-73- 読み過ぎ
世知辛い今の世の中に生きる上で、先読みは必要不可欠である。しかし、かといって読み過ぎも返って結果を悪くすることもあり、うっかり読み過ぎるのも程度ものということになる。この世を生きるのは実に難しいのである。^^
夏の風物詩の花火が打ち揚げられている。その花火を見ながら、浴衣姿の老人が二人、川風が流れる堤防の土手に床几を置き、将棋を指している。
一人の老人がもう一人の老人が指した手を見て長考に入った。長考に入られた方の老人は目を盤上から花火の揚がる空を眺めながらパタパタと団扇を扇ぐ。
『待てよ…。ソウ指されれば、コウ指すしかないか…。だが、コウ指せば、相手はナニと指すだろう。ナニと指されれば必死がかかるな…。だから、コウは指せない。となれば、ソウ指すしかないが…』
ややこしく先読みした挙句、老人は盤上の駒を動かした。
「ほう、そう来ましたか…。では、これで王手とっ!」
指された老人は持ち駒の角をビシッ! と盤へ打ち据えた。泣く子も黙る大手飛車だった。
「あっ! それは…」
時すでに遅しだった。
読み過ぎれば、こういうことにもなりますから、必ずしもいい結果になるというものでもなさそうです。そういうことにならないよう、何事も程々に先を読みましょう。^^
完




