プロローグ「会 - 2」
1週間までに一つ投稿を目指し頑張ります(。・ω・)ノ
────どれ位待っただろうか。未だに剣戟が聞こえる中、窪みに隠れていた私は再度杖を握り締めた。
誕生日プレゼントで貰った樫の木で作られた杖。形は少し歪んでいたけれど、表面は滑らかで艶のある父自慢の造形品。小さい頃に貰った杖は今では肩までの高さになり少し小さく見える。
その杖の丁度持つ手のあるあたり。小さな宝石が飾られている。暗い洞窟内でも辺りを仄かに赤く照らしている。そこから十字方向に伸びる杖は小刻みに震え今の私の心情を映し出している。
((優勢と思ったのにこんなに長く戦闘が続くなんて))
僅かに不安が残り、見てみたいという気があったものの兄を信じて待つ。
もう夕暮れ時に差し掛かったのか洞窟内の寒さが一層増す頃、ようやく剣戟がなくなり、達成感の感じる声が響いた。
『......終わったぞー!早くこっちにこーい!』
兄の元気の良い声を聞き、今すぐ行こうとばかり少し滑りそうになった。不安ではあったものの兄は洞窟の主を倒したんだ。心が弾けそうになるほど胸が高まりながら応える。
『うん!今行く!』
壁を伝わりながら、兄の元へと足を運ぶ。と、一歩二歩と歩く内に少し異変に気づく。
((あれ?壁が増えてる?))
隠れた後に見る壁と今ある壁の長さが明らかに違っていた。少し驚きつつもすぐ平常心を保つ。ただの目の錯覚。そう思って再び歩き出した。
────その時、
ヒタァ
洞窟の少し湿った感触から一転。不気味で、そのまま溶けるような感触が手から、手首、肘そして肩へ。そのまま滑りそうになりながらも一瞬立ち止まった。
『お......お兄......ちゃん?』
目の前にいたのは真紅に染まった服を着た兄。ついさっき声を出して呼んだ兄。
((あの......今までの......剣戟の音は......なんなの......))
胸の高鳴りが一気に棘へと化し体を蝕んだ。
一気に震えが襲い、体が固まっていく。
────なん......で?
自分に問いかける。答えがある筈も無い。さらに体が震えていく。
《大丈夫かい?》
不意にそんな声が聞こえた。間違いなく兄の声だった。でも、でも兄はもう......。
『オワッタゾォ?ハヤクコッチニ...コォイ』
兄の声に似た何かが私に囁きかけた。
『サァ、コッチヘコイヨォ』
兄の声に似た禍々しい怨念のような気持ち悪い声が────囁かれた。
それが壁と同化した魔物だということも、兄がずっと前からとうに死んでいたこともこの時はまだ知らなかったが、今ならわかった。
────私が兄を殺した。
必死になって洞窟の入口とは別の方向へ。あの怪物、忌々しい魔物とは反対方向へ進んでいく。何度も転んで土のついた穴だらけのズボン。母さんが作ってくれた綺麗な服も今では洞窟の色に染まっている。父自慢の杖。突いたり洞窟の壁を削りながらで深く傷つき酸化した金属のように茶色に染まっていた。
((まだ、出れないの......?))
魔物はもう視界にはない。突然出て来る可能性も低い。だが、次は自分が殺されると思うと、追ってくると脳が認識している。ここまで来たのは初めてだ。でも、もうそろそろ出てもおかしくない。兄の......兄のいた場所が中間地点であればもう十分すぎるくらい走っている。
暑い。洞窟内とは対照的に心臓が激しく鳴り響き体温の上昇を感じさせる。喉は枯れ果ててしまいそうだ。 どうにか洞窟だけは脱出したい。あまり走る事がない私はもう限界だった。もうすぐ抜け出せそうで陽の光が照らされたところまで何度も息が詰まりそうになった。
洞窟の外へと出た。久しぶりに陽の光を浴びる感覚だった。小鳥の囀りが聴こえ木々が風で靡いている。初めて外に出たようなだるさが襲う。体が倒れそうになりながらも、洞窟の出口から少しばかり歩いた所にある一本杉で縋るようにして座り込む。
『ハァ......ハァ......ハァ』
鼓動が落ち着いて脈を打つまでに長い時間がかかった。
『どうにかして家に帰らないと......』
杉の葉からの時折見せる光る陽の光がもう暗くなり、星の瞬きに変わっていく。
洞窟内での寒さとは違い孤独と虚無感が襲ってくる。未だに信じられない兄の死に心が折れてしまいそうだった。
『お兄......ちゃん』
目には涙を浮かべ、ずっと自分の足を見つめる。
周囲にある草木が夜風に揺られ私の心も静まろうとしていた。
『お腹すいたな......』
目を瞑る度、すぐ寝てしまいそうになりながらも我慢しながらポツリ呟く。
『────よかったら、どうぞ』
兄の声が聞こえる。意識が霞んでいく。
『......ありがとう。お兄ちゃん......』
答えるようにして私は深い眠りについた。
比較的簡単な言葉を使っています。(べ、別に表現するのが難しいなんてことないんだからな\_(・д[)