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異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第三章:竜の滅んだ世界
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第三十八話:何の刺激もない人生なんて、つまらないと思わないかい?<妖精の少年>

(妖精さん、驚かせちゃってごめんなさい。すぐに離してあげますから、落ち着いてもらえませんか?)


 膝をつき、小さな妖精少年の顔を下から覗き込んで、意思疎通魔法で呼びかけます。

 敵意が無いことを示すためだけの声掛けでしたが、むくりと顔を上げた少年から、予想外の反応が返ってきました。


(驚いた。君は古代魔法が使えるんだね。竜の血を引いている人なのかな? ところで、この人は僕を捕まえてどうするつもりなんだい? やっぱり食べるのかな。言っておくけど僕を食べてもきっと美味しくないよ)

 

 ニヒルな笑い、と言っていいのか分かりませんが、何とも投げやりな表情を浮かべた妖精さんがぐったりと伏せていた顔を上げて、そんなことを“伝えて”きます。

 私と同じ意思疎通魔法? 竜の血って何でしょうか。

 疑問が頭に浮かびましたが、まずは誤解を解かなくちゃ。


(私たちは、貴方に害を加えるつもりはありません。ベニさんが何故貴方を捕まえたのかは分かりませんけど、私たちは貴方がボロボロの格好で地面を転がっていたので拾い上げただけですよ)

(はは、嘘を吐かなくてもいいさ。そうだよ、元々僕はあの退屈な暮らしが嫌で里を出たんだもの。最期は神の(しもべ)に食べられて一生を終えるのも刺激的でいいじゃないか)

(だから、食べませんって)

(そういえば君、胸大きいね。死ぬ前に一度、君の胸に飛び込ませてくれないかな。人間の女性の大きなおっぱいに全身を挟まれるのが昔からの僕の夢でさ)

「(挟みませんっ!)」

「ちょっと、リーティス。いきなりどうしたのよ?」


 いきなり大声を上げてしまった私に驚いたのか、アリスとベニさんに訝しげな顔をされてしまいました。

 仕方ないのでこの……卑猥な夢を抱く少年が、私と同じ意思疎通魔法を使えるらしいことを話します。


『へえ、リーティス以外にも使える奴がいたんだな。「固有魔法」なんつうからリーティス一人しか使えないもんかと思ってたぜ』

(この時代の人たちは、魔力回路が縮退しちゃってるみたいだね。うん、君の慎ましやかな胸は、僕の大いなる野望を満足させるには足りないや。残念)

『んだと、コラ! ってか、お前あたしの言葉わかんのかよ』


 逆手に持って、頭を下にする形でつりさげた妖精少年をギリギリと締めつけるベニさん。


(痛い痛い! やめてくれよ。僕に責められて悦ぶ趣味は無いんだ。それと、そのくらい当たり前だろう? そっちのおっぱいさんはそっちの魔法は使えないのかい?)

「ベニ様。リーティスの存在価値をとんでもないものに集約したそいつにお仕置きしてやって」

『はいよ』

(イタイイタイ痛い!あ、駄目、新たな扉が見えちゃう。越えちゃいけない一線を越えちゃう!目覚めちゃう! 目覚めちゃうよ! アーッ!)


 アリスの言葉をベニさんに伝えると、ベニさんがその少年を雑巾のように絞りあげ始めました。

 アリスも私と同様に少年の声は聞こえていないはずですけど、どうやって私を侮辱したと判断したんでしょう? 

 絞られた少年が、理解してはイケなさそうな内容の叫び声を上げています。


「雑巾みたいに、絞れば汚れが落ちるんならどんなに良いでしょうね」


 アリスが紅さんと背中合わせの体勢で吐き捨てるように呟きました。

 アリスは先ほどからベニさんの背後に回って、妖精少年と目を合わせないようにしています。

 何か危険な香りを感じ取ったんでしょうか。


(うう、真正のMになっちゃったらどうしてくれるのさ。僕はどっちも楽しみたい派なんだよ。片っぽしか楽しめないなんてあんまりだと思わないかい?)

『思 わ ね え。それはそうと、てめえ。さっきあたしに何をした』

(ナニもしてないよ?)

『んなこと聞いてねえよ。いい加減首折るぞ。さっきあたしがてめえの頭の宝石に触れた時、何かを吸い取られるような感覚があった。ありゃ何だ?』


 ベニさんが妖精さんに詰問しているようです。


(あ、君が魔力を供給してくれたんだ。いやあ、魔力地帯を飛び出したら予想以上に空気中の魔力が薄かったんだよ。僕たちは魔力を体に留める力が弱いから、すっかり動けなくなっちゃって困ってたんだ。ありがとう)

『説明になってねえぞ。その頭の宝石っぽいのは何だ?』

(僕の魂だけど? それよりさ、魔力が全然足らないんだ。もうちょっと魔力を分けてくれないかな。僕が死んじゃったら君たちだって困るだろう? ああ、できれば食べられるより前にそこのおっぱいさんとの至福の時間が欲しいんだけど)

『い い か げ ん 黙れ』


 ベニさんが妖精少年の頭を親指と人さし指で摘み、ゴキゴキと回し始めました。いったい何を話しているんでしょう?


(竜の末裔のお姉さん! ちょっとこの女の人止めてよ! とんでもないもの中に宿してるなあ、なんて思ったけど、性格はもっととんでもないや! 食べられるのは諦めるから、せめて最後くらいは平和な時間を僕にください!)


 私に話しかけてきた妖精が、気にかかる内容の言葉を口にします。

 慌ててベニさんに少年への折檻を中断させて、私の手の中に彼を迎え入れます。

 そのまま顔を近づけて、内緒話を試みます。


(ああ、柔らかくて気持ちいいや。やっぱり女の子の手はこうじゃないと。ねえ、できればその手をもっと胸元に寄せてくれるとありがたいな)

(ちょっと待ってください、妖精さん。ベニさんの中に「宿っている」というのはどういう意味ですか?)


「ベニさんの中に宿っているもの」

カオルさん達の「異能」のことでないならば、心当たりのあるものが一つあります。


 この少年は、それが何だか知っているというのでしょうか?


 私の問いかけに、さも何でもないことかのように妖精の少年が答えます。


(文字通りの意味だよ。相当強力な意志ある異物が彼女に寄生してるね。力の質からして竜かなって思ったんだけど、もう絶滅してるもんね。神の力の欠片か何かじゃないのかい?)


 やたらと強烈なのが登場しましたが、ただのゲストです。レギュラー化の予定はありません。

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