真里谷信興と甲斐
■江戸城
「お目通りが叶い恐悦至極。 宗泰様におかれましてはご機嫌麗しゅう…」
江戸城の一室で上座に座る俺に平伏しながら一人の男が口上を述べている。
真里谷信興。
俺が里見家の配下に加わるよう命じ、さらに監視を命じておいた男だ。
「よう参った。 だが、わざわざ江戸城まで信興自らが来るとは、何か里見に動きがあったか?」
「はい、事の仔細は掴めておりませぬが、まずはお耳にと思い、密かに罷り越しました次第」
そう言い、真里谷信興は軽く頭を下げると、里見について知りえた情報を話し始める。
真里谷信興が手に入れた情報。
それは里見成義が、海での商いに乗じて、駿河の伊勢盛時と頻繁に書状のやり取りを行っているとの事だった。
うん、それ知ってる!!!
風魔衆に加え、里見家がまだ安房の一国人衆だった時送り込んだ浪人の中に豊嶋家と未だに通じている者がいるのだ。
その程度の情報なら容易に俺の耳に届いている。
「仔細は掴めぬか…。 管領である細川政元殿の仲介で、駿河の伊勢盛時とは和議を結んでおる。 故に里見と伊勢が書状のやり取りをしているだけでは、咎め立ても出来ぬ。 とは言え伊勢の事、恐らく良からぬことを企んでおるのだろうが…」
「恐れながら! 某の方より伊勢に近づくのは如何にございましょう?」
「いや、仮に里見成義と伊勢盛時が手を組んでおれば、里見に真里谷攻めの口実を与えかねん。 信興は無理のない範囲で里見を探ってくれ」
「ははっ!!」
「それはさておき、信興に謝らねばならぬことがある」
「謝らねばとは?」
怪訝な顔をする真里谷信興に、あえて難しい顔を作って話を進める。
「甲斐についてだ。 信興を甲斐源氏の惣領とし甲斐に所領を与えるつもりであったのだが…」
「そ、それは某に甲斐は与えられぬと?」
動揺を隠せない真里谷信興に、「そうではない」と言い、甲斐の現状をあまり理解していない信興に、甲斐を襲った疫病と飢饉による荒廃状況、そして信濃の情勢を説明する。
「な、なんと!! では豊嶋家が…、いや、宗泰様が豊嶋家の蔵を開き、民が飢えぬよう食料を与え続けておられるのでございまするか?」
「そうなる。 甲斐を攻め取る前は、手に入れた直後に信興を甲斐武田家の惣領として所領を与えようと思ったのだがな…。 至る所に屍が放置され、民も木の根、木の皮を食べ飢えを凌いでいる状況では、所領として与える訳にはいかぬであろう。 故にせめて、甲斐の民が安んじて暮らせるようにと思っておったのだが、時と金がかかり今暫く先になりそうなのだ」
話を聞いていた信興は、凄惨な状況の甲斐に土地を与えられた場合、自身で甲斐を立て直せるのかと考え、すでに莫大な費えを投じているにもかかわらず、未だ安定したと言えない地を与えられずに済んだ事に安堵の、それでいて不安げな表情を浮かべている。
まあそれもそうだろうな。
真里谷信興の財力では甲斐の凄惨な状況を打破する事は出来ない。
だが、それを豊嶋家が行う事で、領民は自分達の生活を救ってくれた豊嶋宗泰を名君として称えるだろう。
そんな土地を与えられたとして自分が上手く治める事が出来るのか心配しているはずだ。
その後も、甲斐の話をし、真里谷信興を不安にさせて、話が一区切りついた所で、政務があると言い、話を打ち切る。
うん、真里谷信興は完全に甲斐に所領を得た時の心配をしていたな…。
実際の所、甲斐に所領を与える事も、甲斐源氏の惣領にするのも俺的にはどうでも良い事ではあるんだが、今は信濃への足掛かりとして、甲斐は豊嶋家が統治していた方が都合が良いのだ。
真里谷信興が伊勢盛時の甘言に乗せられて裏切らないとも限らないのだから。
それにしても、伊勢盛時の動きが気になるな…。
風魔衆の話では、三浦時高、高虎親子だけでなく、三浦家の家臣にも書状を送っていると言う報告を受けているし…。
恐らく三浦親子が裏切る事はないだろうが、三浦家の家臣は分からない。
風魔衆に命じて里見、三浦、両家の監視を強化させよう。
杞憂で終われば良いんだが…。
稚拙な文章ではございますがお読頂き誠にありがとうございます。
また誤字報告ありがとうございます。
本当に、誤字脱字、言い回し等、稚拙で申し訳ございません。
また、評価、ブックマークありがとうございます。
評価を頂けると大変励みになります。
是非↓の★★★★★にて評価をお願い致します。




