第78話 祖国を奪われた者達とW杯を奪われた者達
タイトル通り祖国を奪われたチームと、最近ワールドカップを奪われた日本との対決です
「俺達は欧米諸国のせいで祖国を奪われた!無慈悲に祖国を追われたんだ!」
「あっそう。だったら今日オメーらが勝ったらこの日本列島丸ごとくれてやるよ。勝てれば話だがな!」
アジア杯グループリーグ最終節パレスチナ戦前に龍永がパレスチナイレブンに言い放った言葉である。パレスチナは欧米諸国に自分達が住んでいた土地にイスラエルという国を強引に建国され、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に分断された悲劇の国である。その為、パレスチナ人は狭い国土を追われ、欧州や南北アメリカ大陸、オーストラリア等にも居住している。当然欧州組も存在する。
スターティングメンバーは
23番GK戸島(ガンツ大阪)、27番DF石井、5番DF簑口、26番DFチェイス(RVザルツブルグ)、2番DF杉山、25番MF 大野、20番MF水本、28番MF佐々木、7番MF桑原、24番FW 益山歩、18番FW式田。
控えメンバーは
1番GK佐藤、12番GK西久保、3番DF池田、4番DF結城(ASミラン)、16番DF下川、17番DF小林、22番DF田中、6番MF岡野海、8番MF前田、10番MF工藤、11番MF中西、13番MF岡野航(ASミラン)、14番阿部、15番MF青木、19番MF村井、9番FW京谷、21番FW出浦。
ここ2試合で及第点を見せたメンバーを決勝トーナメントに備えさせ、折を見て投入させる采配であるが、若干いじっている。右サイドバックの杉山を左へ、攻撃的MFの桑原を右サイドへ配置。山中監督は
「お前等の可能性を十分に活かしたい。練習通りにやれば勝てる。お前等なら出来る。全員信じてるからな。」
と言って試合に送り出すも、鹿取スタジアムは
「ベンチメンバーかよ?来て損した。」
と落胆する日本サポーター達に龍永は
「おい、あんたら。あいつらを舐めるな!ワールドカップで優勝する事だけを目標にした日本のメンバーだぞ?戦力落としてる訳じゃねーんだぞ!」
と睨み付け
「この試合も完膚なきまで叩き潰す!」
とベンチから戦況を見守る。
龍永はこの大会前に普段より多く選手とコミュニケーションを取り、わからない事ややってほしい事を全員に事細かに話していた。特に
「バルセロスのティキタカをどうしたら出来るようになるか。」
という質問を散々され、龍永は細かく指導した。この日のスタメンは、よりあの早いテンポのティキタカをすんなり覚えたメンバーであり、龍永は試合前から勝利を確信していた。特に両サイドの桑原と益山歩に
「もし上手く行かなかったらティキタカをあんたらの判断で切ってほしい。」
と注文しながら、バルセロスのゲームで自分やジャマールがウィングの位置から中盤に下がって流れを切るプレーを散々解説していた。それは控えに回った工藤や中西も同様で
「プレーを切って落ち着かせてからウィングがティキタカの起点になるように。」
と確認していた。
前半立ち上がりからハイプレスの高い位置からボールを奪い、小気味よく日本のティキタカが炸裂する。桑原の先制点を足がかりに水本、式田、佐々木と前半だけで4点を奪う日本代表に鹿取スタジアムの日本サポーターは目を丸くする。
「この面子でもこれだけハイレベルのパス回しが出来るのか・・・?」
「バルセロスそのものじゃねーか?」
と賛辞を送るが
「まだ出浦達出てねーんだぞ?このチーム何処まで強くなるんだ?」
「しかも未だに無失点だぞ?凄すぎる・・・」
と言葉を失っていた。
後半から早速メンバーチェンジ。式田と益山歩に代わり龍永と工藤が入ると鹿取スタジアムの日本サポーターは大熱狂。
「よっ!待ってました!日本の2代エース!」
「これで勝ちは決まりだ!」
と盛り上がると、龍永と工藤は揃って3本指を立て
「ハットトリックかましてやる!」
と日本サポーターを煽る。龍永も工藤も
「ハットトリックかまさねーと自分が許せねー。」
という覚悟を持って臨んだ。
すると後半立ち上がりに早速工藤が個人技で1点目を決める。その僅か1分後に龍永も決める。この大会前に工藤は
「キャプテンは譲ったけどエースは譲らねーからな。」
と龍永に話していた。その工藤が再び決め2点目。負けじと龍永ももう1点決め2人共ハットトリックにあと1点なのだが、2人共
「あと3点。」
と呟き、更に日本サポーターに
「あと3点だ!」
と煽り出すと、パレスチナイレブンが
「こいつら!」
と怒りだすもその直後に龍永がハットトリックを達成。この時龍永は
「おいおい、何だ?この感覚は?面白いくらいに点決まるじゃねーか!」
「あの準決勝、イタリア戦の感覚だ。身体が勝手に動く。」
と思いながら今度は工藤のハットトリックをアシストする。
試合終了。10-0の大差で圧倒的な力を見せつけた日本代表は決勝トーナメントに駒を進めた。
そして決勝トーナメント1回戦シリア戦。スターティングメンバーは
1番GK佐藤、2番DF杉山、16番DF下川、22番DF田中、3番DF池田、6番MF岡野海、8番MF前田、15番MF青木、7番FW桑原、10番FW工藤、21番CF出浦。
控えメンバーは
12番GK西久保、23番GK戸島(ガンツ大阪)、4番DF結城(ASミラン)、5番DF簑口、17番DF小林、26番DFチェイス(RVザルツブルグ)、27番DF石井、11番MF中西、13番MF岡野航(ASミラン)、14番阿部、19番MF村井、20番MF水本、25番MF 大野、28番MF佐々木、9番FW京谷、18番FW式田、24番FW 益山歩。
左サイドに疲労の見えた小林を下げ、池田を回し、更に左ウィングにグループリーグで効いていた桑原を起用。相手のシリアも
「俺達はイスラム国のせいで祖国を奪われた!平和に生きてきたのにに祖国を追われたんだ!」
という思いを胸に挑んでくるが
「俺達はワールドカップをこの国に取り戻す事しか頭にねー!邪魔する奴らは容赦なくぶっ潰す!」
と龍永は一蹴。
「もう2度とあんな悔しい思いしてたまっかよ!」
とシリアイレブンを睨み付ける。前半開始早々、右サイド工藤が中へ切り込みゴール前の龍永にパスすると、相手キーパーを前にキックフェイントをかまし真横の桑原へパスし、先制点を決めると、前半21分、38分に龍永が立て続けにゴール。後半はパスを配球していた前田に代わり、スペイン下部リーグで活躍していた村井と交代。日本代表は先のワールドカップの敗戦の1つにこの前田が準々決勝で退場となった事も例に挙げており
「必ず同ポジションで同レベルの選手を育てる。」
という事を課題としていた。その代わって入った村井が組み立てパスを送ると、両サイドが活性化。桑原とスイッチしたセンターハーフの青木がシュート。ゴールバーを真下に叩いた所を龍永がダイビングヘッドでハットトリック達成。4試合連続ハットトリックの龍永はもう止まらないが、3人一気に交代して下がる。龍永のポジションも今回欠場した椎原や斎藤の他にも急務で、今日は式田が入る。岡野航、水本と同時に入り、更に後半30分は京谷も入り2トップになる。すると、交代で入った5人が魅せる。村井から右サイドに入った岡野航がダイレクトで中央を走る式田へパスするが、このボールを式田がダイレクトヒールパスで後方へ落とすと、水本が飛び込んでくるが、オフサイドラインギリギリで構えた京谷が抜け出てシュート。これが決まり5-0で試合を終える。
だがロッカールームでは龍永と工藤が
「今日のは完膚なきまでなんて程遠い。次の相手はオーストラリアだ。もっと厳しくなるぞ。」
「この2試合の相手は祖国を奪われた相手だったけど、俺達日本はワールドカップを寸前で奪われたんだ。」
と気を引き締めていた。この時の日本代表は程よい緊張感を保ち、誰1人慢心することなくチームミーティングを積極的に行い、全員がサッカーの話以外しない戦う集団に変化していった。
目の前で大切なものを奪われたショックは互いに計り知れないと思います




