-56- 遅刻
学生の方なら、うっかり寝過ぎて慌てられた経験がお有りだろう。遅刻である。^^
春の日差し込む尾豚家の子供部屋である。少学三年になった耳也は慌てて跳び起きた。目覚ましの針はすでに七時を回っている。こうしちゃいられない…とは思うが、着替え→洗顔・歯磨き→食事をゆっくりしているゆとりはなかった。急いですべての行程を終え、家を出たとしても遅刻する危険性があったのだ。
『そうだ…』
耳也はふと、思った。ズル休みをしよう…と。悪いこととは分かっていたが、まあ、いいや…と悪い心が囁き、耳也の脳を洗脳したのである。
「耳ちゃん、遅刻するわよっ!」
バタバタと足音がし、子供部屋のドア前でママが声を大きくした。
「…今日は学校、お休みなんだっ!」
耳也の口からスラスラと嘘が飛び出した。
「あら、そうなの…」
いとも簡単に納得したママは、子供部屋の前から撤収した。耳也としては、してやったり…という気分である。これで慌てる必要はないし遅刻する心配もなくなった。そう思うと、俄かに睡魔が耳也を逆襲し出した。ベッドに戻った耳也はウトウトと、また眠りの世界へと誘われていた。
耳也は夢の中で教室前を走っていた。バタバタと走り、教室へ駆け込んだとき、クラスの皆は着席しており、耳也を一斉に見た。
『遅刻よ、尾豚君…』
担任の鳥川羽音が優し気な笑顔で言った。同級生全員が笑い出した。そこで耳也は目覚めた。日曜の朝は昼になっていた。
ママが勘違いしていてよかったね。日曜は遅刻しません。^^
完




