うさんくさいイケオジ新登場
今日は、朝からベテランの騎士達がバタバタしている。
その理由は、ある貴人が騎士団に来るからだ。
昨日。
「現王派のヴィルヘルム・ランクロード侯爵と、リリアンナ・ルカシュエ伯爵令嬢?」
「ああ、現王派の貴族の1人、ヴィルヘルム・ランクロード侯爵が、リリアンナ・ルカシュエ伯爵令嬢をつれて来るんだとさ。事務の女の子から聞いた」
それは、私達、新入り騎士には知らさせれていない情報だ。
「ヴィルヘルム・ランクロードって・・・、
現王派の大貴族じゃん。その大貴族が連れてくる令嬢ってことは・・・」
「リリアンナ嬢の家は、現王派についたのかもな。」
最近、騎士団の事務の女の子が1人辞めたらしく、
そこに、ランクロード侯爵が、リリアンナ嬢が事務仕事の経験があるから、どうか、と勧めてきたらしい。
「まあ俺達新入り騎士は近付けないけどな。」
「だよなあ、」
今日、団長と副団長に挨拶をしにくる、
ランクロード侯爵とリリアンナのことは、ベテラン騎士しか知らされていない。
新入り騎士に招集はかかってないため、致し方ない。
(団長、大丈夫かな)
副団長やベテラン騎士がいるなら、団長は安全だと思うけど。
(・・・って、私は何で心配してるんだ。私は団長を失脚させるのが目的なのに)
そして当日。
私達は、中庭での体術の鍛錬を終え、昼休みも近くなり、一足先に早く、食堂に向かっていた。
「なあミカ、俺、中庭にヘアゴムおとしてきたみたいだ、探すの手伝ってくれねえか?」
「おーわかった、」
イシスのヘアゴムを探しに、私達は中庭に戻る。
「どこだ〜?」
「ここらへんじゃないかと思うんだが、」
「落とし物をお探しですか?」
低く上品な涼やかな声が響き、顔を上げると、
うっすらと微笑みを浮かべた黒髪イケオジが立っていた。
「貴方は・・・」
「初めまして、私はランクロード侯爵です。」
(ランクロード侯爵!?)
黒髪を後ろに撫でつけて、何本かの癖のある前髪が垂れている髪型に、アメジストの瞳。
資料で見たことがある。
ランクロード侯爵は、黒いヘアゴムを手に持っている。
「これ、落ちていたんですが、貴方の探し物でしたか?」
「それ俺のです、ありがとうございます!」
私とイシスは、ランクロード侯爵に頭を下げた。
「新入りの騎士達が励んでいるところを見たくて、皆さんの稽古の様子を覗いてたんです。
皆さん良い動きをされてますね、」
「あ、ありがとうございます、」
非常に穏やかな喋り方だが、どこか温度のない声や瞳が、涼しい印象をもたせる。
(微笑みが、何というか、うさんくさいん)
ヴィルヘルム・ランクロード侯爵。
29歳で、現王派の貴族の1人。
紳士的で気品のある立ち居振る舞いに、容姿端麗な侯爵で、貴族令嬢からのアプローチが耐えないという。
しかし、かなりの切れ者で、油断ならない存在だと囁かれてもいる、若い時から王家の中で力を持つ存在なのだと言う。
(色んな男と遊ぶことが多い王妃が、
以前、見目の良いランクロード侯爵を浮気相手にと誘ったが、ランクロード侯爵は断ったって聞いたな)
「お名前をお聞きしても?」
「イシス・リオガルドです」
「ミカ・マグノリアです」
「イシス君にミカ君か、ああ、君たちの名は、
野外訓練の魔獣捕獲で活躍したと聞いてるよ。
ミカ君は、街で暴れる暴漢を、エヴァン副団長と共に捕らえたとか?」
「お褒め頂き光栄です。」
「イシス君ミカ君、この国の新入りの騎士殿たち、期待してますよ」
そう言って、微笑みを絶やさないランクロード侯爵。
しかし、こちらを見つめる瞳は、ミカエラ達をジッと観察しているようで、
まるで蛇に睨まれているような感覚になる。
「そうだ、久々に騎士団に来たからね、せっかくだし、騎士団を案内してくれるかな?ミカ君」
(え、私が??)
「・・・承知致しました。イシスは先に食堂行ってて、」
「あぁ、わかった」
騎士団の廊下を、ミカエラはヴィルヘルムと共に歩く。
「騎士団に入ってから、君の活躍はよく耳にしてるよ、騎士団で少し問題視されてたアッガス君のことも、君が立ち直らせたとか?」
「いや、そんな大げさですよ、」
「謙遜することはないよ。君が騎士として成長したら、人の上に立つ存在になれば、騎士団の未来も安泰じゃないかな?」
「いやぁ・・どうですかねぇ、あ、ここが食堂です。」
「ここが図書室」「こちらは、中庭の鍛錬場」「ここは稽古場で、個人で稽古をするのにも使えます」「こちらは宿舎に繋がる廊下、」「こちらは・・・ーーー」
騎士団の中を順々に説明していく。
「久々に来たから、見て行きたくなったんだが、こんな感じだったんだね。ありがとう、楽しかったよ。
昼休みにすまないね、」
「いいえ、あ、団長の執務室の前までご案内しますよ、」
「そうかい?ありがとう」
コッ、コッ、と、ランクロード侯爵の足音が、廊下に響く。
(The・貴族様って感じの人とこんなに話すの久々だな。ちょっと緊張で)
ギルロイド団長やエヴァン副団長、騎士団の皆も、貴族令息は多いが、
皆んな騎士団で過ごす中で、貴族としての上品な立ち居振る舞いは薄れていく。
「そういえば、ミカ君の名前のマグノリアとは、珍しい苗字だね。」
「あぁ、ギルロイド団長にも言われました。」
「マグノリアは、隣国の一部地域に多い苗字だからね。私も久々に聞いたよ。
隣国の辺境に住む独立民族に多いんだったんじゃないかな?ミカ君はそこの出身かい?」
「やー、あんまり詳しくはないですけど、確か。
でも、僕はその民族にはあまり関係無いと思いますが。」
隣国の辺境に住む独立民族は、魔法を使える数少ない民族だが、ミカエラは魔法は使えない。
ーーー使えなくなった、というのが正しいのだが。
「あの民族の出身は、魔法を使えるものね。
ミカ君は使えないのかい?」
「僕は魔法は使えません、」
魔法を使えたら便利だろうなあと思う反面、魔法を使える者は、その希少性から王家や権力者が囲いこもうとする。
色々と面倒なしがらみも増えるだろうから、
使えないままで良いのだ。
団長の執務室に着いた。
扉をノックし中に入ると、団長が驚いた顔をした。
「ミカ?どうして。今は昼休みで食堂に居るんじゃ」
「私が、通りがかりにミカ君に騎士団の案内を頼んだのです、」
「そうでしたか。ミカ、食堂に行っていいぞ、」
「案内ありがとう、ミカ君。会う機会があったら、また話し相手になってくれると嬉しいよ」
私は団長と侯爵にお辞儀をし、執務室を出た。
「あ〜緊張した。」
「ミカがそんなに緊張するなんて珍しいな。」
食堂で皆んなに混ざり、ようやく昼飯にありつけた。
「僕は以前、お会いしたことあるけど、ランクロード侯爵って物腰柔らかいけど、少し緊張するよね。」
マーティン先輩の言葉に、私は頭をブンブンと振る。
「大貴族の侯爵にまで名前が知られてるとか、ミカもイシスも有名人だな」
オーガスタスが、もぐもぐと咀嚼しながら言う。
「俺とミカ、侯爵に期待されるなんて、緊張するよなあ〜、なあミカ、」
「それな、『ミカ君なら人の上に立つ存在になれるよ』的なこと言われたけど、僕じゃギルロイド団長のようにはなれっこないしね。」
「そうか?ミカならなれるんじゃないか?」
「ええ、何で?ザガード」
「お前には、人を導く力があると思うぞ」
そう誇らしげに言うザガード。
「ないない、」
私は手をブンブンと振り、ご飯を食べる。
(ギルロイド団長みたいになれっこないし、
私は数カ月で騎士団やめるんだから)
そう、それまでに私とイシスは、ギルロイド団長を失脚させねばならない。




