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隠し事

 ホトを連れて部屋に行ったときにはすでに、彼ら以外はそろっていた。青龍やミズキは勿論、ツグミもおとなしく席に着き、セツも伏目がちにヒショウの席の背後に控えている。

「ありがと」

ホトを座らせると、ヒショウも席に向かった。

「セツ、あの」

「……」

あからさまに目をそらされた。この場での言及は出来ないためヒショウも問い詰めることはしないが、胸の鼓動がうるさくてたまらない。

 糸から聞こえてきた会話には耳を疑った。ツグミが思わず食いかかるほどの計画って何だ。何をする気なんだ。会議が終わったら絶対に今度こそ問い詰める。そう考えていたせいか自然と、視線はツグミの方に向いていたらしい。

「なんだ?私を敵のようににらんでいないで、早く朝議を始めろ」

いけない。無意識だった。

「失礼しました。はじめましょう」

今日の議題は、何だっただろうか。セツのことで頭が占領され、準備していたことが思い出せない。

「特に急ぎの議題がないのなら、俺から少し話したいことがあるのだがいいか?」

青龍が言った。

「ええ、お願いします」

青龍は眉間に眉を寄せており、深刻な問題のように思えた。ならば、最優先で審議するべきだ。

「ミズキ」

「はい」

指名をされて一歩、まえに出たミズキはうやうやしく頭を垂れるとゆっくりと口を開く。

「玄武国への出向のため、船の整備を指示していたときに聞いた話なのです」

 ミズキが話したのは、彼と彼の部下が昨日作業中に耳にした話なのだという。噂をしていたのは、玄武国の移民とみられる男達。建物の物陰で、まるで隠れるようにしてはなしていたのだという。彼らは、今の政権の移民政策に不満を持っているようだった。一見すると手を差し伸べてくれているようでいて、今の玄武国民は朱雀国なしでは生きられないような落ちぶれた国になってしまった。まんまとだまされた。この屈辱を晴らすためには、この国の政権と難民政策を支持していた朱雀に大きなダメージを与え、自分たちをはめたことの責任と贖罪を問う必要がある、と。ここまでは、残念な話だが、あの場所ではたまに耳にすることがある会話だ。そのためミズキも気には留めていなかったのだが、昨日はそれだけではなかった。「先生」は朱雀なのではないか、と、彼らは噂をしていたのだという。さらに、最近弟子として先生が連れていた青年は治療を行うだけではなく、裂け目もふさいで見せた。玄武様なのではないか。ならば奇襲はかけやすい、と。ただふざけて話している割には思い詰めているように見えた上に、ふざけてするにはあまりにも不謹慎に感じたミズキは、万が一男達のこの計画が現実になってはいけないと感じ、すぐに報告したのだという。

「今の話は本当なんですか?」

「当然だ。ミズキが嘘をつくメリットがない」

「それもそうですね。たしかに。でもどうして私が朱雀だと」

言いかけて、思いついた。ヒショウは完璧に隠していた筈だった。しかし、ヒショウではなく、セツが持つ朱雀の力から正体を勘付いた人間がいたとすれば?セツが力を使った瞬間を目撃し、彼の正体に気がつくことが出来る人間は、少なくとも三人はいた。あれがセツの言う通り陽動であったのだとすれば、セツが起していた奇跡を監視していた人間が他に大勢いたとしても不思議ではない。満身創痍だったセツの注意から逃れるのはいとも簡単なことだっただろう。

「朱雀様、あの場所に出向く際にはどうかお気をつけてください。それに、セツ君も、根も葉もない噂のせいで襲われないようにね」

ミズキや青龍、ホトはまだセツが持つ力を知らないはずだ。勘付かれてはいけないとヒショウはなるべく動揺を顔に出さないようにした。

「だが、ここまで玄武国の民の不安が高まっているとすれば、早めに手を打った方がいいのではないか?」

青龍が言うと、ヒショウもうなずいた。

「そうですね。早急に手を打たないと。実は」

「お待ちください。その件について、俺から少しいいですか?」

声を上げたのは、意外にもセツだった。ヒショウは思わず驚いて振り向く。

「いいよ。話してご覧」

ホトが言うとヒショウの引き留めもむなしく、セツは口を開けた。

「俺は、移民の受け入れはもうやめるべきだと思います。移民達の指摘も正しい。朱雀様が玄武国の民の暮らしを気にかけ、すぐにでも助けの手を差し伸べられる場所で世話をしてあげたいという気持ちはよくわかっています。しかし、いつまでもそれを続けていては、玄武国という国がなくなってしまうかもしれないと俺も思います。ここでいつまでも暮らせば良い。朱雀国の民になってしまってもいい。融合すれば良い。それは、傲慢のように聞こえます」

ヒショウは、声が出せなかった。かつて自分にしてきたものと同じ意見なはずなのに、こちらには一瞥もくれない様子と鋭く貫くような声音のせいか。身が震える。

「だが、それで追い返してしまってはそれこそかれらの不満は増すばかりだろう」

「ツグミ様の言う通りです。なので、移民達の帰還は希望者を募って段階的に行います」

「だがあちらでの暮らしは厳しいと聞いたが」

「そうです。そのために、俺は、朱雀様もあちらに渡るべきだと考えています」

「これは、セツと私で考えた案なんです。僕たちがあちらに渡って」

「朱雀様、大変申し訳ないのですが、俺は、ここにのこります」

「え?」

ヒショウは耳を疑った。セツは何を言っているんだ。確かにこの前ともに行くと言っていたではないか。

「俺は、ここに、残ります」

セツはもう一度言い聞かせるようにそうくり返した。

「おお。それは名案だね」

待っていたかのようにそう感嘆の声をあげたのはホトだった。

「セツ君はここ数日でかなりここでの仕事がなんたるかを学んだんだよね」

ホトが青龍の方を見ると、青龍とミズキはほこらしげに頷いた。

「朱雀様がここにいらっしゃらなくても代理が務まるぐらいにはなったつもりです。それに、俺が生きているあいだに朱雀様がご帰還できなくても俺の代わりが出来るように指示書はまとめてあります。朱雀様はあちらへ渡り、俺はここでその助けをする。それがもっとも効率的かつ現実的な方法かと思います」

「セツ君はここ数日、その資料をまとめるのに苦心していたんだ。完成させてしまうノだから、たいしたものだ」

「それはすごい。やはり私が見初めただけあったね」

妙だ。妙な胸騒ぎが止まらない。なんだ。何が起こっているんだ。

「セツ、話がちがいます」

「考えているうちにこちらの方が良いと思ったのです。ご安心ください。朱雀様のご教育のお陰で俺はもうホト様に危害を加えようなんて思っていませんし、忠誠を誓っております」

「そんなことが聞きたいんじゃない!」

ヒショウは、気がつけばそう叫んでいた。セツがホトに忠誠をちかう?それだけは絶対にあり得ないと断言できる。目をそらし、いつもとは異なる声音で苦しそうにつぶやく様子を見ていれば、彼が本心を言っていないことなどすぐにわかった。

「あなた方ですか?セツに何かを吹き込んだんですね?」

ヒショウはホトと青龍をにらみつけるが彼らはきょとんとした顔のまま首を横にふる。

「朱雀、何をいっているんだ」

「私に至っては過保護な君のせいでセツ君とまともに話したこともないというのに」

白々しい。ヒショウの中で、疑念は確信に変わっていた。

「セツ、いい加減にしてくれ。私に何を隠しているんだ!」

「俺はなにも。主に隠し事など、するはずもない」

かたくなに否定をするセツにもいい加減堪忍袋の緒が切れた。いわされているのなら、どうして助けを求めない。どうして自分を頼ってくれないんだ。あれほど培っていた筈の信頼は、もうなくなったのか?僕が壊してしまったのか?本当に、僕のことはもうただの主としてしか見ていないのか?

「いい加減に」

「朱雀、落ち着け。喧嘩は後で存分にしろ」

ツグミは怒鳴ったが、ヒショウは聞く耳を持たず、セツに食いかかる。見かねたツグミが仲裁にはいり、ヒショウには謹慎が申しつけられ半ば強制的に部屋に連れて行かれた。会議の続行は不可能と判断され、朝議はこれにて解散となる。

「しばらくはここで頭を冷やせ」

ヒショウを執務室にほうり込み、ツグミが絞めようとしたその扉を、ヒショウは糸で押さえる。

「先ほど、セツと何を話していたのですか?計画、とかなんとか言っていましたが、あの子は何をさせられているんです。あなたは何を了承したのですか」

「悪いが、この件に対して私は貴様に言うことはない」

「はい?」

「一つ言っておくが、あれはアイツがやられている計画ではなく、アイツがやっている計画だ。だから、信じてやってほしい」

「あなたまで一体何を言って」

ヒショウはそこまで言ってはたと気がついた。

「私はかつて、貴様とセツを引き離したことを、未だに申し訳無いと思っていた」

「急になんですか」

「だけどさっき、アイツの未来が、見えたんだ。私はそれを見て、やっとすくわれた気がした」

「一体何を」

「アイツは、玄武達が一度は選んだ人間なだけあるな。ありがとうと、伝えそびれてしまった」

「はい?あの」

「アイツに伝えてやってくれ。すまなかった。それに、ありがとうって」

ツグミはこぼれ落ちた水滴を隠すように力尽くで扉を閉めると、静かにもたれかかり額を手で拭う。

 その日、セツは王宮から姿を消した。


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