一話【数百年のゴブリン】
最後まで書ききれたらいいなぁฅ( ̳• ·̫ • ̳ฅ)
目の前にお兄ちゃんがいた。手を伸ばして
((こっちにおいで......))
と。私も手を伸ばそうとした。手を伸ばしている先には光に反射し白く光っているテーブル。その向こうにキッチン。母さんが夕食の用意をしていた。
『さぁ、一緒に遊ぼう』
『......うん!』
兄の手をしっかりと握り玄関を飛び出して行った。庭にはいくつものお花が咲いていて陽の光を浴び、生き生きとしている。兄を引っ張っている形で外へと連れ出した私はそこにあった川へすぐさま飛び込んだ。
『......えいっ!』
波紋をいくつも立て元気に水をかき分ける姿に兄も少し驚いたように......驚いたように......。────顔が......見えない。......口元が微かに見えただけであったが私は気にしなかった。小魚が川の流れに乗るように鰭を動かし泳いでいく。それを捕まえようとして至る所に飛沫が散る。水が目に入り目を擦ったりしながら捕まえようとする私に兄が語りかける。
『あそこにもっと大きいお魚がいるよ』
兄の指が指す方向を見てみるとそこには鮭という鱗が正方形で赤みを帯びた魚がいた。ぱくぱくと口を動かし小さな小エビを喰っている。赤い鱗からは赤黒い液体を放出し続けていた。
『お兄ちゃん。あの魚なんかへんだよ?』
少し驚きながら兄に目を向ける。横では魚が弱るとは別、むしろどんどん動きが活発になっていた。
『ねぇ。お兄ちゃん?きいてる?』
兄は立ち尽くし前を呆然と眺めていた。まるで意志がない木偶の坊のような。握っていた手を離し、できる限り背伸びしてお兄ちゃんを見つめた。
時間が経つにつれて顔が赤くなっているような気がした。あの魚が出す液体と同じ真紅の色。目、口、首、肩へ。兄が突然変わっていくのを口を開けてただ見ていた。驚き、言葉を失った。何がなんだかさっぱりわからなかった。
((どうしたの......!?))
なにかできないかと辺りを見回した。周りには何もなく今まで流れていた川は乾ききって赤くドロっとした土で無残な姿へと変貌し、生えていた草木は枯れ果て無残に引きちぎられたように散り散りとしていた。────泳いでいた魚だけが空を泳いでいた。真紅の液体を迸りながら。
『お兄ちゃん......お兄ちゃん!どうなったの!?返事してよ!』
返ってくる言葉もなかった。何が起きたのか分からず、泣きながら兄の体を掴みながら叫ぶ。ポタポタと落ちていく涙を赤い土が飲み込み薄く紫色になりながら空を泳ぐ魚が一匹、また一匹と地上へ浮かび上がった。
泣きじゃくり咳き込みながらも両目は不思議な現象を捉えた。地面には魚達が体液を落としながら泳いでいく。兄の両目から血涙がボトボトと音を立て、伝っていく。目は漆黒の闇。
『............!!』
言葉が出ない。いつの間にか血の海になって腰まで来ていた。足がもぎ取られるように場所を奪われ彷徨う。反対に兄はぴくりとも動かない。叫んで叫んで。届かなくて。もう何もかもが頭を通り過ぎていくばかりだった。
((何が起こったの?......))
これぐらいしか思えなかった。血飛沫が頭にかかる。なぜ?と思うこともできなかった。ただ忌々しい記憶の現れ...
『────ツギハ......!オマエダァぁァ!』
※※※※※※※※
『────うわぁ!......あぅ!』
起きたとほぼ同時に、頭を強く打ったのか痛みが走った。額に手を当て強く抑え込む。ふと、私はかなりの汗をかいていたことに気付く。
『あれ......?私......。』
『大丈夫かい。随分うなされていたけど。』
少し明るい口調で彼は言った。額に手を当て押さえつつ目を開けて声の主を確認してみるとそこには超イケm...フルージにはいなさそうな銀髪の男性が座っていた。額に手を当てて。
『あっ。すいません!頭打ちましたよね......』
『ああ。......これ位大したことない。それより体調の方は大丈夫かい?』
『あッはい。大丈夫です。』
痛みがようやく引いてきたので手を下ろし立ち上がろうとした。
『ダメダメ。まだ、食事もまともにとってないだろう?』
母さんのような優しい風貌を感じさせながら彼は私に言った。その優しい雰囲気は兄に似て......。
────兄が死んだことに今も信じられない自分がいる。もう遠い記憶のように感じさせているのも信じられないのも深い眠りについたからかもしれない。
『あの......。どれくらい寝てたんですか?』
『ざっと三日間ほど。いびきをかきながら......ね?』
『えっ......とそれは!』
恥ずかしく思えて顔が急に赤くなった。
((と...とても恥ずかしい!))
彼は少しだけニコリと笑って話を続けた。なんとか表情を彼にばれないよう隠しつつ耳を傾けた。
『なぜあんな場所で寝ていたんだい?随分と泥だらけだったけど』
『それは......』
『────大事な人が亡くなった、とか?』
『......!』
『当たりだね』
穏やかな声で答えを的中させた彼は、ベッドの向かいにある机に向かっていった。棚を探りながら一本の見慣れない物を取り出し私の手に添えるようにして置いた。それは滑らかな質感を持ったなにかの入れ物。
『飲んで。心が軽くなる』
はいっ......と渡されたものはとても温かかった。両手で握りながらじっとのぞき込む。
『それはアルミ缶で、中にはコーヒーが入ってる。お口に合うといいけど』
『ありがとう......ございます』
とりあえず空いている穴に口を近づけ喉に液体を流し込む。温かい[コーヒー]という飲み物は少し苦い感触だったけれど深みがあってとても美味しかった。
飲み終わった缶には少し茶色の液体が付着していた。これがコーヒーという飲み物の色なのだろう。そう思いながら彼に渡す。
『とっても美味しかったです』
『そうか。それはよかった』
兄に似た静かでお淑やかな声に心が落ち着いてきた。思考もだいぶ回ってきたので軽く状況整理をしてみる。
起きる
↓
話す
↓
コーヒーという飲み物を飲む
↓
終了
っと。
((大してまだ何もしていないし名前さえ聞いてなかった!))
大事な自己紹介がまだだったことに気付きどうにかしてその流れにしようと試みる。
『あのぅ。助けてくださりありがとうございました。お名前を聞いてもいいですか?』
話の流れを見事断ち切り、少しだけ片言のようになりつつも半ば強引に自己紹介の流れを作った。彼は缶を捨てながら......消滅させて言った。
『ああ。名前か。そういえばまだ、自己紹介というものをしていなかったね。』
まるで自己紹介が久しぶりのような口調で話す彼に少し初々しさを感じさせられたものの、少々驚きのある言葉が返ってきた。
『僕の名前は静夜。819歳です』
『あっ。そうですか。失礼ですが......年齢はおいくつ......?』
『819歳ですが?』
『そうですか。はははー......。』
冗談だと思って二度聞いても答えは同じだった。冗談を言っているようには思えなかったので信じる方向で話を進めることにする。しかし、信じがたいのはその容姿だった。銀髪、イケm......ある程度筋肉がついていてガタイが良い。整った顔立ちで、まるで巫女や魔法使いが着るような白装束を身につけている。すごくあっている気がする。
『私はリンと言います。ええと......好きな食べ物は鮭と......』
自己紹介のはずが[鮭]という言葉で反射的に切ってしまった。夢の内容はもう薄れつつあるのに、それでも鮭......赤黒い魚ははっきりと覚えていた。兄が私に恨んでいたのか。もしかするとあの声を真似ていた魔物が入り込んだのかもしれない。
────自分の世界に入ってしまいブツブツと独り言を呟いていた。
『鮭が好きなんだね。昔はよく食べたもんだ。』
『えっあっ。そうなんですか。美味しいですよねあれ......。』
ボーッと独り言を呟いていて少し恥ずかしくなった。これまであまり身内以外の他人と喋ることがなかったのでまだ心が開き切れてない気がする。出来るだけ早く打ち解けないと。
『......そんなに固くなくても大丈夫だよ。』
『あッはい。すいません』
『こっちとしては楽にしていてもらいたいんだよ。悲しい出来事があっただろうからなかなか平常心を保つことは難しいと思うんだけどね』
『はい......。』
今はまだ、何が起きていたのか定かではないから落ち着いているのかもしれない。また、あの場所に戻るとなると、はっきり言って無理だとおもう。
『ところでさ、リンさんって魔法使いだよね?杖とかもそうだしなにかできる魔法とかあるの?』
『あ......えっと。回復魔法が中級と状態異常回復が初級です』
『そうか......。回復......魔法......』
回復魔法と聞いて静夜さんの顔色が僅かに変化したような気がした。まさか少し苦手意識が?と思ったけれど回復魔法を苦手とするのは亜人族しかいない。この人は人間なので有り得ない。
『ヒーラーさんなんだね。ちなみに僕の魔法は、サポート系魔法なんだ』
『ヒーラーじゃ......ないんですか?』
『ああ、うん。守ったり、後ろから攻撃したり......だね。だからヒーラーと違うんだ』
『色々とできそうですもんね』
『いやいや。無詠唱なだけであまり強くないよ』
『えっ、無詠唱で出来るんですか!?それだけでも相当難しいのに』
『そうかな?普通にできると思うんだけど』
『そんな.....!できないですよぅ。』
両手を左右に振ってできませんよ表現。────無詠唱ができるというのがすごい、と言うのは急に魔法が飛び出してきたり気付いたらもう手遅れ...みたいに、推測ができないからだ。さらに無詠唱が慣れれば、色々な魔法を想像さえすれば
いくらでも大魔法へと変貌してしまう。昔に何人かいたぐらいと聞いただけなので静夜さんはとてもすごい。
『例えばこんな感じ。』
そう言って見せてくれたのは半径2センチほどの小さな球体。サッカーボールのような六角形が少し間隔を開けながら浮遊していた。ほのかに黄色に光る球体は手で触ってみるとコツンと硬い音がした。
『こんなふうに壁を展開する。これが防御魔法っていうやつさ』
『すごいですね......ってあれ?その腕どうしたんです?』
球体から目を離し、仄かな光で照らされている腕を見て疑問を感じた。その腕には少し緑がかっていた何かの皮膚のようなものがついて、火傷の痕のように広がっていた。すぐにピンと来なかったもののもしかしてと思い始めた。
『まさか呪いですか!?』
皮膚の色が変わるなんて呪いくらいしかありえないと思った。さらに青緑のような斑点模様を見つけ少し怖くなった。
((この人も死んじゃう!?))
『私が治します!ちょっと捲ってください!』
『えーと。その、これは......』
静夜さんが言いかけているのはもしかしたら回復魔法を苦手としているからだ。と、自らが結論づけ即座に治癒魔法を唱える。
『ヒール!』
回復魔法の基本形は[ヒール]、という語句で、傷を癒すことができ他にも軽度の状態異常を治す役割がある。
彼の腕に優しい光が包み込む。────と同時に彼の顔が痛みを感じるように歪んだ。
『......うぐっ!......!』
『だ、大丈夫ですか!?』
『あの......止めてほしい。』
『えっあっはい......。』
もしかして逆効果だったんじゃと思いながら魔法を止めた。バフン!と勢いよく音を立て黒煙を出しながら空中へと散っていった。
『すみません!やっぱりダメでしたか』
『いや、そういうわけじゃないんだ。あと、これは呪いの類ではないから回復魔法は効かないんだよ』
『そうなんですか!でも、なにか苦しんでたような気が......』
『ああ、すまない。あまり言えないことだったから隠してたんだ......』
隠し事と言うよりまだ、知らないことが沢山ある。知りたいと興味を持って少し恥ずかしくなったものの彼に助けられてばっかりで失礼なのも事実。
『実は、元はゴブリンなんだ』
『ああ、なるほど。ゴブリンだから苦手なんですか。......!』
流石にそれは冗談とは思えなかった。
((だってゴブリンってあの亜人族を代表する悪鬼だよ!?こんなイケm......整った顔立ちのゴブリンなんているの......!?))
言葉を失い冗談じゃないと頭の中で駆け巡る。
『話せば長くなるんだけど......いいかい?』
『ええ、お願いします』
※※※※※※※※
『昔はこことは違う......というより君が通ってきた洞窟に巣食うゴブリンだったんだ。あ、その前は人間で魔女の魔法にかかってゴブリンになったんだ。で、ゴブリンとしてなんとか仲間のフリをして解除する方法を探ろうとしたんだ。けれどゴブリンの巣食う洞窟に本というものはなく調べる方法がなかった。それでこの村へと駆け込んだのさ。最初は驚いていたんだけれど村のことを必死でお手伝いをしていたら特別に許可をもらってね。どうにかこうにか試行錯誤して、ようやく治す薬ができたんだけど飲んでみたら半分くらいは治ってもう半分はそのままで百年に数センという単位で今も治療は継続中。』
意外と早口だったのでなんとか追いつこうとしながらも話を聞いた。途中で目が空中を漂って頭の中が真っ白になりながらも事の顛末を聞いた。簡単にいうと、
魔女によって人からゴブリンにされて、自分で色々と模索してどうにか戻す方法がわかり試したらこうなったらしい。
『そういう事だったんですね......』
『......まぁね。そういえば......君ってあの洞窟を越えてきたのかい?』
『......そうです』
何日も寝たからなのか衝撃が大きすぎたからかあまり兄がなくなってしまったという事実を受け止めてもあまり悲しまなかった。それより、あの魔物がまた来たらと思うと少しぞっとする。
『今から行くんだけど一緒に行くかい?』
『えっ!......でも......』
『大丈夫。道中は守ってあげるから』
『......はい。それなら大丈夫だと思います。』
『決まりだね』
────こうして一緒に行動するようになった。必要な道具はすべて静夜さんが用意してくれた。絶えずニコニコと笑う姿に兄を思い浮かべながらも私もヒーラーとして気持ちを引き締めた。
────ごめんねリンさん。あの話は半分嘘なんだ。
5000文字達成!(。・ω・)ノこれからも続けられるよう頑張ります!




