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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第五章:そして役者が揃い出す
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第七十二話:一期一会もいいけど、一生のうちで何度だって会いたいと思う友人だっているものよね<再会に次ぐ再会>

 遅れました。……ちょっと現実(リアル)でショッキングなことが有ったので、落ち込み気味です。筆には表れていないと思いますが、もし文章に影響が出ていたらごめんなさい。

 side:紅


『世の中は狭いって言いますけど……』

『こういうこともあるもんなんだねー。ま、お互い健勝そうで何よりじゃん』

「えーと、お前ら、知り合いか?」

(あ、すいません、ベニさん。今から通訳しますね。ええと、この子は私の学友で、ユーノと言います。ユーノ、こっちは私の友人で、ベニさんです)


 ――お? 何気にリーティスに「友人」って言って貰ったのはこれが初めてな気がする。ちょっと嬉しい。

 

 心地良い真夜中の静寂と、鬱陶しい夏の蒸し暑さが併存する宿の一室。

 その中央で、仮面少女(ユーノ)と、司祭少女(リーティス)が抱擁を交わし、数年ぶりの再会を喜び合っていた。

 声を潜めてキャイキャイと騒ぐ二人の笑顔から、その仲の良さが伺える。


『おおっ。何ですかい、リーティスさんや。あんたまた大きくなってんじゃん。ちょっと(じか)に触らせなさいよー』


 ふと、ニヤリと口元を歪めたユーノがどさくさに紛れ、久々に成長を確かめさせろとリーティスの胸に手を伸ばした。

 

 ……ここに、あの変態妖精がいなくて良かったぜ。

 「(うらや)まけしからん! 早く僕と代わるんだ! でも、少女×少女かあ……こういう絡みもまた、アリだね!」などと騒ぎ出す姿が目に浮かぶ。


『ひゃん! もう、やめてください、ユーノ!』

『……!!……』


 おや?

 リーティスの双丘を掴んだまま、ユーノが何やら雷に打たれたかのごとく動きを止めた。

 そのまま、酷く情けない表情でこちらを振り向く。

 そしてあたしの胸元と自身のそれを見比べた後、ほっと安堵の息を吐いた。


 イラッ。


 今こいつが、何に恐れを抱き、何を不安に感じ、何を見て安心したのか。

 そんな思考の流れが、あたしには手に取るように分かった。

 そんなに、安心したのか? 

 ……そりゃ良かったな。


 リーティスは着やせするタイプだ。

 それも、かなり。

 初めてリーティスと一緒に水浴びをした時。

 あたしは、体の底から沸き上がった圧倒的敗北感と矮小(わいしょう)感に、押しつぶされそうになった。

 神々しすぎる母性の象徴の前で、その威光に打たれ、膝を屈したのだ。

 魔石とタオルの入った木桶があたしの手から滑り落ち、石畳をコロコロと転がっていったことを覚えている。


 もう神官やめて、女神にでもなってくれよ、リーティス。

 女神像のそこがデカいことに対してなら、劣等感を感じることはねえんだからさ……。


 ああ、ちなみにユーノは柑橘類で例えるなら蜜柑サイズだ。

 取りあえず、自分の「常識」を守る防波堤としてあたしを選びやがったユーノの頭を、軽くひっぱたいておく。

 言葉で文句を言えない以上、こうして行動で示すしかない。


 ――やっぱ、もう少し真面目にこっちの言葉を勉強しとくか。


 両手を合わせて非礼を詫びてくる少女を見ながら、今更ながらに文句の言葉すら相手に届けることのできない不便さをしみじみと実感する。


 オロオロとあたし達の無言のやり取りを眺めていた勝ち組少女(リーティス)

 そんな彼女に、会釈でもってもう少しユーノとの談笑を楽しんでいれば良いという旨を伝え、あたしの方はアリスの眠るベッドに腰を下ろした。


 それにしても、まさかこの元・仮面少女がリーティスの知り合いだったとはな。

 結果論だが、危険人物の可能性を考慮して、連れてくるまで気を張りつめていたあたしが馬鹿らしいぜ。


 想像以上の成長を遂げた友人に気圧され、頭を掻きながら会話を続けているユーノ。

 その、普通の女学生のような後ろ姿を眺めながら、ため息を吐く。


 リーティスの学友って割には少々擦れた雰囲気の奴だけど、こうして数年来の旧友と語らっていると、大勢の男共相手に威勢よく挑発を投げかけていたような人物には見えねえな。

 ――そういや、今のこいつは「仮面」を外しても平気なんだな。あの仮面には何の意味があったんだろう?


 そんなことを考えている間に、二人の話が一段落ついた。

 あたしがユーノを助けた経緯をら聞いたリーティスが、何とも悲しそうな表情でこちらを振り向いた。


(ベニさん。ユーノを助けて下さったことは感謝していますけど、これからは勝手に外に出たりしないでくださいね。私、本当に心配だったんですよ?)


 ――ああ、もう。そんな表情をしないでくれ。


 さすがにこんな悲しそうな顔を見せられたら、言い訳する気も起きねえ。

 

『ワカッタ コレカラ ゼッタイ ヤラナイ』


 その言葉は素直に口から出てきた。

 ぱっと顔を明るくして満足そうにコクコクと頷くリーティスを見て、やっぱりこの少女には敵わないな、という思いを強くする。

 素直な想いの籠った言葉というのは、どんな小奇麗な建前で飾った言葉よりも、相手に届くもんだ。


『いやー、それにしてもまさかそこのお姉さんが言ってた“通訳できる人”がリーティスだなんて夢にも思わなかったよー。あともう一人ここにいるんでしょ? んーと、そこで眠ってる人かな? 私の知ってる人?』

『はい。うふふ、ユーノも良く知ってる子ですよ。まだ朝には早いですけれど、せっかくですから起こしちゃいましょうか』

「ああ、んじゃ、あたしが起こすよ」


 布団にくるまって、すやすやと気持ちよさそうな寝顔を見せているアリス。

その肩に、手をかける。

 おーい、アリス。夢の世界から戻って来ーい。


 肩を揺らすこと数秒、アリスの瞳がパチリと開いた。


 『ん~、おはよ、ベニ様。もう馬車の時間? まだお外暗いみたいだけど』


 目をしぱしぱと瞬かせ、伸びをしながらとぼけたことを呟く金髪の少女。

 その乱れた金髪を整えるのを手伝いながら、歓談中の二人を振り向く。


 そこには、顎が外れるんじゃないかと思うくらいにあんぐりと口を開いたユーノの姿があった。


『あれ、ユーノ? ユーノでしょ! 久しぶりね!』

『あ、うん、久しぶり……ってそうじゃないから! え? ちょっと待って、何でアリスがここにいるの!?』

『何よ? いちゃ悪い?』

『そうじゃないよ! いや、だから、そもそも私達(・・)がこの町に来てるのってアリスを探してたからなんだけど……、え、本当になんでここにいるの?』


 ――おいおい、どういうことだよ。


 なんか、またあたしだけ置いてきぼりなんですが……。

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