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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第四章:未だ遠き再会の日
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第五十七話:戦車が強力なのは攻防一体が故。装甲さえ無くなれば、脅威度は下がる。<鎧剥ぎ>

 遅れました……すいません。


 今回は、少々特殊な書き方をしております。読みやすさはいかほどでしょうか?


 side:オールスターズ

「……なるほど、分かった。お前を信じてその作戦に乗ろうじゃないか」

「ありがとう、アシュリー」

「本当にあの怪物を倒せるというなら、どんな手段だってとってやるさ。 ――みな! 聞いていたな! 腕に覚えのある剣士と、そいつらをサポートできる魔法使いはこいつらについていけ! それぞれの『ポイント』をチクチクと攻めてやるんだ! 数人体制で交代交代、攻撃を切らすな!


 ヒャハハハハ!! 面白くなってきたじゃねーかよお! 

笑いが止まらねえ。腹を抱え、地面に背をつけて転がるも、笑いが収まる気配がねえ。

 周りの低級冒険者どもが睨んでくる。おいおい、何だその狂った人間を見るような目は? お前達もさっきまでたっぷりと戦場の狂気に身を委ねてただろうによ。


 あのデカブツを「倒す」っつったな、あの餓鬼!

 「退散させる」でもなく、「時間稼ぎをする」でもなく「ぶっ殺す!」っていう選択肢を選ぶわけかァ。

 そうか、そうだよ。

 そうじゃなくっちゃいけねえ!


 我らがアシュリー?……アルだっけか? 隊長サマの――俺達だけじゃあ化け物を倒せそうもねえから、こそこそつついて注意を引きつける――って判断は、まあ、あの状況なら間違っちゃいなかっただろうぜぇ。


 だが、だがよぉ!


 いつまでもいつまでもそんなルーティンワークばっかさせられちゃあ、

 クソみたいな鬱憤が溜まりに溜まりまくって、

 いい加減、おれのハートが、破裂寸前ゴミ袋だろうがよォ!

 

 懐から、おれの可愛い可愛い武器ばくだんちゃんを取り出す。

 どんな上物の娼婦だって敵わない、その艶めかしいフォルムをうっとりと見つめる。それが破裂した際に起こる、血肉袋の炸裂を思い描き、さらに興奮を加速させた。


 おれはもっと、あの魔物が痛みに身を捩り、苦悶に声を上げる姿が見たいのさァ!

 おれの爆薬で、あの無駄にデカい体を炸裂させてやったらどんだけ痛快かねえ?

 

 ヒハハハハ!!


 さあ、派手にいこうぜぇ!

 この戦場に、爆炎と血の花火を上げてやる!

 案内願うぜ、少年達よお!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ノエル、行くぞ!」

「はいっ、隊長!」


 年若い獣人少女を伴った少年があの緑の化けもんに突っ込んでいった。


 ああ糞、あほか! 何で俺らがあんなふざけた化け物と命かけて戦わなきゃいけないんだよ!

 少年の後を追って飛び出して行った頭のいかれた奴らを見送り、心の中で今日何度目か分からない愚痴を吐き捨てる。

 戦闘継続中でなければ、自分の兜を投げ出してやりたい気分だ。

 そんな心の動きを察知した訳でもなかろうに、銀髪の指揮官殿がこっちに顔を向けてきた。


「おや、君はいかないのかい? 先ほどの戦いを見て、それなりの腕があるようだと見込んでたんだけどね?」


 おやおや、文句でもありますかい? アル隊長殿? 誰よりも先に闘いの理由を『自分』に置くと高らかに宣言し、この戦いが始まってからも、一番安全な指揮官の位置から動かないような素晴らしいお方が、いきなり前線で働かされたこの私めなんぞに意見をくださるとはね。


「あまり大勢で行っても邪魔にしかならんでしょう、アル隊長殿。それに、控えの戦力はあった方が良いのでは? 私以外にもそのように考えている者は多いようですが?」

「……ああ、確かに残っている奴は多いね。パーティーを組んでいないソロ剣士の男どもが殆どか。……そして大怪我を負っている者は一人も無し、と」

「あにょ、私もいるんですけど……」

「君には、私の傍で一緒にサポートをとお願いしているからね。彼らとはわけが違う」


 はんっ、何とでも言ってくれや。元々俺達はこんなふざけた仕事をするために冒険者になったわけじゃないんだ。何が悲しくて、縁も所縁も執着も無い小さな街のために命まで賭けなきゃいけねえのさ。   

 

  精々今は、少しでも生き残りの確率を上げるために体力を蓄えさせて頂きますよ、指揮官殿。どうせ後々働かされるんでしょうしね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――ふん。まあ、こいつらが動かないのは予想通り。さっきまでのように「狂気」のままに戦わせれば良いというような単純な作戦でない以上、これが最善の態勢か。……その「最善」が結果的に屑どもの生還可能性を上げると思うと腹立たしいけどね。


 屑どもから背を向け、カオル少年達の方を見やる。

ちょうど、暴れまわる怪物の肌に取り付いた所のようだ。

 

 彼の両手が閃き、化け物の頑強な鱗に図形を描く。

 さらに、隣にいた獣人の少女がその図形に青く輝く水魔石をぶつけた。


 彼らの所業を受けた怪物だけど、反応する様子は無い。

 “作業”を終えた彼らは、そのまま地上に着地し、見事に怪物に攻撃も発見もされないコースだけを見繕って他のポイントへ急ぐ。


 恐らく、他の箇所でも同様の作業を行うんだろうね。

 けれど、私にそちらを確認している余裕は無かった。


 逃げ遅れた冒険者の一人が、転げまわる化け物に轢かれそうになっていたんだ。

 寝相の悪い子供を彷彿とさせる間抜けな動きだけど、あの大質量でローラーされれば、人間のヤワな身体などひとたまりもあるまい。


 ふうと一息吐いた私は、地の魔石を地面に叩きつけ、その冒険者を救うための術式を編み上げた。

 20メルトル先の地面が盛り上がり、弾ける。

 突然の足元の爆発に面食らった冒険者の少年が、足元から生えてきた土の柱に弾き飛ばされ、安全圏まで吹き飛んでいった。

 後の回収は、風魔法が使えるらしい彼の相棒ちゃんに任せることにしようか。


 先ほどまで彼がいた地点に、化け物の背が盛大な地響きの音と共に落下する。

 その怪物の腹に、土巨人の右足が突きこまれた。

 私があの土巨人なら、そのままぐりぐりと腹を踏みにじっていたところだけど、偉大なる土精霊はそんな俗物的な振る舞いはしないらしいね。

 伸ばした腕で化け物の肩と首を抑えこみ、拘束を試みている。

 

「ふえぇ、すっごーい」 


 サポートの少女が、私の背後で感嘆のため息をついていた。

 私もそれには共感するよ。やはり、一土魔法使いとしては、あの土精霊の勇姿には惚れ惚れとさせられてしまうよね。


「アルさんって、本っ当に土魔法を上手く使いますね! 私だと、あんな離れた場所に繊細な制御が必要そうな魔法は使ちゅかえ……使えませんもん!」


 ……感心するのはそっちなのかい?

 褒められるのは嬉しいけれど、土魔法使いとして私の上位者が召喚した“精霊”を前にしている状態で――


「ね、ね。それなら、あたしだって凄いでしょ? ちゃんと『強い』と思わな~い? カオルはあたしに対する評価が低すぎなのよ~。この戦いでちょっとくらい見直してくれないかしらね~」


 ――しかも、その「上位者」が傍にいるこの状況では、その嬉しさも半減というものだ。


 とは言いつつも、先ほどから私の顔はずっと笑みを浮かべ続けている状態だ。


「あら~? 女隊長さん、やけに楽しそうね?」

「そう見えるかい?」

「あ、私もそうおみょいました。なんか、さっきまでと違って余裕がある感じの笑顔をしてますよね」


 余裕ね。

 そりゃあそうさ。

 

「今私達がしているのは、先ほどまでのような終わりの見えない、絶望的な時間稼ぎの戦じゃない」


 髪をかき上げながら、言葉を放つ。ついでに、噛み少女に向けてウインクを投げておく。くくく、「この戦いが終わったら」、きっと君を口説き落としてみせるよ。

 笑顔を深くし、さらに告げる。


「そう、だから今、私は楽しくてしょうがないのさ。希望しか見えないこの戦いがね」


 そう。

 今の私達には、勝算がある。

 ならば、一生に一度しかないこの戦いまつりを楽しむことだってできるというものさ。


 そう告げた私の目の前で、いよいよ私達の本格的な「攻撃」が始まろうとしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「隊長っ! 羽に通う魔力が強まりました! 羽の一撃が来ますっ!」

「問題ない。回避可能だ。このまま走り続けるぞ」


 今俺達がやっているのは、「竜の皮剥ぎ」だ。

 冒険者たちの攻撃を悉く弾き続けた、鋼よりも強固な竜の鎧だが、俺のダガーでなら削り取ることができる。

 とはいえ、一気に剥ぐようなことはしない。

 今は「切り込み線」と「起爆スイッチ」を竜の体のあちこちに仕込んでいる。

 細工は流々。後は冒険者たちの仕上げをご覧じろという状態を作っているのだ。


 走り続ける俺達の背後に、竜の双翼の一撃が叩きこまれた。

 ――さすがに、相手の動きを読むための情報が多いと、回避も容易だな。


 竜の体に取り付き、“作業”を続けている俺達だが、ノエルの魔力感知能力の恩恵でその攻撃をある程度予知できるため、先ほどから危なっかしい場面は一つもない。


 竜ほどの巨体を動かすためには、単純な筋力だけではなく、魔力による身体強化が必須。通常サイズの魔物なら、ここまで上手くどの部位の攻撃が来るかの判別はできないだろうが、その無駄に大きい図体が今は俺達の味方になってくれている。


「良し。これで最後だ!」


 都合20箇所目となる「切り込み線」を入れ終え、ノエルが水魔法で氷を張ったことを確認すると、俺達は地上に降り立った。


 暴れ続ける竜の鳴き声や地の揺れる音に負けぬよう、声を大にして俺達の合図を待ち続けた冒険者たちに言葉を告げる。


「反撃開始だ! この魔物に、目にもの見せてやれ!」


 それは、それまで好き勝手に暴れていた竜に対する――俺達の、反撃の狼煙となった。


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