おつかれさま
「これで俺の現役生活も終わりだ。長い間苦労をかけたな。」
「いえいえ。お勤め御苦労様でした。本当にありがとうございました。」
「老後の事までは考えていない。けれども追々考えていくよ。」
「ゆっくり休んでからで構いませんわ。貴方の一度きりの人生ですから。」
「家族サービスもしなくちゃな。今まで全然家庭の事は陽子に任せっきりだったし。」
「ええ。それは嬉しい事ですわ。お金の心配もいらなくなりましたし。」
「60歳になるまでは民間企業で働こうかな。」
「お金の心配は私がします。今まで通り。」
「陽子がそう言うなら、そうして貰うわ。」
「こんな時間に貴方が居るなんて違和感ですわ。」
「退官した自衛官はみんな一緒だ。俺もな。」
「ゆっくりなさって下さい。時間は山ほどありますから。」
「そうだ!旅行でも行くか?家族みんなで。」
「それは良い考えですわ。家族旅行なんて、夢みたい。」
「正直な話俺は父親失格だな。家族の為に必死で生きてきたけど。」
「貴方が居たから私達は生きて来れたのよ?」
「仕事人間の定年あるあるだな。」
「気を使わないで。貴方のお勤めはもう終わったんだから。」
「こうやってみると、まだまだ働き盛りなんだがな。」
「貴方は帝国陸軍の時からの古参兵でしょ?」
「まぁ、そうだけど。」
「陽平と陽奈も実は自衛官目指してるんですよ。だから父親である市田島純平元二佐の話が聞きたくて仕方無いのよ。色々教えてあげて。」
「おお!そうか。でも自衛官は楽じゃないぞ?」
「陽平は、防衛大学校に合格して、陽奈も陸上自衛隊の看護学生に合格したわ。」
「そいつは初耳だな。二人とも凄いじゃないか。」
「子は親の背中を見て育つと言うじゃない?」
「まぁ、将来が楽しみだな。」
「二人の努力次第でしょうね。大丈夫だとは思うけど。」
「一番近くで見てきた陽子がそう言うなら間違いないよ。」
「親の心境としては、この上無く心配だけど。」
「みんな変わって行くんだな…。俺の知らぬ間に。」
「成長していますね。時代もどんどん変わって行くように。」
市田島純平は、妻の陽子から我が子の成長ぶりを聞いて、素直に喜んだ。と同時に自分がこれからどの様に老後を送るべきか真剣に考え様とも思った。




