静観の装い
1485年3月 日野の陣
3月になり、寒さも和らい…、でなくまだ寒いが、多摩川の河川敷には草木が芽吹きだし始め春が近づいて来ていると実感しだした頃、多摩川を挟んで日野の陣の対岸に、足利軍の砦が完成したようだ。
今は川越までの道を整備しているようだが、風魔衆の報告では雑木林などを切り開いての作業の為、あと一月ぐらいはかかるだろうとの事だった。
日野に陣を敷いた時から対岸に砦を作り、豊嶋軍の動きを制限しようとするだろうと予測はしていたので俺自身、驚きはしなかったが、家臣や国人衆の多くが兵を出して、砦建設を邪魔するべきと主張するので数回程多摩川を渡河し襲撃をさせたが、当然足利軍も予測して兵を配置しており、襲撃をおこなう度に小競り合いが行われた。
うん、いざとなれば夜間にでも風魔衆に滑液包炎(火炎壺)を投げ込ませて燃やせばいいので問題視はしていないが、家臣や国人衆の多くは豊嶋軍の動きが制限される事になったと言い、軍議の場でもどのようにして対岸の砦を攻略するかと言う話が毎回出ている。
砦は邪魔だが、川越まで続く一本道は害にもなるが、豊嶋軍の益にもなるので、とりあえずは砦攻略は川越までの道が完成した後に検討すると言う事で、現状は家臣や国人衆を強引に納得させている。
風魔衆の報告によると、砦を守るのは、長尾景春の兵2000に加え、簗田政助が100の手勢を率い入ったとの事だ。
簗田政助と言えば、足利成氏の重臣で関宿城(野田市関宿三軒家)の城主である簗田成助の弟だから、さしずめ長尾景春の監視と言ったところか。
うん、風魔衆からの報告と、吉良成高から知らされた情報が一致している。
それしても景春は、足利成氏に、豊嶋、太田、成田領の農民への乱暴狼藉乱取りを禁止させ、普段通りに農作業をおこなうよう命じる触れを出させたと聞いているが、完全に成氏に味方する者達の所領扱いだな。
まあ、合戦に勝っても所領が荒れ果ててたら領民を救済しないといけないから出費が嵩むけど、景春のおかげで合戦が刈入れまでに終われば、多少なりと収穫量が減るだろうが年貢の心配をしないで済むうえ、領民が困窮する事も無い。
景春様様だな。
刈入れまでに合戦が終わればだが…。
あと吉良成高の報告では、成氏軍は江戸湾にある湊より兵糧や酒を買い、遊女を呼び込んでいるようで、半月ほど前には兵達に大盤振る舞いをおこなったらしい。
おかげで米を蓄えていた伊豆大島から米を運ぶ回数が大幅に増えた。かなりの量が貯えてあるので、運搬が滞らなければ問題は無いが、豊嶋領で作られている酒は恐らく夏頃には枯渇するな…。
成氏軍に豊嶋領産の清酒は勿体ないから、味は落ちるが、今の内から相模、伊豆、安房辺りから濁り酒を買い込んで、灰をぶっこんで澄酒に変えて商人に川越へ売りに行かせよう。
勿論、豊嶋領で作られた酒として…。
ついでに、最近では勝手に【豊嶋大吟醸】と名付け、特製の酒壺に入れた毎日補充される日本酒も希少品として高値で売らせよう。
商人達のホクホク顔が目に浮かぶ。
まあ俺もホクホクになるんだが…。
因みに常陸の大掾清幹は可哀そうな事に、佐竹義治率いる10000の兵に攻込まれ、居城である府中城(茨城県石岡市)に追い込まれ、最後は自刃して果てたとの事だ。
どうやら佐竹義治は、大掾清幹が籠る府中城に対して損害を無視して苛烈な我攻めをしたようで、府中城近隣に潜んで合戦の様子を探っていた音羽半兵衛の配下からの報告では、城に籠っていた兵だけでなく、女子供まで撫で斬りにしたらしい。
戦国の世は無常だ…。
常陸を手に入れたら、府中城の近くに、大掾清幹と城で撫で斬りにされた人の為に、寺を建てて弔ってあげよう。
なんせ、撫で斬りを命じたのは佐竹義治だけど、大掾家が滅ぼされたのは俺のせいだし!
その後、佐竹義治は死傷した兵を除いた8500程の兵を率いて川越に戻って、成氏に武功を称賛されたとか。
まあ成氏にとっても、常陸で成氏に従う国人衆達にとっても、大掾家は目の上のたん瘤状態だったから撫で斬りをおこなったにもかかわらず、誰からも非難されなかったようだが、常陸の国人衆で川越に残った者達からは、手柄を独り占めされたと、陰で嫉まれているようだ。
個人的には大掾家の所領をそのまま佐竹家の所領にしてくれれば良かったんだけど、流石にそれはしなかったらしい。
それにしても成氏は太田道真の挑発に乗って川越城に拘ってくれているのは助かるが、いつまで川越に拘ってくれるか。
その辺を見誤ると江戸城が危ないから、吉良成高以外からも情報を仕入れていかないと。
さて、まだ穴があるけどこの合戦に勝つ為の策が見えて来た。
じゃあ俺はこっそりと日野の陣を抜け出して調略に行こうかな…。
稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
宜しくお願い致します。
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