第七十七話:<金髪少女に狂った男:終>
遅刻、申し訳ありません。ただ、その分内容は濃くなっているかと思います。
「――モリガン君、モリガン君。聞いているのかね?」
「あ、はい! 申し訳ありません。少々疲れがたまっておりまして」
「はははは、まあ、無理もない。今日この王都についたばかりとあれば、疲労もそれなりであろう。おまけにこの椅子に座っているというのだ、微睡むのもしょうがあるまい。どうだね? 最高の座り心地であろう」
「は、はあ。そうでございますね」
追従の言葉を述べた恰幅の良い壮年の男性――モリガンはしかし、言葉とは裏腹の戸惑いの視線を、目の前にいる男の足元に投げた。
そこにあったのは、人間の首。
短く剃り上げられた黒髪の頭を俯かせる、一人の少年の首だった。
牛のような体勢で手足を地につけている少年。
その背には、壮麗な飾りつけの施された柔らかな座部と背もたれが載っていた。
その座部に足を組んで悠然と座し、グラスを片手に寛いだ様子でモリガンを見下ろす男がいた。
先ほど、忍び寄る睡魔に打ち負かされかけていたモリガンに声を投げた人物。
ノワール王国の中央貴族、クラウゼル=フォン=ㇵプストン公爵その人だ。
「ふむ? ひょっとして君、この”椅子”を、どこぞの娼館で饗される低俗な腰かけ用の裸婦なぞと混同しているのではないかね?」
モリガンの惑乱の態度を見て取った公爵が、顎の豪奢な金鬚を手で梳きつつ首を傾げ、静かに尋ねかけた。
「い、いえ、そのような……」
「ははははは! いや、失敬。そういえば君は王都に来たことが殆ど無いのだったな。これからは中央に進出しようというのだ。この機会に多少なり貴族の心構えというものを学んでいくと良かろう」
そう前置きを述べた公爵が鬚をいじる手を休め、給仕されたグラスを口元に運びながら言葉を続ける。
王国の運営に携わる自身の下を土産金持参で訪れ、「中央で出世をしたい」のだと告げて教示と後援を依頼してきた地方領主の男に、幾らかの心構えを教えるために。
「君、”貴族”とは何だと思うかね?」
「はっ。貴族とは、国に身を捧げ、それを誇りとする気高き存在のことであります」
「ははは、教本通りの答えだね。だが、それでおおよそ正解だ。では質問を変えよう。その”国”、とは何だと思う?」
「国……ですか? 国王と貴族が統治する、外敵から身を守り、内をより発展させるための団結機構、でしょうか」
突然の問いに頭を捻りつつも、真面目に答えを返すモリガン。
目の前の男が、いったい何の意図をもってそんな質問をしているのか。
それを推し量れぬまま、ただ曖昧に自分の心に浮かんだ答えを示した。
「ふむ。まあ、間違いではない。しかし、それは事の本質を捉えているとはいえんな。答えを言おう。”国”とは即ち”国民”だ。我々貴族は、全ての国民を愛し、国民のために働くことで国を支えているのだよ」
愛すべき”国民”を無機質な家具のごとく扱っている当人が、そのような回答をする。
一点の曇りもない笑みを、顔に浮かべて。
どう反応を返すべきか分からず、黙り込んでしまったモリガンに対し、公爵は懇々(こんこん)と教示を続けた。
「この私程にこの国の人々を愛している者など、そうそうおらんだろう。私には、その自負がある。もし君が、今の私の行動と言葉が一致していないと考えるならば、それは大いなる誤解というものだ。
貴族は”全”を見る存在であって”個”を見る存在であってはならん。そうだな、従軍経験のない君とて、戦争の何たるかは知っておるであろう?
将軍は、指揮官達は、そして隊長たちは、自軍を勝利に導くべく指針を示し、兵たちを動かす。その際、指揮官たちは心を鬼にして彼らを死地に送り出さねばならん。個の命を過度に気にかけて全局を想像できぬような愚か者に、将官としての資格はない。
私は、政治もまたそれと同じであると考えておるのだよ。今の私は、一人の愛すべき国民を尻に敷いている。だが私は、目の前にいるこの国民に直接手を差し伸べたりはせん。それは、この仕事を選んだのもまた、彼自身であるからだ」
不意に、モリガンの体がガクンと大きく揺れた。
彼の”椅子”が、その華奢な体躯でモリガンの巨体を支えきれず、崩れ落ちてしまったのである。
モリガン達の背後に控えていたローブ姿の給仕がモリガンに詫びの言葉を告げ、先ほどまで椅子であった者を肩に担ぎ、退室していった。
だらんと力なく体を折った茶髪少女の姿が、扉の向こうへと消える。
ひとまずの替えの椅子として、ごく普通のソファーが運ばれてきた。
そこに腰を据えたモリガンの耳に、中断されていた公爵の言葉が再度届き始める。
「先ほどの彼女とて、夜の街角で男を誘う化粧でもして立っておれば、金を稼ぐことなど難しくあるまい。その上で尚、彼女はこの仕事を選んだのだ。その意思は尊重せねばならん」
モリガンは、ただ呆然とした面持ちで、公爵の講義に耳を傾ける。
「私はこの椅子に座っていると実感できるのだ。多くの国民を直接救う事の出来ない、力無き我が身を。そして私は決意を新たにするのだ。政治をもって国を変え、それをもってより多くの国民に幸せを届けようとね。目の前の人間など、ただの一個人にすぎん。もっと曖昧で、しかし確固たる”全”に奉仕することこそ、私達の使命なのだ」
公爵の主張は、1政治学者、或いは1倫理学者からすれば、興味深い内容であっただろう。
全面的に肯定されうる主張では無いだろうが、論議に足る示唆を多く含んでいた。
しかし、それは決して政治家たちの共通認識という訳では無い。
けれど。
政治とは何か、人としてまっとうな倫理とは如何なるものであるのか、
それらをまともに学んだことも深く考えた経験も無いモリガンは、自分の政治観、倫理観というものを確立できていなかった。
そんな彼にとって公爵の主張は、これからの自分が守るべき絶対のルールであり、一番の指針であると思い込んでしまった。
そして、モリガンが初めて聞いた『国を動かす者』の言葉は、彼にとってあまりに毒が強すぎた。
彼は、自分が選んだ道に、その時初めて恐怖を覚えた。
彼にとってあまりに未知すぎる、国政に関わる者としての道に。
しかし、
「はい、心しておきます」
そんな感情を表に出して公爵に見限られてしまうことを、モリガンはもっと強く恐れた。
心にもない追従の言葉が口から漏れる。
彼の目的……「認められる人間になる」ためには、公爵の助けを借りて中央で成り上がることは、必須の事項であったが故に。
「ふうむ。……おや、”始まる”ようだぞ、モリガン君。今の王都でもっともメジャーな娯楽だ。これから多くの中央貴族達と接点を持たねばならない君にとって、共通の話題というのは大きな武器になる。楽しんでいってくれたまえ」
盛大な声援の声がモリガンの耳元に届いた。
特別席に座ったまま眼下の「闘技場」を見下ろした公爵に倣い、自身もそちらに目を向ける。
モリガンの見ている前で、今回闘争を繰り広げる二人の選手が入場してくる。
一人は、半裸の上半身に幾十もの刀傷を残す、強面の男。
もう一人は、露出の多い非合理な鎧の上に悲痛そうな表情を載せた、金髪の女性。
モリガンの目が奪われる。
その横顔に、彼の良く知る、とある金髪の女性を重ねてしまったのだ。
――いや、違う。”あいつ”じゃない。あいつにしちゃ若すぎるし、そもそもそれほど似ちゃいない。でも……。
「ほう。あちらの新人、元・貴族の娘か。ははは、お座敷剣技と実戦で磨かれた剣技がどれほど違うかのデモンストレーションという訳だ。これはこれは、趣味の悪い。――おや、モリガン君。あちらの女性が気になるのかね? ふむ――闘技場賭博であちらの女性の勝利に賭ければ、いくばくかの金が彼女に入る仕組みだ。彼女の解放を支援したいなら、そうすると良い。まあ、彼女の解放は当分先になることだろうがね」
どうやら彼女は、貴族の位を捨てて家を出た後、何らかの犯罪を犯したか、莫大な借金を負うかして、闘奴の身に落とされた娘であるらしい。
闘技場では珍しい女性剣闘士の登場とあって、闘技場の観客たちがにわかに大きな熱気に包まれる。
下から沸き上がってきたそんな熱気を意に介さず、
震える手で剣を構えて男と対峙する金髪の少女を、モリガンは食い入るように見続けていた。
「ねえ、あなた。最近少し、出費が多すぎませんか? 王都での地盤固めが大事だという事は承知しています。けれど、この領の財政もそれほど豊かなほうじゃありませんもの。子供達もだいぶ大きくなってきたことですし、暫くはこちらに腰を据えて――」
「黙りなさい。何様のつもりですか? 貴族の妻が夫に意見するなど。ましてや領の行政に関する事項に口出しするなど、あってはならないことです」
「ご、ごめんなさい。出過ぎたまねを……」
「いいから、出ていきなさい。私はこれから財務官との打ち合わせがあるのです」
ぺこりと頭を下げて部屋を出ていく妻を、モリガンは頬杖をついて見送った。
彼の妻は、実に気立てが良い女で、三人の子供達を良く育て、家の者達にも慕われていた。
けれどモリガンは、そんな彼女のことが気に入らなかった。
何故、そう感じるのかは分からない。
しかし、おずおずと意見を具申し、夫に否定されれば黙ってそれに従う彼女のことが、どうしても好きになりきれない部分があったのだ。
彼女は妻として夫たる自分のことを認め、支えてくれているのだと。いくらそう思わんと試みようと、モリガンは満たされなかった。
恐らく誰よりも今の自分を認めてくれている、自分には勿体ないほどの良い相手であるにも拘らず、だ。
――出費が嵩むのはしょうがないでしょう。中央貴族との会談、袖の下、趣味合わせ、幾ら金があっても足りません。闘技場に通い、払っている分の費用が少々多いですが、王都で最も有名な娯楽です。これくらい、許容範囲のはず。それに、まだ収入を増やすアテは――
トントン。
退出していった妻との入れ替わりで、ドアがノックされた。
「入りなさい」
「失礼します。男爵様、――この指示書は、いったいどういう事なのでしょうか」
挨拶もそこそこに懐からモリガンが執筆した一枚の紙を取り出した白髪の財務長官が、額の汗を拭いながら主に尋ねる。
「書いてある通りですが? “その村”への一極的な富の集中は目に余ります。他の街に比して、明らかに村人一人当たりの収入が多すぎます。”全”への配慮が欠けている。”個”にこれほどまでの利を与えるのは、間違っているでしょう」
「は、はあ。しかし、これ以上の税を課しては、王国法に反すことになってしまいますぞ」
「方法は任せます。これまで単独で豊かな暮らしを享受してきた連中です。多少大目に搾り取ってしまって構いません」
“個”たるその村からもたらされた収入は、自分という存在を通して”全”へと還元される。
モリガンは、そう考えていた。
「いえ、しかし……」
「私が次に領に帰ってくるまでに、案をまとめておいてください。頼みましたよ」
反論を述べる暇も与えず、「これは決定事項だ」と言外に語るモリガン。
そんな主の姿を見て、心中でため息を吐いた白髪の老人は、背中を燻らせながら部屋を退出していった。
モリガンはその時には既に、次の王都行で何をしようかという悩みに没頭していた。
その頭の中には、自身が先ほど命を下した”村”のことなど欠片も残ってはいなかった。
モリガンが王都行を終え、自領に戻ってきた時。
その哀れな"村"を搾取するための包囲網は、既に完成を迎えていた。
「あん♡ やだ、モリガンさまったら~。ね、今日も私を指名して下さるんでしょう? そうよね、そうよね?」
「黙れ。今はまだ良いが、寝所では口を噤んでいろといつも言っているはずだ。お前の声を聞くと吐き気がしてくる」
「え~、結構人気なのよ、私の声。この前なんてね、『ああ! プラチナブロンドの美しき金髪の娘よ! お前の口から漏れ出るは、どんな一流音楽家にも紡ぎ出せぬ、至高の音色! その喘ぎ声は私の脳髄を溶かし――』」
「いいから口を閉ざせ! これ以上その声聞かせてみろ! お前の主人が経営する娼館を潰し、貴様らを路頭に迷わせてやる!」
「は~い」
たとえ男爵といえど、他所の、それも各上の貴族の領内にある店、
その中でも、領内随一の規模を持つ娼館を潰すことはさすがに難しい。
例え潰されたところで、すぐに別の「主人」を見つけることのできるだろう娼婦にとって、そのような脅しは殆ど意味をなさない。
それを分かっているからこそ、この女は貴族相手にこのような軽口を叩けるのである。
とはいえ、客の中でも抜群に金払いが良く、予約が重なる時は元の予約相手の3倍の金額をポンと出すような上客を怒らせすぎるのは流石によろしくない。
娼婦の女は気持ちを切り替えて口にチャックを閉め、男爵の馬車まで着いていく。
――それにしてもこの豚男、会うたびに腹が前に出てくるな~。まったく、その巨体に押しつぶされる側の気持ちになってみろっての。
娼婦の女は表面上にこやかに取り繕いながらも、心の中で相手への罵倒を呟いた。
娼婦の呟きの通り、モリガンの腹はここ数年でブクブクと醜く膨れ上がってきていた。
ようやく中央で官職を得たことで、本格的に王都に居を構え、世話になった貴族達やこれから世話になる者達を歓待していた結果だ。
歓待の場では豪勢な食事や酒を流し込み、新しく覚えるようになった気苦労を酒で解消するようになった。
もともと積極的に運動に励む方では無かった上に、近頃では老いも手伝って、王都と自領を往復する間もほとんど馬車を出ずに過ごすようになったモリガン。
その腹は、満たされた者の幸せな膨らみ方でなく、不満や苛立ち、あらゆる悪感情をねじ込まれたかのように醜く出っ張っていた。
「男爵様。着きましたぜ」
「ああ、ありがとう」
男爵の馬車が到着したのは、貴族が足を踏み入れる場とは思えぬほど危険な香り漂う裏路地だった。
町内の連れ込み宿を片端から試していたモリガンだったが、最近はこの宿を使うことが多くなっていた。
妙な薬臭さを漂わせる建物、ごちゃごちゃと正体不明の物品が積み上げられた室内。
それらが合わさって醸し出される雰囲気が、彼にとってどこか郷愁を掻き立てさせられるものであったことが、その理由だ。
わざわざ建物の持ち主と交渉して、「この環境を維持してくれ」などと頼み込むほどである。
男爵やその護衛達に見えない所で盛大に顔を顰めた娼婦の様から、相手方の気持ちは推して量るべきであるが。
「では、護衛任務を頼みますよ」
「はっ! お任せ下さい。怪しげな格好をした奴らは一人も通しは致しません!」
「いや、ここって怪しい格好の奴らだらけな気がするっすけど……」
「おい黙れ新入り! 男爵様。どうぞお気になさらず、行ってらっしゃいませ」
護衛達に送り出されたモリガンは、金髪の娼婦の腕を引き、建物へと足を踏み入れた。
その、翌日。
モリガンの巨体の攻勢に体の節々を痛めた娼婦を引き連れて建物から出てきたモリガンが見たものは、
押しくらまんじゅうで骨身に染みこんだ寒さを耐え忍びながら誰が主人に「自分たちの失敗」を報告に行くかを押し付け合い、喧しく騒ぐ護衛達の姿だった。
コンコン。
「男爵様、お客様がお見えになっておりますが……」
「客? どなたですか?」
「侯爵様の娘だと名乗っておられます。腕の紋章も確認いたしましたので、おそらく本当かと……」
――侯爵の――娘?
昨晩、護衛達の身に何かが起きたのだという事は察せられたものの、肝心の情報源が揃って口を噤んでいたが故に、どう対処すれば良いのか思案に暮れていたモリガンの下に、宿の者からの伝言が届いた。
伯爵領での”息抜き”を終え、さてこれからまた王都に参ろうかとした矢先の出来事であり、いったい何者なのかと首を捻ったモリガンの脳裏に、先ほど自領から届けられたばかりの手紙の文面が浮かんだ。
その内容はまず、自領の邸宅が仮面の男女二人組に襲われ、てんやわんやの大騒ぎとなっていること。
そして、自分がとある目的のために”契約”している盗賊団の使いの者から、奇妙な連絡があったこと。
その連絡は二つ。
まず一つは、『金髪の貴族の少女』を捕えた、自分と話をさせてくれという報告。
もう一つは、その報告は団員の悪戯だ、我々盗賊団はそんな娘は捕まえていない、という報告。
代官の者も事情が良く分かっていないらしく、伝書鳩を用いた急ぎの連絡にも拘らず、ただの事実報告のみとなっていた。
パシルノは盗賊団のその報告の重要性――その『貴族の少女』というカードがどれほどの価値を持つのかを、この段階では理解していなかった。
ただ、珍しい偶然もあるものだと思い、何の気なしに使いの者に尋ねた。
「その娘の髪色は?」
「は? ――金髪、でしたが」
「ふむ? まあ、良いでしょう。通してください」
護衛官と身辺の世話係に命じて、身の回りを整えさせたモリガンは、部屋に設えられた高級そうな木製テーブルの端に席を用意させ、悠然と客の到着を待ち構えていた。
やがて、ノックの音も無しに、宿の一室の扉が開かれた。
まず姿を現したのは、短い黒髪の上に、古風な刻み紋様のカチューシャを載せた、どこか獣めいた雰囲気を持つ少女。
高級なカーペットの上を音も無く進んだ彼女は、モリガンの正面に備えられた席の背後までやってきた。
そこで、腕を組んで佇むことを選び取る。
気のせいか、自身の背後に並ぶ護衛達が彼女の登場に騒めく気配を感じ取ったモリガンだったが、次の瞬間、その些細な気がかりは、より大きな衝撃にとってかわられた。
部屋の入口から続けて入室してきた、一人の少女の姿を見て。
「ラ、――ラターシャ?」
思わず口走って、すぐに違うと気づく。
美しい金髪に、どこか精巧な人形めいた青の瞳に、引き結ばれた口元。
豪奢なドレスに身を包み、かつてのラターシャを彷彿とさせる姿ではあったが、彼女がラターシャであることは有り得ない。
まず、年齢。
ラターシャはモリガンと同い年だ。
若返りの魔法なぞ、彼はその存在を聞いたことが無い。
そうである以上、彼女がラターシャその人であるはずがないのだ。
次に――胸。
思わず目が行ってしまったそこには、ラターシャであれば幼いころから発育していたはずの果実の姿はなかった。
「――噂に違わぬ最低野郎みたいね。初対面のレディー相手にまずやることが胸を覗き込むことなの?」
けれど――この、罵倒の言葉は、
“彼女”と比べれば、感情の色が籠りすぎている、そんな言葉ではあったが、
あの”彼女”と同じ、自分の――モリガンに対する真っ直ぐな否定と咎めの気持ちが載せられた言葉だった。
思わず口を大きく開けて呆けてしまったモリガンの耳に、やはり”彼女”の――ラターシャの声音によく似た、鈴の音のような声が届く。
「お初にお目にかかるわね。私はアリス・スカーレット・ヴェルティ。栄えあるノワール王国貴族、ヴェルティ侯爵家の息女よ。今日は貴方に用があってきたの、モリガン=トラグストフ=パシルノ男爵。話を聞いていただけるかしら」
はい、すいません。予告詐欺をしてしまいました。
明日で、本当に彼の話は完結となります。頑張って執筆いたしますので、お許しください。




