18日目「写真」
3連休の真ん中の日。
仕事をしている時は文字通りの「休日」だったが、専業主婦の今は「莉音が家にいる日」という感覚に変わりつつある。
今日は爽子の両親が10時に訪ねて来ることになっている。
仕事を両親に相談なく勝手に辞めたので、久しぶりに会うのが非常に気まずい。
母が玄関とトイレの掃除に厳しいので、今朝はその2ヶ所を念入りに磨いた。
両親が来るまでの間、今日は写真の片付けをする。
箱に入っている写真を、とりあえず全部出し、床に並べる。
結婚式と新婚旅行の写真はアルバムに入りきらなかった写真がひと束ある。
もう一度一枚一枚見直し、残したい写真を抜いて残りは処分。
結構時間がかかる。
友達の結婚式の写真も、1、2枚ずつ残して処分。
会社の社員旅行の写真と、歓送迎会など宴会の写真多数。
男性の多い職場だったので、爽子はアイドル扱いで、爽子を真ん中にした大勢の写真が何十枚も。
年配の上司や同僚たちとのツーショット写真もたくさんある。
懐かしいけど、要らないかなと思う。
莉音に見せられない写真は全部処分。
自分が良く撮れている写真だけ少し残した。
自分でない自分を演じていた、本当の自分ではない、作っていた自分だけど、若くてそれなりにきれいだった。
写真だから余計にそう思うのかもしれないけど、輝いている。
自分の思ったような人生ではなかったけれど、それなりに楽しかった。
それを確認できただけで、写真を見直す意味はあったと思う。
次に莉音の写真。
保育園で年4回販売される写真が、封筒に入ったまま積まれている。
取り出すと、写真どうしがくっついていてかなりやばい。買う時は一枚50円することもあって、楽しみに買っていたのに。
全部袋から出し、月齢順に床に並べて行く。
1歳の赤ちゃんクラスから、先月の卒園までの5年分。
日付が無く、大きさもバラバラで、保管の仕方に迷う。
しかも、どれも選んで買ったものなので捨てられない。
手が止まっているうちに、10時近くになってしまった。
両親の車を置くスペースを作るのために爽子の車をマンションの駐車場から近くのタイムスに移動しに行く。
タイムスから戻ると、駐車場に既に父の車があり、どうやらすれ違ったよう。
両親はマンションの前に立って待っていた。
「来るのがわかっているんだから、その時間には家にいなさい」
あいさつより前に怒られてがっかりする。
話す時はいつも命令形。
いつもこんな感じだ。
玄関を開けてマンションに入ると、莉音が飛んで来て、両親もにこやかになる。
リビングで莉音が、ランドセルを背負って見せたりしている間にお茶を淹れる。
ランドセルは両親がお金を出してくれて、莉音が好きなものを選んで買った。
電話で「ラベンダー色にしたよ」と報告したら、「そんな色買って!いじめにあったらどうするの!」と怒られた。
入学式で他の子のランドセルも、水色やピンクやラベンダーで、予想通りとはいえホッとした。
そんなことない、と思っていても、親に言われると心配になってしまう。
そういえば莉音の名前を付ける時も、「ん」で終わる名前なんてダメだ、と言われた。
けど、無視して付けた。
ずーっと親の言いなりだと思っていたけど、通したいことは反対されてもやり通して来たかもしれない。
でも、何をやっても反対されて、面白くはない。
就職も進学も中学の部活も習い事も、両親の言いなりだった。
両親の希望通りの進路は、それなりに楽しかったが、それとこれとは別だ。
自分で選びたかった。
できれば自分で選んだそれを応援して欲しかった。
お茶を飲みながら、母から「1人で大丈夫なの?」「仕事しないで毎日何してるの?」「区民税払えるの?」「年金の手続きはした?」など矢継ぎ早に聞かれる。
「あんなにいい会社あっさり辞めちゃうなんて」「働いていた方が将来は絶対楽なのに」とため息混じりに言われ、
あまりパッパッと言葉が出てこない爽子は母の会話のテンポについて行けない。
「まったくあなたは!シャキシャキ喋んなさい!」っていつも怒られていた。
いつも言い返せなかった。
でも、もうやめるんだ。
変わるって決めたんだから、変えていく。
爽子は自分の呼吸で、ゆっくり話した。
「保険と年金は会社が手続きしてくれたから大丈夫だよ。
区民税は、概算でだいたい予想してたから退職金で出せるし、莉音と2人だけだから気楽にやれてるよ。
近所に友達も出来たし。
今は難しいけど、莉音が大きくなったらまた働くから大丈夫。
今はね、毎日片付けをしてるよ。
奥の部屋もすごく片付いたから、後で見てね。
2人には相談なく会社辞めてごめんね。
退職金たくさんもらったから、そのうちみんなで旅行にでも行こうね。」
すごい勢いで言い返されるかと思ったが、母はホッとしたようにうなずいて聞いてくれた。
父も、「爽子なら大丈夫だよな」と言ってくれた。
自分は大丈夫、そう決めたから大丈夫なんだ。
自分でちゃんと決めれば言われないのかもしれない。
母は、すっかり片付いたマンションを気に入ったようで、
「狭いと思ってたけどそうでもないのねえ。掃除がしやすそうだわ」と感心していた。
テレビボードの上に並んでいる義母の手作りグッズが違和感だ、と言って
「持って帰って捨ててあげようか?」なんて言い出すが、
「時期が来たら自分で捨てるから大丈夫
」と言って断った。
お昼は混ぜごはんと春巻きとサラダを作り、
「モトは使わないの?」と驚かれた。
煮物も春巻もドレッシングも手作りで、みんな「おいしい」と言って食べてくれた。
母の手料理はいつもお惣菜か、全部〇〇の素を使ったものだったので、それはそれで美味しかったけど、不満だったことを思い出した。
お弁当はいつも冷凍食品と魚肉ソーセージだったな…
お昼を食べながら、
そういえば、と切り出して
「蒼介さんが秋田に転勤になるから、私たちもそのうち秋田へ行くよ」と言ったら、
「どうしてそれを一番に言わないの!!!」と、また怒られた。
どうして、とかいつも疑問形で怒られてばっかりだなあ、とぼんやり考えていた。
怒っている状態が母のデフォルトなんだろうなあ。
「まったくあんたって子は…、結婚も退職も勝手に決めて、今度は転勤、って。親に1つも相談しないで」ってまだグチグチ言ってる母を、父が
「まあまあ、爽子ももう大人なんだから、親に全部相談しなくてもいいだろう」と諭してくれた。
母のこの被害者意識って、実は自分と似ている。
お互いひどいことされてると思ってるんだ。
私は変わろう、自分の人生の責任は自分で取ろう。
爽子は、母ににっこり笑いかけて、
「うん、急だったからごめんね。今週秋田に下見がてら旅行に行くからお土産買ってくるね」
と言ったら、睨まれた。
今日は片付け隊に書き込むネタがいっぱい。
親への気持ちも片付け中、って書こう。




