凶報
■川越城
悪い知らせは重なるもので、太田道真から歌で挑発された翌日、2名の者が川越城を攻める足利成氏軍の本陣に駆け込んで来た。
最初に駆け込んで来た者は古河の留守居を任せていた家臣からの急使で、急ぎ知らせを伝える為に、息も絶え絶えになり、両脇を本陣の兵に抱えられて成氏の前にやって来た。
「も、申し上げます!! 一昨日の夜、野盗の集団に古河の町が襲われましてございます!! また、その際、火の手が上がり、折からの風に煽られ古河の町が火の海に…。 また、野盗共は火を消そうと留守居の者が出払ったのを見計らったかのように、手薄になった御所に侵入し、荒らしまわった挙句、火を放ち、御所が半焼致しました!!」
「こ、古河が野盗に襲われただと!! 被害はどうなっておる! 野盗共は捕えるか討ち取ったのであろうな!」
「恐れながら、留守居の者は、民の避難を優先し野盗を取り逃がし、そればかりか、混乱に乗じて野盗が御所の中まで侵入し略奪をしたうえ火を放ち…。 申し訳ございませぬ、火の手が上がった風下にございました兵糧庫などが焼け落ちてございまする。 町に住む民は、着の身着のまま逃げ出したため、死傷者は少のうございませぬが、古河の町もほぼ燃えており、食料が不足し…」
「お、おのれ!! 急ぎ古河に戻り、野盗を討伐せよ!! 首を古河に晒すのだ!! いや、その前に、焼け出された者達に食料を分け与えろ」
「そ、それが、御所の兵糧庫が焼け落ち数日分程度しか…」
「急ぎ栗橋城(茨城県猿島郡五霞町付近)と関宿城(千葉県野田市見宿町)に集めた兵糧を古河の民に与えよ! それと留守居の者、町の男を使い仮の家を建てるのだ。 これから寒さが増す! 飢えは兵糧を与えれば凌げるが寒さを凌げねば多くの者が凍え死ぬ。 急ぎ戻ってそう伝えよ!」
「ははっ!!」
使者は返事をすると、疲労困憊した表情のまま古河へ戻っていく。
古河が野盗の襲撃に遭い、火の海になった…。
今迄、大軍を擁し古河を留守にした事は何度もあるが、野盗が古河の町を襲うなどという事は一度も無かった。
誰かが裏で糸を引いているのか?
野盗に古河を襲わせたのは豊嶋宗泰ではないのか?
いや、豊嶋宗泰しか居ない。
何故なら他に古河を襲って得をする者が居ないのだから。
そう成氏は結論付け、伊賀者を纏める百地権六を呼ぶよう命じる。
百地権六が成氏の元に現れた直後、扇谷上杉定正の家臣が急ぎ拝謁をと川越に駆け込んで来た。
川越に駆け込んで来た扇谷上杉定正の家臣は7人程であり、見るからに敗残兵の様相を呈している。
そして、伝えられた内容は、相模で上杉定正、三浦高救の軍が、豊嶋宗泰、三浦時高の軍に大敗し、三浦高救は行き方知れず。上杉定正は川越に向けて敗走中、相模川を馬で渡河していた際に落馬し、川に流され溺死したとの内容だ。
成氏達の予想では、扇谷上杉定正と三浦高救が兵を挙げ、三浦時高と相模で合戦に及んだとしても、即座に決着は付かず、合戦が長引くと。
だが、豊嶋軍が江戸から相模に兵を進め、参戦した事で、一気に形勢が傾き、大敗を喫し、扇谷上杉家の当主である定正が敗走中に死亡した。
江戸城から豊嶋宗泰が出陣し、相模に向かった事は把握していたが、上杉、三浦軍を牽制するだけで、相模の合戦には関わらないと誰もが思っていた。
成氏が、報告を聞き、諸将を本陣に集めるよう指示を出し、諸将が集まるまでの間、呼び出した百地権六に古河での事についての見立てを問う。
「畏れながら申し上げます。 古河には某の配下を残してきておりませぬ故何とも…。 ただ、豊嶋の仕業と考えるのが妥当ではございますが、川越を探る風魔衆の動きが活発となっておりまする故、古河に風魔衆を多数送り込む余裕があるとは思えませぬ」
「なれば野盗が勝手に集まり古河を襲ったと言うのか? 豊嶋の風魔衆が裏で糸を引き、野盗を嗾けたのではないか?」
「確かにその可能性もございますが、豊嶋が裏で糸を引き古河を野盗に襲わせたのが露見した場合、報復として江戸を襲われるのは火を見るより明らかなこと、それを承知で古河に手を出すものかどうか…」
「確かに余が留守にしている間に古河を襲えば、当然、豊嶋宗泰が留守にしている江戸を報復に襲うよう声を上げる者もおろう。 だが余は江戸を無傷で手に入れたいと思っておる。 それを豊嶋が察して襲撃させたとは考えられぬか?」
「某では何とも申し上げられませぬ」
成氏の問いに対し、豊嶋家内に配下の伊賀者を送り込めていない百地権六は、これ以上推測で話をした結果、見当違いであった場合、伊賀者の評価が落ちるのではと思い、これ以上は話すべきでないと、頭を下げる。
「権六。 其の方の配下を使い、豊嶋の動きと野盗を焚きつけ古河を襲った者を探れ!」
「恐れながら申し上げます。 川越を中心に風魔衆の動きが活発となっておりまする。 今は公方様のご家臣による陣中見回りに配下を同行させて頂き、間者が入り込んでいないか目を光らせておりますが、配下の数に対し、お味方の兵が多く、豊嶋の間者と思しき者を見つけ出すのにも苦労しておりまする。 また陣内に潜り込もうとする者を狩ろうとして返り討ちに遭う者が出てきており、某の配下は今や30余名程、そこから人を割き、古河に向かわせるとなれば、その隙に間者や風魔衆が陣内に潜り込む恐れが多く…」
「構わん!! この大軍だ、間者も風魔衆も多数潜り込んでおるであろう。 それに、川越に向かっておる、関東管領上杉顕定の軍にも既に多数潜り込んでいるはず。 なれば、陣内で流言を流し騒ぎを起こさせないよう其の方らが目を光らせておけば良い。 それよりも豊嶋の動きと、古河の一件だ。 豊嶋が裏で糸を引いているなら、相応の仕置きをせねば余の沽券にかかわる! 間もなく諸将がこの本陣にやって来る、其の方も末席で軍議に加わり、情勢を把握した後、古河へ配下を向かわせて調べよ」
「ははっ」
成氏と権六が話をしているうちに、本陣には諸将が続々集まりつつある。
本来であれば、末席とはいえ身分の低い権六を軍議の場に加わらせることなどあり得ない事であり、情勢を把握させる必要も無い。
だが成氏の中で、なぜ豊嶋がこのような暴挙に出たのか?
何か引っかかるものがあった。
豊嶋の仕業には間違いないはずだが…。
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