第九十八話:仕事に当たり外れが多いのは、何でも屋系職業の宿命か<奇妙な依頼>
うああああああ! 毎日投稿の記録がああああああああ!!
本当に申し訳ありません。帰宅が遅れ、とうとう毎日更新のルールすら破ってしまいました。繰り返しになりますが、読者の方々には本当に申し訳なく思っています。すいません。
side:ユムナ
「やぁああっ!」
ここは近隣の街の住人も滅多に入らないと聞く、鬱蒼と茂る森の中。
陽の高い日中も常に漂うよいう白い靄が太陽の光を遮り、じめじめした白い空間を演出している。
「とぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!」
足元はぬかるみ、太く真っ黒い木々の合間には表面の濡れた巨大な石や倒木がごろごろと転がって、とにかく歩きにくい。
あまり、長くは留まっていたくないような場所ね。
まあでも、今だけは。
「炎よ、目覚めてっ!」
そんな居心地の悪さを凛とした声音で打ち払わんとばかりの随分と気合の入った声が、薄暗い森中を木霊しているのだけれど。
――怨霊でも湧いて来そうな、こんな気味の悪い湿地帯と、ノエルちゃんのこの凛々しい駆け声! う~ん、なんともミスマッチね~。
泥除けに置いた荷物の上に腰かけて休憩中の私の前では、気持ちの良い掛け声を放ちながら剣を振るうノエルちゃんが、縦横無尽に靄の深い木々の間を跳ねまわっていた。
ガキン、ガキン、と時折響いてくる大きな音は、ノエルちゃんの剣がお相手さんの硬い身体を叩いてる音かしら。
確か、ノエルちゃんの今日の獲物は、鎧蛇と木人モドキ、それに大土鰐と水蜥蜴だったはず。
朝、冒険者ギルドを発つときにカオルが魔物ガイドよろしく私だけに解説してくれた幾つかの魔物の特徴を思い出そうとしていると、まさにその魔物の一体がにょきりとこちらにこんにちわしてきた。ノエルちゃんが今闘ってるのとは、あた別の魔物。名前は――
「バンシーさんいらっしゃ~い。それとごめんなさいね~。さようなら~」
ウインクを一つ、そして右手を軽~く一振り。
高速で空を穿つ光魔法を構成すれば、それで終了。
空気の焦げる音が鳴り、白靄を貫く一筋の閃光があたしの見定めた標的目指して飛翔する。
木の陰からこっそりこっちを盗み見ようとしていた恥ずかしがり屋な木人モドキは、瞬きの間に煙立ち昇るボロボロの炭の体に代わって地面に崩れ落ちた。たしか、この炭の体が良い感じに高値で売れるのよね~。
冒険者らしく(私は冒険者じゃないけれど)獲物の売値でどんな美味しいものを食べるか、どんな変わり種のお土産を買うか、皮算用に精をだしていると、いつの間にかノエルちゃんの剣の音がこっちに近づいてきていた。
沸き立つ炎で彩られたノエルちゃんの剣に打ち据えられて、細長い一匹の魔物がこちらに飛んでくる。
ああ、これが鎧蛇なのね~。紫なんて変な色をしているから、何かと思っちゃったじゃない。
人の太もも並みの太さを持った蛇が弾かれたように身体を起こすと、後ろで座って居たあたしには目もくれず、自分が飛ばされてきた方角に顔を向けた。
でも、そっちは外れみたいよ?
持ち味の身軽さを活かして大きく森を回り込んでいたノエルちゃんは、私の背後の木の上から飛び降り、幾十もの葉を散らしながら明後日の方向を向いた紫色の大蛇の頭めがけて剣を向けた。
その切っ先に、握り拳大の炎弾が三つ宿り、白く染まった周囲を鮮やかな赤に染め抜く。
「これで、――止めだよぉっ!」
赤々と燃え盛る炎の球は、ノエルちゃんの号令を受けて一斉に打ち出され、敵の下に殺到する。
炎の尾を引き、暗がりを照らしながら突き進む炎の弾が向かう先で、毒々しい体色の大蛇が、迫りつつある大きな熱源三つを捉え、ようやく振り向いた。
あ、これは逃げられないわよね。ノエルちゃんの勝ちかしら~?
「ああああああああああ!! 駄目っす! 意味ないっす!」
ふひゃあ!? いったい誰よ、いきなりこんな大声出すのは?
生まれつき強大な魔力結界を纏っていた私は、昔なら耳に届く前に自動的に排除されていたような大声には慣れてない。突然耳元近くでがなり立てられて、思わず耳を塞いでしまった。
その声の主がぐちゃりと音を立てて泥まみれの地に一歩を踏み出すより前、ちろちろと舌を出して己を襲う炎を悄然と見つめている風だった大蛇がぱくりと大きく口を開けた。
そして、襲い来る火球の一つをごくんと飲み込んでしまう。。
「ええっ、何で!? あの蛇、どうなってるの!?」
「あああ、駄目ですよ! そいつに中級以下の威力の魔法は効かないんす!」
首を伸ばし、巨大な果実を丸呑みするかのような仕草で三つの炎弾に次々とかぶりつき、嚥下した蛇型魔獣。
それを見たノエルちゃんが、驚ろきの表情で狐耳をピンと伸ばし、あせあせと剣を構え直した。
――ちょっと、この男。知ってたなら先に言いなさいよ~。ノエルちゃんの魔力が勿体ないじゃない。
って、あ、カオルが口止めしてたって可能性もあり得るわね。実戦経験を積むために前情報は最低限でって指導方針みたいだったし、この男にも伝えていたってことなのかも。
と、暫定カオルの共犯者なその男は、鎧蛇が鎌首上げて威嚇の体勢を取るやいなや、びくっと盛大に全身を跳ねさせ、くるりと回れ右。
私の脇をすり抜け、先ほどから嫌に静か~に佇んでいた薫の背中に回った。
薫の背の後ろに隠れ、びくびくと男らしくない怯えを露わにす外見も内面もヒョロヒョロとした青年は、なんともまあ、みっともない感じだった。私に言われたくはないかもしれないけどね。
「あははは……」と居心地悪そうに頭をポリポリと掻くけれど、私達より前に出る気はない様子。
それを見たカオルが、ポリポリと頬を掻き、気まずそうに提案する。
「あ~、良し、せっかくあまり動かない個体相手だ。この前ユムナに作ってもらった試作品を試すいい機会かもしれない。ノエル、悪いがその蛇は俺に譲って――」
「なによカオル、あたしの魔法の腕が信じられないの~? ちゃんと作ったわよ? 実験なんて必要ないわ」
肩に担いだ金属製の筒を叩きながらノエルちゃんの敵を横取りしようとしたカオルに、私は意地悪な妨害の言葉を放った。
いくらあたし達の今の防衛対象が怯えてると言っても、ノエルちゃんの成長機会を取り上げるほどじゃないし、あと、私が心血を注いで作ったものを試作品と場割されたことに少しムッとしたせいもあるかしらね。
妨害を食らったカオルが、おや?、とこちらに顔を向けて来る。
さて、毎度いつものごとく「お前の腕だしな……」とでも言ってくるんでしょ? はいはい、早くしてくだ――
「そうだな、お前の腕は確かだ。問題があるとすれば。むしろ設計した俺の計算ミスの方だろう。無茶な開発要請に応えてくれてありがとう、ユムナ」
カオルが突然にこりと感謝100%の笑顔を咲かせてきて、追撃の言葉を放とうと思ってた私の口が動きを止めた。
そんな返し方、想定してない!
――うう、カオルの癖に、カオルの癖に、そんな笑顔を向けないでちょうだいよ。あたしに対しては今までずっと雑な扱いがデフォルトだったでしょうが~! 調子狂っちゃうでしょ~!
足元の荷物を蹴りつけ、何ともいえないやり場のない気持ちを発散しようとするけど、中々上手くいかない。
「ノエル、退いていてくれ」
「了解っ! お願い、カオルお兄さん!」
そうこうしている内に、カオルは屈んで「ショウジュウモドキ」を構え終えていた。私が船上で三日間かけて本体を作り上げた良く分からない機構の道具。
カオルの指示に従って一旦私達の居るところまで後退してきたノエルちゃんが、興味深げにカオルが構えている武器を眺め始める。
頭上で耳をちょこちょこと動かしているノエルちゃんはだけれど、そのお尻には、あの可愛らしいふさふさの尻尾の姿が無い。
――ああ、なんで尻尾をズボンの中にしまっちゃってるのよ~。戦闘装束の時も、あの可愛い尻尾を見せてくれたっていいじゃな~い。
私がぴょこぴょこと体を揺らすノエルちゃんの姿を愛でている間に、カオルが構えた金属筒の先端は火を噴いていた。
それと同時、じっとこちらを伺っていた蛇の頭上数サントの位置に、穴が開く。
穴から赤い液体が噴出し、流れ出すに至って、蛇の目の色が文字通り変わっていった。白と黄色の平常色から、赤と金の攻撃色へと。
――あれ? ちょっとこれ、まずくない~?
背筋に何だかうすら寒いものを感じる。
さすがにそろそろ高みの見物とか言ってられなくなったかしら? いつの間にか私の背中に移動してきたブルブル男とか、このままにしてたら失神しそうよね?
そんなことを思ったのも束の間。
目をギラギラと光らせる巨大な紫蛇が、私達を目がけて跳躍してきた。
私達を明確な敵として認識した蛇魔物が空中から私達を睥睨する。
慌てて応戦のために魔力を掌に集め始めた私の挙動を、落ち着き払った少年の声が押しとどめた。
「良い、俺がやる」
声と共に、カオルは神聖魔法で地力強化した足で跳びあがっていた。
真っ直ぐ私達目がけて飛んでくる鎧蛇の航跡を遮る位置に身を躍らせる。
交錯は一瞬。
薫の右手が閃き、大蛇の首はいともたやすく真っ二つに斬り裂かれた。
残った胴体を返す足で蹴り飛ばして後始末をすませた薫は、危なげなく地上に着地した。その左手には、だらんと力無く舌を垂らす、鎧蛇の頭だったものが握られていた。
確保した蛇頭を軽く検分し、質を確かめ終えた薫は、地面に転がっていた”ショウジュウモドキ”をひどく残念そうな顔で見降ろした。
――失敗だったってことかしらね~? でも、成功していたとしても、あの分じゃ大した威力も無い武器な気もするんだけど……ああ、何か他の武器を作るための基礎実験も兼ねてるって言ってたから、そっちの失敗が悲しかったのかしら?
適当な考察を続ける私の下に、カオルは歩いて帰ってきた。
「……すまない。余計な不安を抱かせてしまったな。さて、貴方達が探していた”鱗持ちの生物”というのは、これでいいのか?」
獲得した蛇魔物の首を、男の目の前に突き出す。
生暖かい体液を切断面から垂れ流す蛇の首を至近距離で見る羽目になった男が、顔をひきつらせて距離を置いた。――本当、臆病な人だこと。
「や、や、えっと、なんか違う気がするんすよね。僕が始末を頼まれた”逃亡個体”ってのは、もっとこう……詳しくは言えないんすけど、もっとデカくて、たぶんもっと凶暴な奴なんすよ」
容量の掴めない説明を垂れ流す男に、本日何度目か分からない嘆息を、男を除いたこの場に居る全員が漏らす。
蛇型×3、鰐型×2、蜥蜴型×4。
これが今日の私達が冒険者として受けた依頼の最中で倒した、”ハズレ”の魔獣達の数。
もう、いい加減にしてほしいわ……。




