詰問
日野富子の住む御所へ行った翌日、京の情勢は程よい緊張状態ではあるものの、まだ争いに発展する程では無いので、俺は僅かな供回りと共に石山三峯寺へ向かい、三峯寺の増築状況を視察する事にした。
史実だと、石山の地には本願寺が御坊を建立し、織田信長の包囲をものともしなかった要害の地だ。
ここを史実の石山本願寺と同様に要害とすれば、畿内への足掛かりにする事も出来る。
まあ兵が居なければどんな要害であっても簡単に落とされるので、兵をどうするかが課題ではある。
本願寺と違い、三峯寺は修験道場のある三峯宮の分社に近く、山岳信仰をする者の拠り所とはなるだろうが、本願寺のように武士のみならず民百姓、老若男女が兵となる事は難しい。
だが豊嶋家が兵を常駐させるには明確な口実が必要だ。
明確な口実…。
石山三峯寺の海側を埋め立てて湊を作り、町を建設する。
そこの治安維持と防衛目的として三峯寺より要請されたとして兵を置くのが妥当だが、それでも1000程が限度だろうから、近隣を専業兵士に開墾させて流民などを受け入れいざという時の兵とするのが関の山だな…。
摂津の守護は細川政元だから、日野富子を亀王丸擁立派に引き入れた功として石山周辺の土地を貰うか。
そう思いつつ、川を下って石山三峯寺に向かおうと船に乗り込もうとした時、数人の家臣が馬で追いかけて来て急を告げる。
「申し上げます!!! 朝廷より殿に詰問をする為に、権中納言鷹司政平様を始め公家の方々が昼頃に本能寺に来られると先触れがございました!! 急ぎお戻りを!!!」
余程急いでいたのか、馬で俺達を追いかけて来た羽馬一馬は、転がるようにして馬から飛び降りると、俺の前で片膝をつき、息を切らせながら一気に報告をする。
「詰問だと? 朝廷よりとは穏やかではないな。 して何に関して詰問するかまで先触れの者は言っておったか?」
「いえ、殿が不在と知ると、昼までに本能寺に呼び戻すよう、きつく言われ帰られてございます」
詰問とは穏やかではないが、豊嶋家を金蔓にしていない公家の先触れが高圧的な態度で俺を呼び戻せとは…、全く詰問をされる身に覚えが無いんだけど。
銭の鋳造は秘匿しているし、海外との貿易に関して文句を言うのであれば、朝廷ではなく将軍家のはずだ。
ただ、詰問をしに来るのが、官位を得る為に懇意となった、権中納言である鷹司政平との事なので無下にも出来ないので急ぎ宿舎としている本能寺に戻り、身支度を整え、本能寺にやって来るであろう公家を持て成す、供応の支度をさせる。
そして日が真上に登り切った頃、権中納言である鷹司政平を始め6人の公家が本能寺にやって来たので門前で出迎え、本能寺の本堂に通す。
上座には鷹司政平が座り、少し下がった左右に鷹司政平と共に来た公家が3人ずつ座る。
俺は下座にて平伏し社交辞令的な挨拶をするが、反応はいまいち芳しくない。
本能寺に来た鷹司政平をはじめとした公家の3人は、官位を受領で来たお礼として江戸に屋敷を与えた者達で、古河公方との合戦が始まる前まで江戸に下向しており、俺としては昵懇と言っても良い間柄のはずなんだが、他の3人とは面識がなく、恐らく俺が官位を求めた際に静観したか反対したかで利益を享受出来なかった者達の可能性が高い。
面を上げ、公家達の顔を見ると、一様に苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「豊嶋武蔵守宗泰殿! 其の方に問い質す事がある! 裏表なく問いに答えられよ!!」
公家の1人がそう言うと、苦々しい顔をしていた鷹司政平が口を開いた。
どうやら、今回詰問に来た理由は、俺が豊嶋家の統制を図るために組織を一新し、各部門の名前に省を使い、その長を長官としたこを、朝廷内で問題視する者が居たようで、今回、詰問と言う形で鷹司政平が本能寺までやって来たようだ。
「さて、麿が参ったのは、武蔵守が朝廷を軽んじ、叛意を抱いているのではないかと朝廷内で問題になっておる故、麿が直々に問い質しに参った。 心して答えよ!!」
少しきつめの口調だが、鷹司政平自身はあまり今回の詰問に乗り気でないような感じの口調で、淡々と話し始める。
要約すると、豊嶋家が家中統制の為に、天皇の直轄機である省を勝手に作り、四等官制で1番上の長官を任命した事。
そして省の長官である卿は省によっては慣例的に親王任官であり、更に、問題視されているのは、朝廷内でも大蔵省の長官が不在で任官されていないにも関わらず、商人を大蔵省の長官とした事が問題視されているとの事だ。
「何か弁解する事はあるか?」
「畏れながら、弁明の余地もございませぬ。 某は田舎者の東夷ゆえ、朝廷の仕組みを世に広め、各国人や守護が朝廷を模した仕組みにて政を行えば、自ずと朝廷への敬意が湧き、いずれ帝の下、天下が静謐になるものと思っての事。 受領名と同じものと思った次第にございまする。 なれど、朝廷を蔑ろにしているなどと思われるだけでなく、叛意を疑われているとなれば、早急に各省の名を変更し、長官ではない呼び名を付けまする」
「うむ、帝は大変お怒りである。 早急に変えられよ。 だが大蔵省の長官に商人である者を任じたのは如何なる次第か? これも返答によっては大事ぞ!!」
「畏れながら、我が豊嶋家の家中にも財政を任せられる者がおらず、銭の流れを良く知る大店の商人を登用した次第…」
そう言い平伏すると、1人の公家が口を開き、「それが朝廷を蔑ろにしている証拠だ!!」と声を荒げる。
「田舎者である東夷の浅慮、平に、平にお詫び申し上げまする」
「では武蔵守は、此度の一件を如何するつもりじゃ?」
「即座に江戸へ使者を送り、省と長官を廃止し、別の名を付けまする。 また帝へお詫びとして銭5000貫文を献上させて頂きたく」
「うむ、なれば良しとはいかぬが、武蔵守が非を認め、悔い改めるのであれば、これ以上の詮議は無用!」
そう言う鷹司政平に対し、江戸に館を持っていない3人の公家が口々に「斯様な言葉のみで許される事では」と言い出すが、鷹司政平はもう用は済んだとばかりに席を立ち、本堂を出て行こうとすると、ついて来た公家達もそれに続いて本堂を後にした。
ネットで調べて現代の感覚で各省を配置し長官を任命したけど、まさか朝廷から苦情が来るとは…。
省を所に改めて、長官という呼び名を所長にして、大蔵省は財務所に変更しよう。
あと、鷹司政平に付け届けをしないと…。
俺と親交のある公家の屋敷を回って付け届けをしたら何かと問題になりそうだから、鷹司政平に他の公家達への分も含めて付け届けをしないとな。
それにしても受領名は黙認しているのに…。
豊嶋家の台頭による恩恵を受けていない公家の逆恨みは怖いな。
後で、今回の事を問題視して騒いだ公家のリストを貰おう。
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