その令嬢、やっぱり最強
本日三話目
その日アレスは腹が痛かった。
いや、痛いのは腹ではなく胃である。
レイと婚約者になってから定期的にくる痛みだ。
そしてこの胃の痛みがくる日というのは大体が何かしら起こるのだ。
「で、今回は何をしたんだい?」
「なにがでしょう?」
そんな胃痛の元凶である本人はというとアレスの目の前でカップと何のことかわからないと言わんばかりに首をを傾けていた。
「殿下、私心当たりがないのですが?」
「何かしたでしょ?」
胃を抑えながらじっとりとした瞳をレイへと向けるアレス。そんなアレスの視線を受けてレイは何かあっただろうか? と思案する。
しかし、さっぱり思いつかない。
「やはり。私には思い当たりません。生徒たちのレベルを上げたことではないでしょうし」
「いや、その事だから」
自分のやったことを全く問題視していないレイの姿を見たアレスは深々とため息をついた。
「一体なにしたの? 学院にいる生徒のレベルが軒並み40越えしてるし……」
学院に通う生徒たちの平均レベルは7から10位である。卒業後に各軍に入りレベルを上げる者が大半である。無論、有力な貴族などはレベルをもっと上げている家も存在する。
しかし、卒業前にレベルが40を超えているというのは異常であった。
レイを除いたこの国最強とも呼ばれている騎士のレベルが70であることからもその異常さがわかるというものであった。
アレスに言われた事により今思い出したと言わんばかりにレイは手を叩いた。
「殿下が卒業生の質の低さを嘆いておられたので少しばかりお手伝いさしていただきました」
頰を赤らめてモジモジとするレイの姿は非常に愛らしいものであった。あくまでも無力な令嬢ならばであるが。
「どうしたらあんなレベルが上がるのさ」
「なんてことはありませんわ。ダンジョンにに放り込んだだけです」
口にするのが物騒なことでなければだが。
そして答えを予想していたのかアレスはレイの話を聞いて再び胃が痛みを発し始めたことに顔を僅かに顰めるのだが必死に表情には出さないように努めていた。
なにせ胃が痛いのがレイにバレれば痛んだ胃を問答無用で摘出され回復魔法で新たな胃を作られるという光景が容易く想像出来たからである。
宰相が以前何気なく言った時に目の前で行われたのだから間違いない。
あの時は三日は食べ物が食べれなかった。
「学院の生徒が二時間消えたのはそのせいか」
「ええ、ダンジョンは時間の流れが違いますから」
レイが告げた通り、ダンジョンの中は外の世界との時間の流れが違う。
ダンジョンで一日過ごしたとしても外の世界、現実世界では僅か一時間しか経過しない。つまり二時間行方不明になっていた生徒達はダンジョンに二日もの間、放り込まれていた計算になるのだ。
騎士団であっても半日で撤収するのが常識であるダンジョンに二日間もである。狂気の沙汰である。
アレスは胃痛の他に頭痛も感じ始めていた。
痛みを感じながらも机から一枚の羊皮紙を取り出し、それをレイに見えるように机の上へと置く。
「これは?」
「君がレベルを上げた生徒達の休日の動きだよ」
アレスに言われて興味が出たのかレイはその羊皮紙を手に取り目を落とす。
その瞳が文字を置い、内容を読み終えたのかレイは花が咲いたかのような可憐な笑みを浮かべる。
「みなさん、レベル上げの喜びを知られたようですね」
「……そう取るか」
羊皮紙に書かれていたの生徒達の休日の動きである。
それはもう狂ったかのようにダンジョンを使用しているのである。
そして、横に書かれている生徒達のレベルもまた最強に近づく程の凄まじいものになりつつあった。
さらに言うならば部屋に篭って出てこなくなった生徒もいると報告を受けているアレスであった。
アレスは生徒のメンタルケアのことを考えたら胃が痛んだ。
「……こんな生徒達卒業したらどうなるんだ」
「殿下の近衛軍でも作りますか? 私が指揮しますよ?」
レイが軽く言った事を脳内で考えたアレスであったが途端に顔をしかめた。
どう考えても侵略を考えている軍にしか思えない。それもトップがレイであることからちょっとしたことで出撃してしまいそうなフットワークの軽い軍だ。
考えるだけでも胃の痛みが凄いことになりそうだ。アレスは顔を歪めて胃を抑えるとレイは心配そうな表情を浮かべてそれを見ていたのであったが何かを思いついたのかパッと表情を輝かせた。
「大丈夫ですよ殿下! 私が指揮すれば反乱が起こったら即潰して差し上げますから!」
これで解決と言わんばかりにレイは和かに笑う。
そんな惚れた女性の笑顔に少しばかりどきりとしながらもアレスは引きつった笑みを浮かべた。
こうしてアレスの胃痛は深刻化していくのだった。
後にフォルスナー王国の定期的に胃痛で倒れる賢王アレスと最強王妃として名を馳せたレイ率いる軍団のお陰でフォルスナー王国は後の百年は平和が続いたとか続かなかったとか。
これにて完結




