最終話 大神監督就任
あのパサディナ五輪から10年の時が経ち、204✕年。龍永は34歳を迎え、このワールドカップを最後に引退をする。度重なる怪我でプレー不可能と発表された。ワールドカップ5大会連続出場。優勝1回、準優勝1回、3位1回、ベスト8 2回。得点王1回。ワールドカップ通算ゴール数35。そしてパサディナ五輪金メダル、得点王、MVP。惜しくもバロンドールは受賞できなかったが、候補に6度受賞され、龍永は日本サッカー界のレジェンドとなった。
それから2年ほど、龍永は表舞台から姿を消すが、欧州の小さなチームに顔を現した。実名である「大神龍永」として。傍らには年上の妻、絵理佳がいる。
「イタリアCリーグコセンツァ、元日本代表 出浦改め大神龍永監督就任!」
小さな記事だが、このコセンツァで龍永とその仲間達は大改革を実施。オーナーは、日本のIT企業「プレミアム」の社長で、小学校時代の先輩だった稲垣が買収。ゼネラルマネージャーに父の旧友奥寺が就任、更にスペシャルバイザーとして恩師、ファン・ペルツが招聘されたことを発表。彼らは日本の育成システムをイタリアへ持ち込んだ。イタリアの地で夢破れ、解雇された移民選手を次々と獲得。ストリートチルドレンとなった彼らは、再起の機会をこのチームで与えられる。イタリアへの帰化、選手を再育成して高値で買収する。それでもトップに上がれなかった者は大学へ進学させ、知識と教養を植え付ける。そして、スタッフに入閣したり、社会に貢献するかを自身で選択する。日本ではアンダーカテゴリーが充実している。中学でU18に上がれなかったら高校サッカーへ、そこでも上がれない選手や、アンダーからトップに上がれない者は大学サッカーへ、そこでも上がれない選手はJ3やJFLへ、というシステム、日本が持つ育成の受け皿をこのイタリアで確立させようとしたのだ。
彼らの改革は大成功を収めた。僅か4年でAリーグに昇格。育成チームのため、選手の引き抜きは毎年行われるが、奥寺やファン・ペルツのコネクションを活かし、補強も充実していた。欧州5大リーグに参戦したい日本人選手及び、アジア人選手も多数獲得した。
そしてその2年後、コセンツァはリーグ戦3位。チャンピオンズリーグの出場権を得る。選手を引退した者はその後大学へ進み、コーチやフィジカルトレーナー、広報、スポンサー獲得等の形でチームに関わる者もいれば、自ら会社を立ち上げ事業に成功し、コセンツァのスポンサーをかってでる者も多くいた。コーチや監督になり、欧州リーグで名将になった者もいる。これまで出会った多くの人々がこのチームを支えてくれる。龍永の第2の人生が幕を開けた。
龍永はこのチームの監督を、実に35年もの間務めることになった。その間に各国代表チームに選ばれた選手は、延べ1万人を超すことになる。リーグ優勝18回、カップ戦優勝22回、チャンピオンズリーグ制覇2回、クラブワールドカップ制覇1回、バロンドール受賞者3名という堂々とした結果を残す。コセンツァの大成功のおかげで、没落していたイタリアリーグは活性化し、更にアジア人を積極的に補強。アジアのレベルアップ、アジアカップやアフリカネーションズカップは、ここで成長した選手達のハイレベルな戦いが繰り広げられた。
大神龍永監督の教え子達は後に「大神チルドレン」と呼ばれるようになる。その間、龍永は当時先輩だった選手達と欧州の地で監督として相見えるようになる。ドイツリーグの羽生、奥山、スペインリーグの佐久間、工藤、イングランドリーグの新村、武藤、オランダリーグの鷲田、本街、フランスリーグの松原、水野、そしてイタリアリーグの秋葉、影山。日本人も監督となり成長していた。彼らの率いるチームと切磋琢磨し、龍永はいつしか名将と呼ばれる監督になっていった。
そして207×年。大神龍永は35年間率いていたコセンツァを退団。満を持して日本代表監督に就任する。ワールドカップにニホンオオカミが戻ってきた。サッカーを始めた頃、ワールドカップで優勝することしか考えてなかった少年が、立派な大人、名将として帰還。果たしてその結果は?龍永に率いられた新たなニホンオオカミの群れ達は、これからワールドカップという獲物を奪いに行く旅に出た。年老いたニホンオオカミと共に。
代表監督となった大神龍永が新生日本代表にスピーチする。
「技術やフィジカルで欧米に追いついた日本は、団結力があれば優勝出来る。これはワールドカップで優勝する国は、外からでも見てわかる団結力を皆持っている。代表選手だけではない。日本という国全体が1つになった時に必ず優勝出来る。日本が世界に誇れるのは、団結力と諦めの悪さだ。守って勝とうとするな!最低3点取って勝つんだ!ゴールをたっぷり喰らえ!若きニホンオオカミ達よ!」
現実越えを書かない限り勝てないと思い、この結果を書きました。日本代表が今回のようなムードでワールドカップに出続ければ、いつか必ず優勝すると思います。作中でベテラン選手が発した言葉「ワールドカップっていうのは技術の高い選手を集めたり、どんなに緻密な戦術を持ってしてもそれだけじゃ勝てない。一番重要なのは、外部の人間からも見て取れる団結力なんだ。ワールドカップで優勝した国はほぼそれを大会前から持っている。それは俺達選手や監督、コーチだけじゃない。日本代表に関わる者全て、今も日本や海外で戦ってる選手やOB、スタッフやサポーター、俺達を育ててくれた人達、いや、俺達弱小国は、日本列島全てが一つにまとまったときにこそ優勝するものだと俺は思っている。」という台詞があります。筆者は94アメリカ大会から観戦してますが、私見ではありますが、決勝まで上がったチームはそれを持っており、テレビで見てるこっち側からもそれがわかります。この話で龍永をベンチスタートに多く置いたのはその為です。94年、02年大会のブラジルは、レギュラーがごっそり負傷しながらも、ベンチに控えてたメンバーが大活躍を収めました。98年大会、06年大会のフランス、イタリアはキーパー以外全員出場を果たしています。まとまりの悪さが評判のスペインも10年大会で見事に調和しました。最近では交代枠が増えたため、先発と途中出場はレベルの有無なしに使い分けられます。また、ブラジルは初優勝まで30年、フランスは60年、スペインは70年かかっていますが、日本の場合、Jリーグが発足してからの成長度が他国と比べて早いので、日本代表を応援し、優勝すると信じていれば近々優勝出来るという願いを込めて本作を書きました。そして、今作品の主人公、敬助と龍永ですが、偉大な父を超えるための息子を描くのは他作品に多いので、敢えて残された家族を幸せにする為に戦う主人公にしてみました。暗い過去を引き摺らず、新しい未来へ進んだ方が人生の為にも日本代表の為にもいいのではと考えてみました。もう日本代表は弱小ではありません。今やどことやっても試合が始まるまでわからないレベルに達しているので、日本代表を信じて応援しましょう。




