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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第五章:そして役者が揃い出す
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第七十九話:狭くて、暗くて、足元がヌルヌルと滑りやすくて……そんな場所は、苦手です<鬼ごっこの開始>

 遅刻すいません。そして、一週間楽な三人称書きを続けていたせいで一人称が酷いことに……。重ね重ね、すいません。

 side:紅

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ……。

 ガタガタッ、ゴトトッ。

 トントン、トントン。


『あれ? 開きませんね。何かつっかかってるんでしょうか?』

『そうなの? じゃあ、ちょっと私に代わって、リーティス。杖で叩いてみるわ――てやっ!』


  ガン! ガン! ガン! ガン!!


『……駄目ね、開かないわ』

「よし、あたしが踏みつけてこじ開けてやるよ『チョット、サガッテ イロ、アリス』」


 手振りと片言の注意を駆使してアリスを後ろに下がらせ、代わりに前に出る。

 そして、あたし達の侵入を頑固に拒む小さき門番の姿を見据えた。

 町の外れ。草刈りの手が行き届いておらず、背の低い草葉で埋め尽くされた地べたの上に、赤錆で覆われた小さな金属板がちょこんと座していた。

 こいつが、今日のあたしの相手。頑固なる『門番』である。

 腰を落としてすっと構えをとる。

 全身に力を充溢(じゅういつ)させ、絶対打破の決意を載せた眼光を飛ばす。

 ふぅぅぅぅ……!

 腹に息を入れ、足を大きく振り上げた。


「ぜいやぁぁぁぁあっ!」


 振り上げた足を、地べたの金属蓋に向けて思い切り振り下ろす。


「ソイヤッ! ほいしょおッ! あらよっ! ちぇいさっ!」


 一度だけじゃ終わらせねえ。

 何度も何度も、繰り返し蹴りつける。

 自身の足を金槌のように見立て、頑固者の金属板に対し、リズミカルに打撃を加えていった。

 一撃ごとに金属蓋の形が歪む。

 地べたの上にきっちり嵌っていたはずの蓋が、次第にガタガタと振動し出すようになっていく。


 ズゴンッ! ザスッ! ドゴンッ! ――バキャンッ!


 元の形状を保てなくなった金属板が、くわんくわんと音を鳴らし、“穴”の上を踊り出した。


 ――ふっ、お前は強敵だった。このあたし相手に一分は()ったんだからな……。誇っていいぜ、小さな門番君。


 絶対に口には出せないどこぞの漫画主人公のようなセリフを心中で呟きつつ、とどめの一撃を全力で振りぬいた。

 それまで一撃の度に確かな手ごたえを返してきた金属の蓋が、ようやくメリメリと地面に沈み込んだかと思うと、そのまま”下”へと落ちていく。


 ……ヒュウン、カラカラカラカラカラ……。


 蓋としての役目を果たせなくなった金属塊が、悲しげな風切り音と共に足元の闇に飲まれて消えていった。

"下"の硬質な地面を転がる、寂しげな音がこちらまで届く。


 ――ふう。


 よっしゃ。これでようやく”開通”だな。

 額に浮いた汗の玉を袖で拭って満足げに頷いていると、先ほどまで後ろに下がっていたアリスとリーティスがこちらまで歩み寄ってきた。


『あ、凄い。開いたわ』


 開通した”入口”を見たアリスが、嬉しそうに両の手を打ち合わせた。


「結構硬かったよな。苦労したぜ」


 踏みつけている最中、少し楽しいなと思ってしまったことは秘密だ。

 特殊な店の「女王様」は普段こんな感じの満足感を味わってるんだろうか……いや、やっぱりそれは違う気がする。


『ちょっと乱暴すぎる気もしますけど……。まあ、後で侯爵様に手紙を出して弁償代を立て替えてもらいましょう』

『リーティスも案外図太くなったわね? サラッと他人に責任を押し付けちゃうんだもの』

『ええっ!? 私、そんなつもりじゃ――!』

『いいのよ、リーティス。こうなったのも全部お父様が悪いんだから』


 キャイキャイ騒ぐ友人達を尻目に、あたしは目の前に空いた大きな黒い穴の傍に屈みこんだ。

 草の生い茂る緑色の地面の上に、その丸い入口だけが、濃密な闇の色を浮かべている。


 目の前に空いた巨人の眼窩のように大きく黒い穴は、この町の地下へと続く塞がれた通路の一つだ。

 何とかそのこじ開けに成功したことを確かめ、用意したランプをその上に掲げた。

 目を細めて中をのぞき込むが、黒々とした大穴の輪郭以外に、何も見ることが敵わない。

 ……この中に死体をぶち込んでおけば、誰にも見咎められないまま完全犯罪が成立するんじゃなかろうか。

 そう思ってしまうほどに、生あるものの侵入を拒絶するような暗黒世界が目の前に広がっている。


『――さすがにここから奥までは見通せないわね。ねえ、リーティス。ここで合ってるのよね?』

『ええ。ここからこの町の地下――鍾乳洞まで降りられるはずです。そして、……町の外まで、地下道が続いているはず』


 鍾乳洞か。富士の樹海下……なんてものを今持ち出すのは、不謹慎なんだろうな。

 ――っと、そうだ。辞書手帳、辞書手帳っと。

 

『アタシ、 サキ ニ モグル。 ユックリ ススム カラ ツイテコイ』

『はい! ちょっと怖いですけど、二人が一緒にいるなら……』

『あら、リーティス。怖いの? なら、手を繋いでてあげようか?』

『それは……その、恥ずかしいので遠慮します』

 

 およ?

 こういう時は、アリスとリーティスの関係性が普段と逆になるのか。

 この町で昔の知り合いたるユーノと再会して昔のことを思い出したことも影響してんだろうが、リーティスは、少しずつ本音を表に出すようになってきている気がする。

 この二人の関係性は、見ていて飽きない。本当、仲が良くて羨ましい限りだぜ。

 ま、あたしと兄貴ほどじゃないだろうけど。


 そんなことを考えている内に腰に括りつけたロープ強度の確認が終わった。

 よし、んじゃ、行くか。

 リーティスからランプを手渡され、それを抱えたまま足から穴の中に降りていく。

 ジャリ、ジャリと音を立てながら土に手をかけ、殆ど垂直方向にどんどんと(くだ)っていく。

 洞窟内の夏も冷たい空気が首筋から吹き込んできて、体がぶるりと震えた。

 頭上の、穴を覗きこむ二人の少女の顔がどんどん小さくなっていくが、まだ穴の底には足がつかない。

 太陽の光が届く世界から遠ざかって行くことに、柄にもなくちょっぴり不安感を覚えた。

 ようやく両の足が硬い地面の感触を伝えてきた時には、思わずほうと息が漏れちまった。


『ツイタ!』


 報告の言葉と共に頭上を見上げると、そう高くはない天井の位置に二人の少女の姿があった。

 延々と穴を下り続けていたような錯覚があったが、実際の移動距離は3メートルもなかったようである。


 あたしの後を追って穴の縁とロープに手をかけながら降りて来る二人を見守りつつ、緩みそうになる心に想像上の前蹴りを叩きこみ、緊張を維持する。


 ――こっからが本番だ。ユーノの恩に報いるためにも、二人を無傷でアルケミの街まで届けなきゃ――あたしの女が廃るってもんだぜ。


 緊張に引き締まった顔でゆっくりとこちらに降りて来る二人の友人を見上げながら両の拳を打ち鳴らし、決意を新たにした。


 何故彼女達がこのような洞穴に足を踏み入れれているのか。

 その理由は、次話で。


 ……その明日までに、三人称の呪いから脱却してみせます。

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