招請状⑤
市田島準平や中村太助元陸軍少尉以外にも、生き残った元帝国陸海軍の兵士に招請状が届いていた。それは、彼等を日本政府が必要としていたに他ならない。いくら、新軍(自衛隊)を立ち上げるとは言え、帝国陸海軍のDNAを完全に絶ちきるのは、不可能であった。素人だけでは、組織として成り立たない。仕事もろくに見つからない旧軍出身の将兵は、まさにうってつけの素材であり、彼等の存在なくして、自衛隊の創草期は有り得なかった。
旧軍兵士にとっても、棚からぼた餅の話で、断る理由が見つからなかった。稀に先の大戦でトラウマを持ってしまい、自衛隊には入隊出来ない者もいたが、それは少数派であった。日本政府としても、無理強いは出来ない。あくまで自衛隊は志願兵制度をとることが決まっていたからである。それでも間違い無く招請状は、旧軍将兵の心を揺さぶった。少なくとも、生活はグッと安定するし、旧軍であったしがらみもない。如何せん自分で意思決定を下す必要があった。
とは言え、自衛隊が旧軍と同じ物だと勘違いしていた旧軍将兵は沢山いた。事、前身組織が無い航空自衛隊は、0からのスタートで部隊運用は手探り状態であった。元になる法律や憲法も違う。軍隊ではない、あくまで自衛隊。
だが、その事に文句を言う旧軍将兵はいない。何故なら彼等にとっては、国家を守る組織に変わりはないからである。帝国陸軍の血を引く陸上自衛隊。帝国海軍の血を引く海上自衛隊。帝国陸海軍航空隊と米空軍の血を引く航空自衛隊。日常と言う当たり前を守るのが自衛隊の役割だ。事が起きたらそれにきちんと対処し、何よりも軍隊とは何かを知る旧軍将兵にとっては、自衛隊のオペレーションはそう難しいものではなかった。
とは言え、毎日の任務は日増しに困難になっていく。新しい事がドンドン追加されるからだ。それが陸海軍航空隊出身兵を中心に構成された航空自衛隊と言う場所であった。教えてくれる人がいないと言う経験は、ほとんどの将兵が無かっただろう。何はともあれ、自衛隊は陸海空そろって戦後の日本を守る為に見事に好スタートを切ったのである。
「領空侵犯?今の航空自衛隊の戦力でスクランブル(緊急発進)?無理やろ?」
「相手は国籍不明機だぞ?下手にドッグファイトなんかに巻き込まれて撃墜されるのが落ちだぞ?」
「分かっている。しかし、ソ連を始め国籍不明機は日本の戦力を図りに来ているんだ。戦えなくても良い。追い払える能力さえあれば。」
「それなら、プロペラ機でも代用は出来るじゃないか?」
「いや、無茶ですって。」
「自衛隊にジェット機が配備されるまでの繋ぎで良いんだ。」
と、こうして日本人は領空と言う防衛領域を守る事を覚えたのであった。




