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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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30/30

第30話  魔族との邂逅

この作品を読んでくださっている皆様には申し訳ありませんが、他に書きたい小説があるのに執筆時間が足りないため、誠に勝手ながら本作を一時休載とさせていただきます(汗)

2026年4月12日

 それからというもの、俺は転移魔法陣開発に没頭した。

 何としても、1カ月後までに完成させなければ。

 俺の楽しいお出かけのために!


 転移魔法陣には、必要なものが二つある。

 入り口と出口だ。


 エルンサルドのダンジョンにあったような、入り口の魔法陣。

 そして、転移先の座標を決める、帝都にあったような出口の魔法陣。

 最も簡単なのが、この入り口と出口を固定した一方通行の転移魔法の理論らしいのだが、そう言えばオーフェンはどうやって出口の魔法陣の場所を固定しているのだろうか。

 オーフェンばかり謎技術を使えてズルいが、聞いても分からないの一点張りだった。

 やはり、あれは冒険者ギルド本部の『賢者』関連の魔法技術であって、オーフェン自身はその理屈を知らないのだろう。

 こうなっては、俺もオリジナルの方法を考え出すしかない。


 俺が考える転移魔法の理屈はいくつかある。


 一つ目は、元の場所から転送者の情報を読み取り、転移先に同じ人物を再構築するというパターンだ。

 しかし、これは元の場所の人間をコピーし2人になっているという事であり、元の場所に本体がもう1人残ってしまう。

 既存の転移魔法陣に転送者本人を破壊するような術式が刻まれていない所を見ると、この線は消えるだろう。


 二つ目は、空間と空間を繋げて転移先にワープしている、というパターンだ。

 ど〇でもドアみたいな感じだな。

 転移事故で、上半身と下半身が真っ二つになった、なんて話を聞いたことがあるが、ワープの途中でドアがぷつっと途切れてしまったんじゃないかと俺は思っている。

 しかし、上半身と下半身が別の場所に転移された、と言う話もあったから、あながちそれだけとは言えないかもしれない。


 そこで考えたのが、三つ目。

 それは、ど〇でもドアの間に亜空間を挟んでいるというパターン。

 この場合、アイテムバッグを想像すると分かりやすいだろう。

 転送者は一旦アイテムバッグのような亜空間に入り、その亜空間の出口を望む場所に繋げればいい、と言う感じだ。

 一見二つ目の案と大差ないように見えるが、魔法の術式を組む上で、『入り口』も『中継地』も『出口』も、全ての指定がガラッと変わってしまう。

 ここをきっちり詰めておかないと、正しく理解することはできないのだ。


 俺の手元にはアイテムバッグなら既にあるし、亜空間を操る空間魔法に関する研究は出来そうだ。

 俺は、オーフェンにダンジョンにある魔法陣の写しを片っ端から送ってもらったり、アイテムバッグの構造を調べたり、既存の転移魔法陣を解読したりして、半月以上研究を重ねた。

 もちろんその間に、転移魔法に必要な魔力を、ガストール祖父ちゃんから貰った魔力を溜める触媒に貯蓄していくことも忘れなかった。


 そしてついに、俺はリンゴ程度の小さい物を転移させることに成功した!


『ちょっと待ってよ……何その理論……』


 俺が報告すると、通信の魔道具越しにオーフェンの力ない呻き声が聞こえてくる。


『僕が聞いた話では、転移魔法には風属性魔力と風属性の妖精を使うって……ロイ君が使ったのは無属性魔力だろう?』

「そうだよ?」


 実験は成功したのに、何が問題なのか。


『あ~……ロイ君の方法は、全く新しい転移魔法……だそうだよ。既存の理論とは違うって……。僕もよく理解できないけど、多分、ダンジョンの転移魔法陣に近い方法……っぽいけど』

「だれのじょうほう?」

『え? えっと……。むか~し、本で読んだ……かな……』

「ふぅん? でも、どんなてんいまほうじんでも、つかえるならもんだいないよね」


 俺がリーデン共和国に行っても!


『そう……だね……。うん、僕の負け……。安全か確認できたなら、行っていいよ』

「やった! うみのさかなだ!」


 俺は小躍りして喜び、オーフェンは慌てて釘を刺す。


『他の人にはバレないでよ⁉ 絶対だからね⁉ 通信の魔道具の比じゃない騒動になるから‼』

「わかってるよ」


 俺は安請け合いをして、リーデン共和国に行くための準備を始める。


「まほうじんのおおきさは、おとな3にんぶんぐらいにするとして」


 ちょっとした荷物や同行者があるかもしれないし、大は小を兼ねるからな。


 俺は、クルクル丸めても皺が寄らなそうな、特殊な魔獣の皮を用意し、それを郵便のバッグに入る程度のサイズに切る。

 ここに、開発した転移魔法陣を描いていく。

 もちろん、これではすごく小さいのだが、これの受け取り手は大魔導士のガストール祖父ちゃんだ。

 指定したサイズで床に魔法陣を描き直してもらえばいいのだ。


「おみやげは……あ! さかなをいっぱいかってこよう! だんじょんにいくなら、あたらしいあいてむばっぐもいるかも! それと、きがえとはぶらしと……」

『ロイく~ん。勇者が出たら帰って来なきゃいけないの、忘れないでよね?』


 俺がウキウキしながら準備を進めるのを、オーフェンはため息混じりに聞いていた。



【王弟オレリアス】


 リーデン共和国に食料を買い付ける交渉をすべく、モルグーネ王国を出発したのが昨日の朝。

 我々使節団は、スパイのヘレスと共に、馬車で街道を南下していた。


「あのぉ、本当に手錠要ります……? トイレに行きづらくて……」


 馬車の向かいの席に座ったヘレスは、遠慮がちに手を上げて発言権を求める。


「無駄口を利かない方がいいぞ」


 私はちらりとヘレスの隣のレッドラン師団長に目をやった。

 しかし、レッドラン師団長は、緩く首を横に振る。


「王弟殿下。私はロイ君にこの男を殺さないと約束したのですよ。ロイ君が大好きなじいじとして!」

「う、うむ……」

「ですから、余計な気遣いは無用です」


 手錠は外しませんが、と、レッドラン師団長は付け加える。


「はい……」


 ヘレスは諦めたようにしょんぼりと肩を落とした。


「そういえば、レッドラン師団長。ヘレスの後任は決まったのですか?」

「えぇ。第2魔法師団の副師団長を暫定的に据えました」

「ヘレスの副官だった彼女……確か、アメリアでしたか。彼女の処遇は?」

「とりあえず、見張りをつけて平師団員に降格ですね」


 ヘレスは眉を寄せ、目を伏せる。


「……自分が言えた義理じゃありませんが。副官のアメリアはリーデン共和国のスパイじゃないので。出世が望めないにしても、あまり厳しくしないでやってくれませんかね」


 直属の上官が他国のスパイだったのだ。

 副官のアメリアが疑いをかけられるのは避けられない。

 そのせいで、今後は監視がつけられ、出世コースからも外されるであろうことは想像に難くない。


「アメリアにも、自分が謝っていたと言っておいてくれませんか。巻き込んですまなかったと」

「伝えよう」


 私が頷くと、ヘレスは少しほっとしたような笑みを浮かべて小さく頭を下げた。


「しかし、こうして出発してから言うのも何だが、本当にリーデン共和国に話は通っているのだろうな?」


 ヘレスは、私に交渉を持ちかけた時点ですでにリーデン共和国にも話を通していたらしく、使節団が来るならば受け入れる、と言う旨の書簡は受け取っている。

 今はそれを鵜呑みにするしかない状況なのだが、罠であることも考えられる。


「リーデン共和国の一つ手前の国に着いた時点で、改めて手紙を送ります。が、受け入れられない事などないと思いますよ? 万に一つでも商機があるかもしれないとなれば、あの連中は必ず話だけでも聞こうとします。情報っていうのは、商人にとって命綱ですからねぇ」

「自分の国とは言え、随分上層部に詳しいな?」


 私が片眉を上げると、ヘレスは肩をすくめる。


「リーデン共和国は、豪商から選出された評議会が運営してるってのは知ってますよね? 自分の父は、リーデン共和国の議長でしてねぇ」

「は?」


 議長と言うことは、リーデン共和国で第1位の権力者と言う意味ではないのか。


「まぁ、自分はしがない5男なんですが、祖国にいると、何かとしがらみが多くてですねぇ。スパイになるなら出国してもいいって親父殿に言われたんで、これ幸いと国を出てきたんですよ」


 それでこんな不真面目なスパイに、と、ヘレスは頬をかく。


「でも、一応自分はそう言う身分なんで、親父殿に話だけは通せますから。上手く行くかは話し合い次第ですが、門前払いってことはないと思いますよ?」


 へらへらと笑うヘレスに、私は思わず眉間にしわを寄せる。

 議長の息子であるならば、捕虜としての待遇をもっと良くしておけばよかっただろうか……?


 まったく、後から後から思いがけない話が出てくるものだ。

 と、私は眉間のしわを揉むのだった。



【ロイ】


 ガストール祖父ちゃんたちがリーデン共和国に到着した、という連絡が来たのが、今日の朝。

 俺は郵便の魔道具でガストール祖父ちゃんに転移魔法陣の図を送り、ガストール祖父ちゃんが宿の床にそれを転写してくれるのを待っている。


 やはりと言うべきか、リーデン共和国にはルードルフ祖父ちゃんもついて来ることになり、ルードルフ祖父ちゃんは持っていく資金の準備中だ。

 俺も、ターセル家の屋敷の床に描いた転移魔法陣の前で、荷物の最終点検をしている。

 そこに、オーフェンから通信が入った。


『リーデン共和国にはこれから行くのかい?』

「うん」

『帰りの魔法陣はちゃんと用意してあるんだよね?』

「してあるよ」

『くれぐれも、転移事故には気を付けるんだよ?』


 オーフェンは心配性だなぁ。

 ガストール祖父ちゃんの準備が出来たら、ちゃんと数回のチェックもするし、安全面には十分気を付けるって。


 俺が生返事をしながら準備を進めていると、ふとオーフェンが声を低くして俺に尋ねた。


『ロイ君。まだ自分の正体を家族に明かしてないのかい?』

「うん」

『どうして?』

「どうしてって……?」

『君も、いつまでも幼児のままじゃない。これだけ活躍していれば、外の世界との関わりを避けていられなくなる。そろそろ話しておくべきじゃないのかな』


 オーフェンの言葉に、俺は思わず手を止める。


『もしかして、話すのが怖いのかい?』

「怖い……?」


 俺が、異世界の記憶を持つ勇者だと知られて、気味悪がられるかもしれないから?

 そんな事、俺の家族が思うわけ……。

 いや、実際の所、どうなんだろう。


 もし俺がそんな話を聞かされる側だったら、どう思う?

 気味が悪いとか、信用できないとか、騙されていたとか……。

 そういう風に思うのだろうか。


 あの、俺に激甘な家族が、俺を捨てるとは思えないけど。

 いや、俺がそう思いたいだけなんだろうか。


『ロイ君は、無意識に正体を話すことを避けているんじゃないかな』

「……めんどくさいとはおもってたけど」


 俺の中に、そんな恐怖心があるのだろうか。

 オーフェンの言葉に、俺はしばし考えこんでしまった。

 でも、確かに、いつまでも避けていられないのも事実なのだろうな。


「……じゃあ、リーデンきょうわこくからかえってきたら、はなすよ」

『そうか。うん、そうするといいよ』


 オーフェンは、どこか励ますような声音で俺に同意した。



 ほどなくして、ガストール祖父ちゃんから転移魔法陣を描き終わったと報せが入り、俺は魔法陣の試運転のために、砂の粒を魔法陣の中にパラパラと振りまく。

 そして、転移魔法陣を起動させると、青白い光と共に、砂粒が消え失せた。


『ロイ君! 成功です! 成功しましたよ!』


 通信の魔道具越しに、ガストール祖父ちゃんが興奮して叫ぶ。


『魔法陣一面、欠けることなく砂粒が届いています!』

「じゃあ、つぎは、たかさをためすね? ちゃんとみてて、ガスじいじ!」


 俺は魔法陣に向かって砂粒を高く振り撒き、すかさず魔法陣を起動する。

 すると、高さにして2.5メートルほどまでの砂粒がかき消え、またも通信の魔道具から興奮した声が聞こえた。


『高さ2.5メートルと言ったところですね! 人間の転移に支障はなさそうです!』


 転移の実験は成功だ!


 しかし、俺は念のために、丸めた古絨毯や、花瓶や、その辺で捕まえて来た小ぶりな魔獣など、色々なものを転移してみて、何度も安全性を確かめた。

 さらに、俺の魔力を溜めた触媒をガストール祖父ちゃんに送って、向こうからそれら全てを送り返してもらうこともした。


『これだけ実験すれば、大丈夫でしょう』


 とガストール祖父ちゃんからもお墨付きをもらい、俺はいよいよリーデン共和国に転移することになった。

 初の自作魔法陣での転移に、ワクワクとドキドキが止まらない!


「海か。楽しみだなぁ、ロイよ」

「うん! ルーじいじ、みずぎちゃんともったよね?」

「ここにあるぞ!」


 ルードルフ祖父ちゃんは、俺の魔法陣の上で、自分の鞄をバンと叩く。

 俺の背中にも、着替えや歯ブラシ、水着などの入ったリュックが背負われている。

 そして俺の頭の上には、どうしてもついて来たがったトニがちょこんと乗っていた。


「じゃあ、いってくるね!」

「土産は期待していてよいぞ!」


「お義父様、ロイをよろしくお願いします。ロイ、ちゃんといい子にするのですよ」

「目立つ行動はしないようにな? ロイはリーデン共和国には居ない事になっているんだから」

「遊びすぎて時間を忘れないように。3日でちゃんと帰ってくるのですよ」


 と、母上と父上、マリアンヌ祖母ちゃんから、心配ともお小言ともつかない見送りの言葉をかけられながら、俺は転移魔法陣を起動する。

 光に包まれたかと思うと、転移自体は一瞬で済み、俺とルードルフ祖父ちゃんは、次の瞬間には見たことのない部屋の魔法陣の上に立っていた。

 部屋には、ガストール祖父ちゃんと王弟がいて、固唾を呑んでこちらを見ていた。


「転移成功です! 素晴らしい偉業ですよ、ロイ君! ロイ君は天才です!」


 ガストール祖父ちゃんは、着くなり俺を抱き上げて、頬ずりする。


「ようこそ、リーデン共和国へ!」

「やったー!」


 俺は両手を上げ、1カ月の苦心惨憺の成果を全身で喜んだ。

 遊びにも行かず、この時のためにコツコツと努力を積み重ねたかいがあったというものだ。



 俺とルードルフ祖父ちゃんは、ガストール祖父ちゃんがこの宿に予め取っていてくれた部屋に移り、荷物を下ろす。


「ルーじいじ、このあとかいものにいこうね!」

「うむ、美味い魚も売っているであろう」


 俺とルードルフ祖父ちゃんが和気あいあいと話しているのを、ガストール祖父ちゃんは扉の辺りに張り付き、悔しさ全開で凝視している。


「私もロイ君とお買い物に行きたいのに……‼ リーデン共和国との会談など、すっぽかしてしまいましょうか……‼」

「レッドラン師団長、何のためにここまで来たのです……」


 王弟は呆れたように、ガストール祖父ちゃんの後ろで首を横に振っている。


「ガスじいじ……つまらないかいぎにでないといけないの、かわいそうだね」


 俺は、元はと言えば俺がガストール祖父ちゃんに通信の魔道具の功績を押し付けたからだ、と言う事は脇において、ガストール祖父ちゃんに同情する。


「おれね、ガスじいじにね、おみやげかってきてあげる!」

「ロイ君……なんて優しい子でしょう……!」


 ガストール祖父ちゃんは、大げさなほど喜んで、おいおい泣いている。

 ルードルフ祖父ちゃんは腕を組み、うんうんと頷いていた。


「そういう茶番はいいので、会談の打ち合わせをしましょう。午後の会談に間に合わなくなりますよ」

「何が茶番ですか! 真剣に感動しているのに!」


 と、王弟とガストール祖父ちゃんがやり合っていると、廊下の奥からヘレスが使節団員に連れられて歩いて来る。

 ヘレスは俺を見るなりぎょっとして足を止め、目を見開いた。


「何故……ロイ君が……リーデンに……」


 ヘレスは、口をパクパクさせて俺を指さす。


「まさか、もう転移魔法を完成させ……むぐっ⁉」


 何かを口走りそうになったヘレスの口を、ルードルフ祖父ちゃんが瞬時に塞ぎ、ガストール祖父ちゃんがにこやかにヘレスを先導する。


「さぁ、モルグーネ王国で見聞きした機密事項を話さないよう、『口外禁止の魔法』をかけましょうか」

「そうだな。この男は色々と知りすぎている。モルグーネ王国には、機密が多いゆえ」


 こんな時だけ息が合っているガストール祖父ちゃんとルードルフ祖父ちゃんが、引きずるようにヘレスを隣室に連れて行き、王弟は額を押さえて見送っている。


「出立の時にヘレスに『口外禁止の魔法』をかけないから、おかしいと思っていたんだ。これを見せるまで待っていたという訳か……」


 聞いた話によると、『口外禁止の魔法』は重ね掛けができないらしく、隠したいことを全てヘレスに見せてから、まとめて口外できないようにしたかったらしい。

 俺のために、なんかごめん。

 でもこれで、リーデン共和国に俺が転移魔法を完成させたことを知られることはないはずだ。



 ガストール祖父ちゃんはヘレスと王弟たちと共に、会談の場所へと出発していった。

 俺とルードルフ祖父ちゃんは、それより少し前に市場に徒歩で向かっている。


 市場には、あらゆる新鮮な魚が並んでいて、俺はこの日のために購入した、時間停止機能のある新しいアイテムバッグを片手に、仕入れ業者顔負けの箱買いで、どんどん新鮮な魚を購入していった。

 アロニアダンジョンでドロップした魔石を換金したので、資金ならたっぷりあるのだ!


「おねえさん、これあじみしていい?」

「まぁ、お姉さんだなんて。サービスしちゃおうかしら!」


 俺は、あちこちで子供らしく愛嬌を振り撒き、魚を味見させてもらったり、安く商品を売ってもらったりした。

 もう一生、海の魚には困らないかもしれない。

 ルードルフ祖父ちゃんは、俺の買い物の邪魔にならないように、少し離れた所で俺の様子を見守っていたが、俺が大体の買い物を終えると合流する。


「ふむ。手慣れておるな、ロイ」


 俺の買い物テクニックを見ていたルードルフ祖父ちゃんは、感心したように顎を撫でた。


「ていとで、きたえられたからね!」


 俺は力こぶを作って見せ、ルードルフ祖父ちゃんは目頭を押さえる。


「さすがはワシの孫……! 逆境を糧に成長するとは……!」


 ひとしきり感心しているルードルフ祖父ちゃんを連れ、俺は屋台で魚料理を買って、祖父ちゃんと、頭の上のトニと一緒に、ちょっと遅いお昼ご飯を食べた。

 塩で焼いた魚の串焼きや、魚のフライをパンに乗せてソースをかけたオープンサンドなど、魚料理に飢えていた俺には最高のごちそうだった。

 俺がいつもの2倍ほどたくさん食べたので、祖父ちゃんもちょっと驚いていた。

 だって、前世を思い出す味なんて久しぶりだったんだから、しょうがない。


 たっぷり魚を食べて満足した俺は、腹ごなしに海沿いを散歩することにして、ルードルフ祖父ちゃんと一緒にブラブラしていると、向こうからガストール祖父ちゃんや王弟たちが歩いて来る

 ヘレスの姿はないので、リーデン共和国側にもう身柄を引き渡したのかもしれない。

 それにしても、もう会談が終わったのか。ずいぶん早かったな。


「あ! ロイ君! ここにいたんですね!」


 ガストール祖父ちゃんは、小走りに俺に近づいてきて、俺の前にしゃがむ。


「会談は上手く行きました。食料買い付けの目処が立ちましたよ」

「よかったね」


 俺はニコニコと頷いて、ガストール祖父ちゃんも頷き返す。


「これもロイ君のおかげですね。あと、例のスパイもですが」


 ガストール祖父ちゃんは俺と手を繋ぎ、話しながら散歩の続きをする。


「リーデン共和国側に、ロイ君が発明に関わっていることは隠し通せそうです。ヘレスも『口外禁止の魔法』で口止めをしているので、情報を明かすことはないですからね」

「うん」

「モルグーネ王国が食料の買い付けを取り付けたことで、同盟国の他の国々もリーデン共和国に食料の買い付けを求めるでしょう。リーデン共和国としても、すでに同盟側に加担すると腹を括っているでしょうから、同盟国全体にとって、食料供給の良い当てが出来たというわけですね」

「よかったね」

「はい」


 ガストール祖父ちゃんはニコニコとほほ笑んで、俺の手をきゅっと優しく握る。


「リーデン共和国には、色々と黒い噂もありますが、頼れる隣人には違いありません。仲良くしておくに越したことはありませんからね」

「くろいうわさ?」


 俺が好奇心に負けて問い返すと、ガストール祖父ちゃんは声を潜め、俺を脅かすように小さく囁く。


「このリーデン共和国は、ロイ君も知っていると思いますが、南にある『パルケナ』大陸と貿易をしています。ですが、それ以外にも、魔族が住む『魔大陸』と貿易をしている、と言う噂があるのですよ」

「まぞく⁉」


 でた、ファンタジーの定番種族!

 俺は思わず目を輝かせ、ガストール祖父ちゃんは怖がらない俺に、ちょっと意表を突かれたように眉を上げた。


「ロイ君は魔族が怖くありませんか?」

「なんで? あったことないのに?」


 俺が首を傾げると、ガストール祖父ちゃんは目を丸くし、後ろで聞いていたルードルフ祖父ちゃんは豪快に笑った。


「わはは、それはそうだな、ロイよ。見たこともない者は、怖がりようがないな!」

「いえ、未知のものほど恐ろしいと思いますが……」


 ガストール祖父ちゃんは苦笑して眉尻を下げた。

 そうやって、俺たちがのんびりと散歩をしていると、海沿いの通り道を塞ぐように、フードの人物が二人、立ちはだかる。

 大柄な人物とやや小柄な人物の、二人組だ。


「おやおや、これはいただけませんね」

「何者だ?」


 ガストール祖父ちゃんとルードルフ祖父ちゃんは、不穏な気配を察し、俺の前に出てわずかに身構える。


『グルルルルッ!』


 トニは、いつになく俺の頭の上で警戒を滲ませ、フードの人物二人に唸っていた。

 フードの人物二人からは、俺たちに向けて殺気が漏れ出していて、明らかに一般人じゃない雰囲気だ。

 王弟や使節団は、足手まといになると理解し、すぐに俺たちから距離を取って引き下がる。


 フードの男は顔を見せないまま、俺を指さして口を開いた。


「……そこのガキ。ロイとか言ったっけなぁ」

「我等と一緒に来てもらおう」


 フードの連中の狙いは、どうやら俺らしい。

 それを聞いた祖父ちゃん二人は殺気立ち、ガストール祖父ちゃんは杖を構え、ルードルフ祖父ちゃんはバキバキと指を鳴らした。


「ガストール。貴様は右のをやれ。ワシは左のをやる」

「えぇ。我々の孫を狙ったことを、死ぬほど後悔してもらいましょうか」


 次の瞬間、フードの男たちは祖父ちゃんたちに飛び掛かったが、右の男はガストール祖父ちゃんが張ったシールドに弾き返され、左の男はルードルフ祖父ちゃんの拳でガードした腕ごとフッ飛ばされた。


「チィッ!」

「人間風情が、やりおるわ!」


 男たちは、左右に分かれて祖父ちゃんたちを引き離そうとする。

 俺は闇魔法で男たちの足もとを狙い、足止めに徹した。

 この連中を殺すのは簡単だが、捕まえて俺を狙う理由を聞き出さなくては。


 俺と祖父ちゃんたち3人の連携の前に、男たちは劣勢になり、次第に中央へと押し返されていく。


「この……雑魚人間どもが! しゃらくせぇんだよ!」


 小柄な方のフードの男は、焦れて無理やり魔法を放とうとする。

 不安定な魔力が、まるで魔法の詠唱に失敗した時のように膨れ上がる。

 が、違う、これは失敗じゃない。

 意図的に爆発させようとしている!


「おれが『しーるど』でとめ……」

『ウオオォォォッ‼』


 俺が爆発を魔法で抑え込もうとした瞬間、トニがブワッと瞬時に魔力を放出し、辺りを呪い属性の魔力で押し包んだ。

 魔法無効化空間が形成され、トニが敵と見做した相手の魔法が相殺される。


「うおっ⁉」

「クッ!」


 爆発は当然相殺されて消え失せたが、相殺されたのはそれだけではなかった。

 バチンッ、と弾ける様な音を立てて、フードの男二人の顔の辺りを覆っていた不可視のシールドが割れた。


 驚いたのは、男たちだけではない。

 俺も祖父ちゃんたちも、目を丸くして、男たちの姿を見つめる。


「何……⁉」

「赤い瞳に……角……! まさか、魔族⁉」


 800年の間、確たる目撃情報もない、もはや伝説の存在なのではないかとすら思われ始めている人類の敵。

 魔王を戴く、人間達とは別の種、魔族。


 それが、わざわざこの俺を狙ってくるとはな。


「変装を破られるとは。面倒なことになりそうだ」


 大柄な方の魔族は舌打ちし、俺を真っすぐに見据える。


「これ以上御託を並べる時間はない。いいか、貴様の命はすでに魔王陛下が握っている」


 は? どういう意味だ?

 眉を寄せる俺に、その魔族は手を差し伸べる。


「魔王陛下より貴様を連れ帰るよう宣託が下された。死にたくなければ我らの元へ来い。託宣の子供、『魔王を解放せし勇者』よ」

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