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転移したのに遅刻⁉ 獲得したスキルは《迷子》 〜方向音痴、異世界でも迷います〜  作者: 有馬 茶


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25/25

第25話 迷うは十五年前の夜

はじめまして。

数ある作品の中から、 この物語を開いてくださって、 ありがとうございます。


こちらはゆっくり投稿していくので、読者の皆さまも肩の力を抜いて、

ゆっくりででもついてきていただけたら嬉しいです。

ブックマークや評価、 感想が、 何よりの励みになります。

 ノクスの宿場の朝は、 驚くほど、 静かだった。

 けれど、 それは、 昨日までの「遅い静けさ」とは、 まるで違った。

 鳥が鳴いている。 洗濯物が、 風に揺れている。 通りを、 子供たちが走っていく。

 普通の、 朝だった。

 僕たちは、 昨夜の宿屋の食堂で、 遅い朝食を、 とっていた。

「アサノさん、 おかわりは」

「あ、 ありがとうございます」

 女将が、 パンの籠を持って、 にこにこと立っている。

 目の下の隈は、 まだ濃い。 けれど、 昨夜、 ぐっすり眠れたらしい。

「いやあ、 勇者様ご一行の、 おかげです。 ……それにしても、 不思議なんですよ」

「何がですか」

「あたし、 三日前の夜、 台所で居眠りして、 危うく、 火事を出すところだったんです。 でも、 気づいたら、 火が消えてて。 ……誰かに起こされたような、 夢を見て」

 僕は、 パンを、 喉に詰まらせかけた。

「ごほっ、 ごほっ」

「大丈夫ですか!?」

「だ、 大丈夫です」


 三日前。

 ……僕たちは、 その頃、 まだ、 ミラージュの、 北の街道を歩いていた。

 ここから、 三日分は、 離れている。

「夢の中で、 くせ毛の、 変な人が、 『定時です』って、 言ってて」

「……」

「それが、 おかしくて、 おかしくて」

「……そ、 そうですか」

 女将は、 くすくす笑って、 厨房へ戻っていった。

 食堂が、 しんと静まった。

「……アサノさん」

 リエナさんが、 小さな声で、 言った。

「今の、 お話」

「……聞こえてました」

「くせ毛の、 変な人が、 『定時です』と」

「……」

「……何でも、 ありません」

 リエナさんは、 紅茶を、 一口、 すすった。

 その手が、 少しだけ、 震えていた。



◇



 朝食のあと、 リエナさんが、 部屋の机に、 羊皮紙を、 ずらりと並べた。

「アサノさんの手記から、 写させていただいた、 記録です」

 紙には、 僕が書いた、 これまでの跳躍の記録が、 整理されていた。


 第一の跳躍。 夕焼けの村。 迷子の少女。


 第二の跳躍。 橋の上。 オーガ。 ヒカルくん。


 第三の跳躍。 灯りの里。 里の長。


 第四の跳躍。 巨像の工房。 親方。


 第五の跳躍。 湖底の街。 鐘楼の老婆。


 第六の跳躍。 宿屋の台所。 女将。


「……こうして、 並べてみると」

 リエナさんは、 眼鏡を押し上げた。

「共通点が、 ありました」

「共通点」

「どの跳躍も、 跳んだ先で、 誰かが、 『迷っていた』んです」

「迷って、 いた」


「はい。 迷子の少女は、 道に。 ヒカルくんは、 戦いの最中の、 背後への注意に、 迷っていた。

 里の長は、 灯りを、 どう灯すか。 工房の親方は、 像を、 どう止めるか。

  鐘楼の老婆は、 鳴らすか、 鳴らさないか。

   ……そして、 女将さんは、 眠るか、 起きるか」


「……」

「どれも、 『選べないでいる』瞬間でした。 そして、 アサノさんの一言が、 その人の背中を、 押している」

 僕は、 紙を、 じっと見つめた。

 言われてみれば、 そうだった。

「それから、 もう一つ」

 リエナさんは、 別の紙を、 取り出した。

「跳ぶ直前に、 アサノさんが、 誰を、 強く思っていたか」

「……え」

「手記に、 書かれています。 橋の跳躍の前は、 ヒカルくんのことを、 強く案じていた。

   灯りの里の前は、 『一人は、 いけない』という言葉。

    湖底の街の前は、 ヒカルくんの、 迷い。 ……そして、 昨日は、 町の方々の、 眠れない顔」


 ……確かに。

 どの跳躍の前にも、 僕は、 誰かのことを、 強く、 考えていた。

「もしかして」

 僕は、 息を呑んだ。

「僕が、 強く思った人の、 『迷い』のある場所へ、 跳んでいる、 ということですか」

「……可能性は、 あります」

 リエナさんは、 慎重に、 頷いた。

「ただ、 一つ、 分からないのは。 その『場所』が、 どうして、 毎回、 ここから遠い、 別の村や街なのか」

「……」

「近くに、 いる人の、 迷いなら、 近くへ跳ぶはずです。 でも、 いつも、 遠い」

 リエナさんは、 言葉を探すように、 しばらく黙った。

「……いえ。 まだ、 結論は、 出せません。 検証が、 必要です」

「検証、 ですか」

「はい。 ……アサノさんが、 誰か一人を、 強く思いながら、 わざと迷って、 跳んでみる。 そして、 跳んだ先に、 その人が、 関係しているかを、 確かめるんです」

「……」

 それは、 確かに、 やる価値のある実験だった。

 僕の力のことを、 もっとよく知れば、 もっと、 誰かの役に立てる。

「……誰を、 思えばいいでしょう」

「それは、 アサノさんが、 一番、 知りたい人で」

 僕は、 少し考えた。

 それから、 部屋の隅で、 黙って座っていた、 大きな背中に、 目をやった。

「……ドルガンさん」

「……何だ」

「協力、 してもらえませんか。 検証に」

「……何をする」

「ドルガンさんのことを、 強く思いながら、 迷って、 跳んでみたいんです。 ……よければ、 ドルガンさんの、 大事な物を、 お借りして」

 ドルガンは、 少しの間、 黙っていた。

 それから、 無言で、 首にかけていた鉄の笛を、 外した。

 十五年、 彼が持っていた信号笛。 今は、 僕の首にかかっているものとは、 別の、 予備の笛。

「……これだ。 ……俺が、 十五年前、 ハルト橋で、 吹いた笛だ」

「……え」

「……部下を、 呼ぶために、 吹いた。 ……誰も、 来なかったが」

 彼の手が、 ほんの少し、 震えていた。

「……好きに、 使え」

「……ありがとうございます」

 僕は、 その笛を、 両手で受け取った。

 ずしりと、 重かった。

 十五年分の、 重さだった。



◇




 夕暮れ前。

 僕とリエナさんは、 町の外れの、 麦畑の中にいた。

 背の高い麦の穂が、 風に揺れている。

 どこまで歩いても、 同じ景色。 道標も、 目印もない。

 迷うには、 うってつけの場所だった。

「ここなら、 安全です。 魔物の気配も、 ありません」

 リエナさんが、 羊皮紙と羽根ペンを、 抱えている。

「わたしは、 ここで、 見ています。 アサノさんが、 いつ消えて、 いつ戻るか、 時刻を、 記録します」

「お願いします」

 僕は、 ドルガンの笛を、 両手で握りしめた。

 それから、 目を閉じる。

 ドルガンさん。

 大きな背中。 寡黙で、 不器用で、 優しい人。

 十五年、 持ちこたえて。 誰にも、 「もういい」と言ってもらえなかった人。

 その人のことを、 強く、 強く、 思う。

 そのまま、 麦畑の中へ、 歩き出した。

 目を閉じたまま。 方向も、 分からないまま。

 右へ、 左へ。 立ち止まって、 回って、 また歩く。

 麦の穂が、 頬に当たる。 足元の土が、 柔らかい。

 どれくらい、 歩いただろう。

 目を開ける。

 ……どこにも、 リエナさんの姿は、 なかった。

 四方、 全部、 黄金色の麦の海。

 空は、 少しずつ、 暮れていく。

 ……迷った。

 その瞬間。

 首元で、 さらり、 と、 音がした。

 手の中の笛が、 かすかに、 震えた。

 足元に、 青白い円が、 開く。

「……来た」

 ドルガンさん。

 僕は、 心の中で、 その名前を、 呼び続けた。

 落ちる。

 歯車。 砂。 光。

 足の裏が、 地面を、 踏んだ。



◇




 ……夜だった。

 風が、 冷たい。

 目の前に、 大きな、 野営の天幕が、 張られていた。

 灯りが、 一つだけ、 隙間から、 漏れている。

 その周囲に、 いくつもの、 小さなテント。 兵士たちの、 寝息。 見張りの、 松明。

 遠くで、 水の音がした。 大きな、 川のようだ。

 橋が、 見えた。

 石造りの、 頑丈な橋。 長さ、 百メートルほど。 暗闇の中に、 ぼんやりと、 浮かんでいる。

 ……ハルト橋。

 首元の砂時計を見る。

 さらさらと、 砂が、 流れ始めていた。

 三分。

 僕は、 そっと、 大きな天幕に近づいた。

 見張りの兵士が、 いる。 けれど、 皆、 疲れきって、 うつらうつらとしている。

 ……誰も、 僕に、 気づかない。

 天幕の入口の布を、 少しだけ、 めくった。

 中は、 狭かった。

 粗末な、 木の机。 その上に、 古びた地図と、 一枚の、 羊皮紙。 小さなランプ。

 そして、 机に、 突っ伏して、 眠っている、 一人の青年。

 二十代半ばだろうか。

 がっしりした肩。 無精髭。 けれど、 顔は、 まだ、 少年のように、 若い。

 額に、 傷は、 ない。

 ……ああ。

 この人だ。

 若き日の、 ドルガンさん。

 彼の手の下に、 一枚の羊皮紙が、 押し潰されていた。

 作戦書、 だ。

 世界の文字で、 びっしりと、 書かれている。

 僕には、 読めない。

 けれど、 内容は、 分かった。

 「橋を落とすまで、 持ちこたえよ」。 「援軍は、 三十分後」。

 十五年前の、 あの夜の、 命令書。

 彼は、 疲れ切った顔で、 眠っていた。

 きっと、 三日、 眠っていないのだ。

 彼の寝顔を、 僕は、 じっと見つめた。

 ……間に合ったのだ。

 戦いの、 前夜に。

 僕は、 砂時計を、 見る。

 砂が、 もう、 半分近く、 落ちていた。

 一度だけ。

 僕に、 何ができる。

 彼を、 起こして、 「死なないでください」と、 言うか。

 ……でも、 それは、 きっと、 彼を、 苦しめるだけだ。

 命令に従って、 戦う人に。 「逃げろ」と言ったところで。

 それなら。

 僕は、 机に、 そっと、 近づいた。

 万年筆を、 取り出す。

 作戦書の、 端の、 余白。

 そこに、 小さく、 書き込んだ。

 日本語で。


 【撤退基準】

 援軍が三十分来なければ、 橋を捨てて、 退くこと。

 生きて帰ることが、 最優先。


 それから、 少し迷って、 もう一行。


 【所感】

 あなたは、 十分、 頑張っています。


 読めなくても、 いい。

 僕の字は、 いつも、 誰にも、 読まれなかったから。

 ……いつか、 読める人が、 来ます。

 ペンを置いた。

 足元から、 光の砂が、 渦を巻いて、 立ちのぼる。

 ドルガンさんの、 寝顔が、 少しだけ、 動いた。

「……ん、 う……」

 彼は、 目を覚まさなかった。

 けれど、 その眉間の皺が、 ほんの少し、 緩んだ気がした。

 僕は、 天幕を、 出た。

 夜の橋が、 遠くに、 静かに、 横たわっている。

 ……明日、 ここで。

 十九人が、 死ぬ。

 それを、 僕は、 変えられない。

 僕は、 そのことを、 なぜか、 知っていた。

 ……変えられない。

 けれど。

 ……それでも。

 僕は、 ペンを握りしめた。

 この言葉が、 いつか、 誰かに、 届くなら。

 それで、 いい。

 視界が、 光に、 呑まれた。





◇








 気がつくと、 僕は、 麦畑の中に、 座り込んでいた。

「アサノさん!!」

 リエナさんが、 駆け寄ってきた。

「消えて、 五分と三十秒です! 大丈夫ですか!」

「……はい。 ……たぶん」

 僕は、 頭を押さえた。

 記憶が、 みるみる、 溶けていく。

 夜。 橋。 天幕。 眠る青年。

 手が、 勝手に、 手記帳を開いた。


 【どこへ行ったか】

 夜の、 野営地。 橋が、 見えた。


 【誰がいたか】

 机に突っ伏して眠る、 若い兵士。 無精髭の。


 【何をしたか】

 作戦書の、 端に、 何かを、 書いた。



 そこまで書いて、 ペンが、 止まった。

 ……何を、 書いたのだろう。

 日本語で。 何かを。

 大事な、 ことを。

「アサノさん」

 リエナさんが、 僕の手記帳を、 覗き込んだ。

「若い兵士、 無精髭、 橋。 ……ドルガンさんの、 ことでしょうか」

「……たぶん」

「戻りましょう。 ドルガンさんに、 聞いてみましょう」



◇



 宿屋に戻ると、 皆が、 食堂で、 待っていた。

 僕は、 手記帳を、 ドルガンの前に、 広げて、 説明した。

 夜。 橋。 天幕。 眠る、 若い兵士。 無精髭。 額に傷は、 なかった。

 ドルガンは、 無言で、 聞いていた。

 その顔が、 みるみる、 蒼白になっていく。

「……天幕」

「はい。 机に、 突っ伏して、 眠っていました。 作戦書の、 上で」

「…………」

「その作戦書の、 端に、 僕は、 何かを書いたんです。 日本語で。 ……何を書いたのかは、 もう、 思い出せないんですが」

 ドルガンは、 ゆっくりと、 立ち上がった。

 それから、 無言で、 自分の胸元に、 手を入れた。

 革の鎧の、 内ポケット。

 ずっと、 肌身離さず、 持っていたらしい。

 彼は、 一枚の、 黄ばんだ羊皮紙を、 取り出した。

 擦り切れて、 端が、 ぼろぼろになった、 古い紙。

「……十五年前の、 あの夜の、 作戦書だ」

 かすれた声だった。

「……朝、 起きたら、 机に突っ伏して、 寝ていた。 ……そして、 気づいた。 端に、 見たことのない文字が、 増えていることに」

「……」

「読めなかった。 ……誰が書いたのかも、 分からなかった。 ……だが、 捨てられなかった」

 ドルガンは、 羊皮紙を、 僕の前に、 そっと、 置いた。

「……お前に、 読めるか」

 僕は、 その紙を、 見つめた。

 世界の文字で書かれた、 作戦書。

 その、 一番、 端の、 余白に。

 小さく、 細く、 流れるような、 文字が、 並んでいた。

 ……日本語だ。

 見覚えのある、 線の癖。 払いの角度。 止めの長さ。

 それは、 賢者の覚書の字と、 同じだった。

 そして、 僕の字とも。

「……読めます」

 声が、 震えた。

 僕は、 ゆっくりと、 読み上げた。

「『撤退基準。 援軍が三十分来なければ、 橋を捨てて、 退くこと。 生きて帰ることが、 最優先』」

「…………」

 ドルガンの、 呼吸が、 止まった。

「……それから」

 僕は、 続きを読んだ。

「『所感。 あなたは、 十分、 頑張っています。 読めなくても、 いい。 僕の字は、 いつも、 誰にも、 読まれなかったから。 ……いつか、 読める人が、 来ます』」

 食堂が、 静まり返った。

 ヒカルくんが、 口を押さえた。 ミーネが、 目を見開いている。

 リエナさんが、 そっと、 息を呑んだ。

「……なら」

 ドルガンが、 低く、 呟いた。

「……俺の、 十九人は」

「…………」

「……最初から、 退く道が、 あったのか」

 その声は、 ひどく、 静かだった。

「……ええ。 書いて、 ありました」

 僕は、 目を逸らさずに、 答えた。

「でも、 読める人が、 いなかったんです。 ……あの夜、 あの場所に」

「…………」

「……すみません」

「……何を、 謝る」

「僕が、 もっと、 読める字で、 書いていれば」

「……荷物持ち」

 ドルガンが、 僕の言葉を、 遮った。

「お前が、 書いたのでは、 ない」

「……え」

「……この字は、 賢者の字だ。 ……そうだろう。 リエナ」

「……はい」

 リエナさんが、 慎重に、 頷いた。

「賢者様の覚書と、 同じ筆跡です。 ……そして、 アサノさんの字とも」

「……先達の、 《迷子》だ」

 ドルガンは、 低く言った。

「……その男が、 十五年前、 あの夜、 俺の天幕に来た。 ……そして、 お前もまた、 同じ夜に、 同じ場所へ、 行った」

「……」

「……《迷子》は、 同じ場所に、 引き寄せ合うのだろう」

 ……そう、 なのだろうか。

 僕の胸の奥で、 小さな違和感が、 大きくなっていく。

 けれど、 僕は、 何も言えなかった。

 ドルガンは、 作戦書を、 じっと、 見つめていた。

 十五年、 読めなかった、 紙。

 その、 一番端の、 一行。

「……遅かった、 な」

 ぽつり、 と、 彼は呟いた。

「……十五年。 ……読める者が、 来るのが」

「ドルガンさん」

「……だが」

 彼は、 顔を上げた。

 その目は、 濡れていた。

 けれど、 その口の端は、 ほんの少しだけ、 上がっていた。

「……遅れて、 届いた。 ……それで、 いい」

 大きな手が、 僕の肩に、 そっと置かれた。

「……ありがとう、 荷物持ち。 ……読んでくれて」

 その手の重みが、 じんわりと、 胸に沁みた。

 ……僕は、 読んだだけだ。

 書いたのは、 別の誰かで。

 けれど。

 読んでくれる人がいる。

 それだけで、 言葉は、 生き返る。

 リエナさんの言葉が、 胸に蘇った。


 ——文字は、 嘘をつきません。

 ——読めないものは、 読まれるのを、 待っているんです。


 手記帳に、 一行、 書き足した。



 【所感】

 誰かを強く思って迷子になると、 その人の、 過去へ行ける。



 ……過去、 へ?

 僕は、 ペンを止めた。

 今、 僕は、 何を書いた?

「……どうしました」

 リエナさんが、 そっと、 僕の手元を、 覗き込んだ。

「いえ。 ……何でも、 ありません」

 僕は、 慌てて、 その一行に、 線を引いた。

 ……そんなはずは、 ない。

 時間に干渉する魔法は、 存在しない。

 オズワルドさんが、 そう言っていた。

 けれど。

 取り消し線の下の、 その一行は、 はっきりと、 読めた。

 首元の、 ドルガンの笛が、 かちりと、 小さく鳴った。

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