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アンシュの穴──ヴェズの魔法使い1──  作者: ginsui


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6/13

 リューが長椅子に座ると、クウはテーブルの上に飛び乗って蜂蜜を待った。

「リューは、どんなこと言ってたの?」

 クウの前に蜂蜜の皿を置いてやりながらレムは訊ねた。

「ガウシャイィ」

「ガウ?」

「ガウシャイィ。彼女がいた所だ。森にかこまれた大きな湖があって、いくつかの島が点在している。その島の一つに彼女は住んでいた」

「ヴェズにはない場所なんだね」

「それどころか」

 フォーヴァは言った。

「空の色は紫で、小さな二つの太陽がまわっている。一日のほとんどが昼間だ」

 レムは目を見開いた。

「あるの? そんなところ」

「大陸は違っても、空は同じはずだ。二つの太陽などありえない。リューは、われわれとは違う世界の住人らしい」

 レムは唖然とした。ヴェズの外のことすら考えたことがないのに、違う世界なんてとっぴようしもなさすぎる。海で繋がっている別の大陸も、違う世界も、普通では行き着けないことに変わりはなかったが。

 レムは、思わず頭をかかえた。

「リューは、ぼくの家族のことを知らないかな」

「よそ者の話は聞いたことがないと言っていた」

「そう……」

 リューは〈穴〉に落ちてこの世界にやって来た。〈穴〉の中に消えた自分の家族も、リューのようにどこかで生きているはずだ。

 レムはそう信じたかった。まるで知らない世界に放り出されても、きっと。

 クウは蜂蜜をきれいに舐めおえると、レムの頭の上によじ登った。小さな足の感触がくすぐったくて、レムは思わず肩をすくめた。

 リューは、ゆったりとした笑みを浮かべていた。フォーヴァが彼女の前に屈み込み、その肩に両手をおいた。

 フォーヴァはリューの目をじっと見つめた。

 リューは瞬きもせず、見つめられるままになっていた。

 レムは、はっと息をのんで二人を見守った。二人はぴくりとも動かない。

 長い時間が過ぎたかに思われた。

 ぐらりとフォーヴァの身体が横にかしぎ、彼はうずくまるようにして倒れ込んだ。

「フォーヴァさん!」

 クウが驚いたようにレムから飛び降りて、まっしぐらにリューの頭にもぐりこんだ。

 レムは、あわててフォーヴァに駆け寄った。

「どうしたの?」

 フォーヴァは軽く頭を振り、息を吐き出した。

「もっとリューの奥に入りたかった」

 フォーヴァはのろのろと立ち上がった。

「彼女の深層から来た道筋を探り、来た世界にたどり着けないかと思った。帰り道が判れば──」

「わかったの」

「いや」

 フォーヴァは首を振った。

「だめだった」

「だめ」

 レムはリューに目をやった。リューはレムを見返して、とまどったような笑みをうがべた。その髪の毛の間からクウが顔をのぞかせている。

「なぜだ」

 フォーヴァはつぶやいた。

「いくら心を伸ばしても、なにも探せなかった。私の力が及ばないのか」

「少し休んだ方がいいよ、フォーヴァさん。顔が真っ青だ」

 リューがフォーヴァに歩み寄った。フォーヴァを見上げ、彼の胸に手をかけて何かを語った。

 フォーヴァは目をそらして一歩退き、リューの手から身体を離した。

 リューは何と言ったのだろう。

 しかし、いま訊ねるのはやめにした。フォーヴァの青白い顔に、ほんのりと赤みがさしたような気がしたから。


 数日が過ぎた。

 リューは、レムでもはっきりとわかるほど変化していた。

 当初のほっそりした少女の肢体は、豊かな丸みを帯びてきた。顔の輪郭はひきしまり、緑色の目がいっそう大きく見えた。それは美しい潤いをたたえ、草原のように輝いた。

 朝が来るたび、彼女は成熟していた。少女から女性へと。


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