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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第四章:未だ遠き再会の日
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第五十三話:おい、俺達は間に合うのか!?<冒険者VS.竜>

 文章が荒い……後日、大幅改稿します。最近質が落ちてしまってすいません。

 明日、現実(リアル)の方が一山超えて落ち着きますので、それ以降は安定すると思います。

「この中に、中級以上の土魔法が使える奴は居るかな?」

「あ、わ、私、使えましゅ!……すううぅ、使えます……」

「他には? ……いないようだね。」


 ──やれやれ、これだけの数の冒険者が雁首揃えて、情けない話だ。


 肩を竦めるアシュレイの前に、一人の女性が恐る恐る手を挙げて、控えめに存在を主張した。未知の戦いを前にした緊張のためか、盛大に言葉を噛んでしまったその女性は、恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。


「よし、こっちに来い。君には、接敵時、私と一緒に足止めの仕事をして貰う」


 進軍の列から離れ、心配そうに見守る仲間とちらちら視線を交わしながらこちらに向かう女性。その姿を横目に確認した銀髪の指揮官は、革のコートをばさりと翻して前方に険しい目を向けた。

 ここは街郊外の森林。町からの距離はおよそ数キロメートルという場所。

 “ここを突破されればそのまま町まで侵入される”と見込まれる地点だった。

 そこに布陣するのは、辛うじて集まった、最低限の武力を持つ冒険者達。

 指揮官含めて23人という人数は、地響きと共にこちらに迫りくる強大な敵に相対するには、あまりに貧弱に過ぎた。

 筋肉で身体を膨らませたうすら大きい冒険者の男たちが、断続的に揺れる地面と葉を揺らす木々を見て悲壮感漂う表情を浮かべている。その様は、事情を知らぬ者達から見ればひどく滑稽に映ったかもしれない。


 ――まあ、無理もない。既に皆、“敵”の姿を肉眼で確認したのだし。くくく……ようやく君たちも実感が湧いたようだね。自分たちが今「死地」にいるという実感が。


 アシュレイは、くつくつと虚しい笑い声を漏らす。

 森に踏みいる前、彼女は冒険者達に敵の姿を確認させた。

 遠見の魔法具を貸し与えた冒険者達は皆、想像だにしなかった敵の大きさと、王宮の壁より硬いとされる木々を容易くなぎ倒す剛力を見て、魔法具を掴む手を震わせていた。


「待って、指揮官さん」


 突然背後から飛んできた少年の声に、アシュレイは億劫げに振り返った。


「どうした? 何か言いたいことでもあるのかい?」

「あるさ。さっきの作戦だよ。穴になんか落としたら、この場に“あいつ”をとどまらせることになるじゃないか。僕たちの使命はあくまで町を救う事だろ。攻撃を仕掛けて注意を逸らし、別の方向に向かわせるべきだ。充分街から引き離してから全員でバラバラに逃げれば良い。それなら街も、皆も守れる」


 おや、と。

 アシュレイは薄く窄めていた目を見開いてまじまじと意見者の少年を見つめた。

 思いのほか、まともな意見であったからだ。

 しかし、そのまま頷ける内容でもなかった。


「君は、あの生き物が私達の攻撃ごときでどうにかなると思っているのかい?」

「やってみなくちゃ分からないだろ! 町の人の退避が終わって、あの魔物がどっかに行ってしまえば、僕たちだって逃げて良いって言われてるじゃないか。この戦いで誰一人死なせずに済ませる道なんて、それしかない」

「そう思うのは結構。でも今回作戦の指揮を執るのは最高位冒険者の私なんだよね。私の方針には従ってもらうよ」


 ――ふむ、中々目の付け所が良いね、この少年。


 口ではぴしゃりと意見を跳ねのけていながら、女性は内心では少年の意見を評価していた。

 実際のところ、彼女の方針は基本的に少年の主張と同じだ。

 時間を稼ぎ、町民の退避を待つ。既に、町民退避が済めば撤退を許可するという言質はとってある。

 ただし、「一人も死者を出さずに」なんてことは考えていなかった。


 ――“奴”の注意を引くなら徹底的にだ。おちょくり、いたぶり、激昂のあまり私たち以外のものが目に入らなくなるまで、ね。ふふ、そうなると私達が生存できる可能性は著しく下がる訳だけど。


 不満そうな顔を浮かべながら仲間の少女の下に戻っていく少年を、アシュレイは笑顔で見送った。


 彼女と少年との違いがもう一つ。彼女は、確信していた。「町の退避が終わった」などという連絡、おそらくはやってこないだろうと。

 少なくとも、彼らが生きて魔物と戦っている間に、間に合うはずが無いと。


 町の周囲を固めている正規兵たちの助力は、当てにできない。そもそも「彼ら正規兵の減耗を抑えるため」に日頃国から支援を受けているのが冒険者なのだから、それを責めることはできないのだ。

 さらに言うなら、彼らが加わったところで戦線維持が劇的に楽になるということは無い。

 

 正規兵は平常時の治安維持と、戦争時の王国の徴兵に応じるのが主な任務だ。

「人」を相手取って戦う正規軍の内にオーバーキルな大魔法を使える魔法使いなど、ごく少数しかいない。

 そもそも男所帯が普通である軍の中に、実戦レベルの魔法使いは少ないこともある。


「皆、停止しろ。ここで陣を張る。各々の役割は基本、さっき決めた内容の通りだけど、待機位置の指示があるから、一旦私の周りに集まれ」


 寄ってきた冒険者たちに向け、アシュレイはそれぞれの能力を鑑みた上で戦闘配置を割り振り、告げていく。個人参加のものには個人単位で、パーティーで参加している者達はパーティー単位で。


「おい待てや! 何で男が前衛で女が皆後衛なんだよ、こんな時までお得意の男女差別かよ、ボケナス!」

「差別してるのはどちらだい? 女性たちの中に『剣士』がいない以上、当たり前のことじゃないか」


 一人の冒険者が配置に文句をつけた。

 自分が恐怖に震え、怯えていることに対する苛立ちを八つ当たりで解消とする、浅ましい心の表れだと、アシュレイは判断。

 常ならお返しに散々の罵り言葉でも吐き返していたところだが、この時ばかりは相手をするのも馬鹿らしいとばかりに肩を竦めるだけに留めた。


「さて、各自今教えた通りの配置につくんだ。逃げ出そうとした者は、私が責任をもって始末してやる。せいぜい生きあがいて自由を掴んでくれ。……君は、私とここに残れ」

「ひゃいっ!」


 ──この子、肝心の詠唱を噛んだりはしないだろうな?


 土魔法が使えると申告していた先ほどの赤毛の少女の相変わらずの噛み具合に、指揮官は内心汗を流した。

 彼女ら二人だけをその場に残し、周囲にいた冒険者たちが、周りに散っていく。

 戦力を一カ所に集めるのではなく、むしろ分散させる。いつになく強大な“敵”に対抗するため、弱点探索を優先したが故の布陣だ。

 ある隊は目を、ある隊は鼻を、ある隊は足の爪の間を、ある隊は垂れ下がった翼をといった具合に、少しでも有効そうな箇所を探り当てるため、“穴”に嵌った一瞬の隙に、可能な限りの攻撃を一度に浴びせかけるのだ。

 

 近づいてくる大音量の地響きや振動、追い立てられるように藪から姿を現す野生動物達を不動の自然体で受け流す銀髪の女性の背後から、ふと、声がかけられた。

 それは、彼女の背後に立っていた16歳ほどの小柄な少女の声だった。


「あにょ! ……あの、アシュッ――アルさん。私、貴女がこの隊の指揮を執ってくれて良かったと思ってます」

「おや、嬉しいことを言ってくれる。ふふっ。君のような可憐な少女に褒められるのは悪い気がしないね。こんな死地でなければ、何としてでも口説き落としにかかるところだ」

「か、かりぇん!? あ、……えとそにょ、私はそういう感情とは別なところで、アルさんには憧れてたんです」

「何?」

「だって! アルさんって、すっごいじゃないですか! ソロの冒険者の女性でA級に上がっている人なんて私、他に知りゅませんもん! 色んな勲功があって、公爵様とも面識がありゅんですよね! アルさんが侯爵家当主のお孫さんを盗賊団のアジトから一人で奪還されたって聞いてます。女性一人でもそんなことができるもんなんですね! まあ、アルさんは男に産まれたかったなんて話も聞きますけど、それでも女冒険者皆の憧れですよー」


 ――“男として生まれたかった”……ね。結局、私のこれは、そういうことなんだろうか。


 きらきら光る眼をした少女に告げられた言葉を聞き、女が苦笑する。

 男を見下す彼女が、女性の気を惹くためとはいえ「男の格好」をしている矛盾。この国では男が身に着けるものとされる「剣士」の武技を、死に物狂いの特訓で身につけ、高めていた事実。

 それらは全て、叶うはずのない「男になりたい」という願望からくるものであったのかもしれないと、確かに女性は時折考えさせられていた。


「ふむ。君の後学のために教えてあげよう。生きている人物に憧れるときは、成果にではなく、人物そのものに憧れるようにしておくと良い。……そうすれば、評判ばかりの悪い男に騙されずに済むぞ?」

「ええ!? でもでも、わたひぃ……私! アルさんの内面だって……」

「さて、その続きは後で聞かせてもらうことにしようか」

「ふぇ?」

「詠唱を始めよう。そろそろ奴が来るぞ」


 緊張に体を震わせた少女はしかし、女性が詠唱を始めると、意外に明朗ではっきりした声音で詠唱を重ね始めた。

(詠唱は上手いのか。安心したが、何故それで、通常会話をああも噛む?)


 その詠唱を掻き消すかのように、近づいてきた地響きのみならず、夏の木々の葉を落とすほどの振動が彼女たちの体を襲い始める。

 ビリビリと、その身に伝わるプレッシャー。


 ――さて、私達のことを羽虫ほどにも気にかけていないだろう魔物君。君は、その阿呆のようにでかい体についた目で、私達を見下してくるんだろうね。その生意気な面を――私の前に、跪かせてやろうじゃないか。


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