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防人(さきもり)の戦後  作者: 佐久間五十六


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特攻の生き残り②

 戦争が終わる事が必ずしも軍人の幸せになるとは限らない。寧ろ生き残ってしまった事に罪悪感(サバイバーズギルト)を感じてしまう事も充分にある。市田島準平もそんな理由の分からないサバイバーズギルトに悩まされていた。

 特攻と言う絶対の死を前にした作戦に身を投じていれば、他の兵士よりサバイバーズギルトが強くなってしまうのも、無理は無い。何故自分は生きているのか?何故あいつは死んで、俺は生き残っているのか?生きて戻るなど郷土の恥さらしだ。そんな心無い冷言を放たれた事も追い討ちをかけていた。

 更に試練は続く。雇用主であった、大本営が敗戦により、消滅した事により、何百万人もの帝国陸海軍兵士が路頭に迷う事になってしまったのである。生きている以上おまんまは食っていかねばならない。市田島準平は、形振り構わずしらみ潰しに求人情報を求めては雇用主を探しまくった。

 幸いにも、MP(ミリタリーポリス)と言う米兵士の世話をする仕事にありつく事が出来た。だが、いざ仕事をやってみると、それは屈辱の連続であった。分かってはいた。敗者が勝者の為に尽くさねばならぬ事も。

 だが、心理的負担は想像以上だった。仕事自体はどうと言う事はない。とは言え、市田島準平は、プライドが高く忠誠心も強かった帝国陸軍軍人には、働きやすい仕事とはお世辞にも言えなかった。頭では分かってはいた。今この仕事を失えば、待っているのはコジキかヤクザの手先か、そんな糞みたいな人生しかない事を。そんな糞みたいな生き方を亡くなった戦友が許してはくれない。

 今は耐え時だ。生きて社会貢献し、日本の発展の為に寄与するべきであり、自殺など間違ってもしてはならない。特攻に行くよりは、何て事はない。どんな試練も乗り越える覚悟を持つだけだ。たとえ自分のプライドを傷つけ、米兵に何をされようとも。市田島準平の心境の変化は至極当然の様に見えるが、実はそうではない。こうした心境にいち早く達した日本兵と言うのは、少ないかも知れない。

 正直敗戦と言えども戦争が終わりホッとしたと言うのが、準平の率直な感想である。とは言え死んだほうがマシだったのかも知れない。こんな屈辱を味わう位なら。特攻は怖かった。と言うより、死ぬのが怖かった。どうせ自分一人が死んだところで、日本がどうこうと言う事でもないだろう。潔く死んで…なんて無責任かも知れない。それでも自分の生きていける場所は軍隊しか無かった。MPとしてずっと生きて行くのは、心苦しかった。だが生きて行く為には仕事は選べなかった。

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