるとすぐにアリエルの侍女を部屋に招き入れた。


 「時間はない。手短に話せ。」

 「承知いたしました。」

 冷淡な声音で侍女に告げると侍女は今日アリエルがリンと再会したことについて報告を始めた。


 侍女の報告は、アリエルの学生時代の旧友であるリンという青年が、アリエルと長い時間カフェで談笑し、夜会で会う事、また、その前にまた会いたいと誘って来ていたとのことだった。

 アリエルが他の男と一緒にいるというのは正直良い気はしない。しかし、彼女の友人というのであれば、無下にするべきではなのではないだろうか。アルは嫉妬の炎を灯らせつつも彼女の事を想い思考を巡らせた。

 まだアルはアリエルの事をほとんど知らない。学生時代の事も全くと言っても過言ではない。そんな状況で頭から他の男を寄せ付けたくないとアリエルに告げようものなら、自分はただの束縛男でしかないだろう。


 「ロバート。アリエルの学生時代の友人関係を念のため調べてもらえるか。」

 「承知いたしました。すぐにお調べ致します。」

アリエルが侯爵夫人である以上、トラブルに巻き込まれないよう情報は持っておくべきだと判断はした。ただ、それをアリエルに伝えるかは判断は躊躇われた。


 

 誰もいなくなった執務室の椅子に腰かけ、書類に目を通しながらも溜息しか出てこない。

 自分が目覚めてから想いは告げた。デートも何回かした。しかし、アリエルを見つめると胸がおかしいくらいにドクンドクンと激しく鼓動し、とてもではないが抱きしめたりできない。エスコートすることさえ緊張してしまう。

 なんとか顔には出さないように心掛けてはいるが、不審に思われているかもしれない。

 お互いを知るために時間も以前より多く持っているし、お互いの事もかなり分かり合えて来た気はする。それでもエルにするような接し方はとてもできなかった。

 思いが違いすぎる。エルを抱きしめると癒しを感じるのに、アリエルを前にすると更に緊張してしまい避けたくなってしまう。まるで思春期にでも逆戻りしたかのように自分の感情や行動がコントロールできない。

 彼女を抱きしめたら押し倒してしまいそうだ。目覚めた時も、ルシードがいなかったら夢の中と勘違いしてあのままアリエルと布団の中に引き入れアリエルをきっと最後まで抱いていただろう。そんなことをしていたら、きっと離婚を突きつけられてもおかしくない。

 少しずつ距離を縮めていきたいのにむしろ逆走している気分にすらなっている。



 朝食を終えて皇宮の騎士団本部に向かう馬車の中、アルは深い溜息を何度吐いたかわからない。明後日アリエルが他の男と出かける。消すことのできない嫉妬の炎に悩まされながら彼女に嫌われたくなくて身動きの取れない自身を恨めしく思うのだった。


***


 「奥様。本当に明日先日のご友人とお会いになるのですか?」


 「えぇ。私にとっては数少ない友人の一人なのよ。私が既婚者であることもわかっているし、カフェでお茶する程度だから大丈夫よ!」

 心配そうに尋ねる侍女に、にこにことアリエルは微笑み返事を返す。


 先日リンと別れてから、その日のうちに彼から便りが届いた。夜会まで10日しかないので、日程もすぐに確認できたらしい。彼は学生の頃のように、軽装でお茶したり散歩でもしたいと連絡をくれた。

 学生時代は男装というか剣の指南を受けたり、体力づくりをするために、訓練用ズボンとシミューズで動き回っていたので、軽装とはそのことを言っているのだろう。


 学園を卒業して以来アリエルとして男装はしなくなったのだが、たまには良いかもしれない。侯爵邸にも男装できる服は持ってきている。流石に訓練用パンツは履けないが、細身のスラックスなら良さそうだろう。

 気軽に出かけていた学生時代を思い出し、明日のお出かけが思っていた以上に楽しみだったのか、態度がいつもと違うことにアリエル以外の侯爵邸の人間はアルも含めて皆気づいていた。

 

アルは仕事を理由にアリエルと共に夕食は摂らなかった。旧友とはいえ男と会うことを楽しみにしている妻の姿を見守れるほどアルは許容できなかった。嫉妬の炎を消化させることもできず、持て余した状態で仕事に没頭することしかできなかった。

 アリエルを慕う侍女たちは、夫婦間に問題が起こらないことを願わずにいられなかった。


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