ヨハン=サイクル side;
華墨さまの感想を一部抜粋しました。勿論許可付きです。
華墨さま、有難う御座います!!
そして読んで下さった皆様、本当に有難う御座います!!
撒き続ける。
撒き続ける。
私は黒い水を撒き続けています。
棒に縛り付けられた彼女の足元と身体に。
蒼を濾した様に白い空が処刑場であるこのオルボーア国の広場を余す所無く、白く照らす。
市民の石礫が彼女めがけて投げられる。雨の一粒が落ちない代わりに雨の様に。
時々私の方へと当たる事もありますが、それに構わず私は黒い水を撒き続けます。
彼等の憤怒を乗せた アヤカへの石礫は重く、痛いです。
けれども私が行った罪や、これからしようとする罪の方が遥かに重く。痛い。
「――――――!! ――!! ――――――――――――――ッ!!!!」
猿轡をされても尚、アヤカは醜く喚き続けています。
かつては王族やランドルフ達から誉めそやされた美貌が、見るも醜い有様で。
あの透き通った白い肌は、今や煤と傷と泥と汚物で汚れ果て。
あのビスクドールの様に細い手足は、今や露わになった手足にはイボが出来て。
あのサラサラとした長いツインテールは、今や千切れ燃やされて。
あのぱっちりとした目に小さな鼻に赤い唇は、今や見る影もなく。
あの華が咲き綻ぶ様に可憐な笑顔は、今や誰にも魅了しない醜い形相で。
「―――――――!! ―――――――――――――!! ――――!!!」
くぐもったその言葉は、民衆達や私には猿轡でも理解できます。
【アヤカは何も悪い事なんかしていない!!】
【アヤカにこんな事して只で済むとでも思ってるの!!】
【だって“『魔法』を下々の為に使う事はありません”って言ってたもん!!】
【ねぇ聞こえてるんでしょ!! さっさと『魔法』を使えるようにしなさいよ!!】
【そしてこいつ等に自業自得の天罰を与える為に、もっともっと強い力を………!!!】
猿轡をされる前。この言動を異常者の様に繰り返していましたから。
オルボーア国の王族達及び王族関係者達は既に公開処刑が行われました。
国王夫妻は処刑を受け入れてた一方で、
「自分達は魔女に騙された被害者だ!!」
と彼女の所為にして命乞いをする貴族達もいましたが………。
“魔女・アヤカと共に民衆達の幸福を貪っていた貴族を一掃する”
“魔女が再び目の前に現れぬようにせねば…。”
という宗教や政治…あらゆる面から非難の嵐を浴び、問答無用で国王夫妻や王族関係者や貴族達がこの広場で処刑されました………と、表沙汰ではそうですが。
これは本来民衆達などには絶対表沙汰にしてはいけない事です。
…実は王族関係者や貴族達の中には、他国や西大陸への亡命や逃亡…或いは先程の宗教や政治の網に引っ掛かり,死刑から掬われた者も少数にいます。
え? 何故それを知っているのかですか?
それは…この私、ヨハン=サイクルがこうして生きてるのですから。
■■■
昔の私は大馬鹿者でした。
オルボーア国の国務を司る【サイクル】の一族の跡取りとして産まれ時から様々な勉学を教えられて、努力以上の結果を成した事によって『【サイクル】一族始まって以来の天才』という銘に酔っ払い,のぼせ上がった とてつもない大馬鹿者でした。
そうやって賞賛を無作為に貪り果て、自尊心を肥大化させていき…、
自分以外の他人が馬鹿共だと信じて疑いなくなりました。
“自分は神の叡智を備えた「天才」。”
“他人は自分を高く讃える為だけに生きる「馬鹿」。”
“王族は自分の知識を差し出せば喜んで貢ぐ「豚」。”
そんな馬鹿な事を無条件で本気で信じている大馬鹿者。
自分以外の他人を利用し、オルボーア国を思うが侭に操ろうと企む浅はかな人間。
肥大に肥満した私でしたが………………………………、破局は当然の如く訪れました。
“【異世界】は存在する。”
それが当時の私、国務だった私が西大陸とのパーティで発表した言葉でした。
そう、【異世界】は存在する。
【異世界】とは文字通り違う世界の存在であり,【この世界】とは遥かに違う土地・歴史・知識・物資・技術を持っている。【異世界】を何としても見つけ出し利用する事が出来れば、このオルボーア国はより豊かとなり南大一…いや,四大陸一の帝国となる事も過言では無い。
そう自慢げに発表しましたが周囲の反応は………………………爆笑の嵐でした。
何の事はありません。自分の考えを他人から貶されたり嗤われたりする事なんて、発表の場では少なからず体験する事です。自分だって今まで他者の成果を、貶し,罵倒し,嗤ってきたのですから。ある意味 周りからちやほやされてきた私に相応しい因果応報だと今の私は思います。
私はたちまち、非難と嘲笑の雨粒に穿れて穴だらけになりました。
今まで罵倒を受けなかった分の罵倒を浴びて、ボロボロになりました。
いつの間にか私はオルボーア国宰相の職を辞され、追い出されてしまいました。
この時やっと、私は気付きました。
私は天才でも何でも無かった。ただ『【サイクル】一族始まって以来の天才』という銘に酔っ払い,のぼせ上がった とてつもない大馬鹿者でしかなかった真実を。
周りはそんな私を影で嗤って利用していたんだと。
今まで私がそうであった様に。
そんな絶望を変えたのは、オルボーア学園の教授…学院生時代の恩師でした。
“ウィル=ヴィレッジ領主の娘の家庭教師をやってみないかね?”
教授は虚ろになっていた私に新たな職への紹介状を渡してくださったのです。
オルボーア国の騎士の一族だった【ナイト】の一族の娘の家庭教師。
………それが彼女との出会いでした。
“初めまして。サイナ=ウィル=ヴィレッジ=ナイトと申します。”
家庭教師を始めた当初,未だ落ち込みに尾を引いていた私は仕事に乗り気ではなく、まぁそれでも仕事でしたので勉強だけ教えれば構わないだろうといい加減にやっていました。
それにサイナは気付いていました。
“手前が一番不幸ですって顔してんじゃねぇよ!!”
まだコップさえ握れなかったあの小さな手で私の顔を叩いて、胸ぐら掴んで凄んだあの出来事………。私は、雷に打たれた衝撃でした。
私は今までずっと、誰かにこの言葉を言ってくれるのを待っていたんだと。
それ以降、私はサイナの家庭教師の仕事に精を出していきました。
私はこの恩をサイナに返そうと心に誓って。
…そして、私はサイナの傍にずっといようという誓いも刻んで。
それから数年して、教授から手紙が届きました。
オルボーア学園の講師をして欲しいという手紙に、私はサイナの事を書き,“彼女に推薦状を出すのなら喜んで勤務します。”と返信した。
“君はとても優秀だ。学費も免除してくれるだろう。…それに,君が一緒に来てくれると、僕は………”
これでサイナに恩を返し、これから一緒にいられるかもしれない。
それにサイナが断る理由なんて何一つ無いのだからと確信していました。
そうしてサイナはオルボーア学園に入学して、私は教師として働き。
サイナはたちまち友人作りにも励んでいました。
ランドルフ=ヨルムンガンド。 男女を意識しない「異性の親友」。
ナターシャ=ラプソディ。 全てを話せる「同性の親友」。
この二人はサイナを利用している気満々ですが、表向きは親友を完全に演じており、
バレたとしてもこちらには返って好都合だと放置していました。
もしも二人がサイナを裏切った場合、私はサイナに近付く事が出来ると……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ですが。
「あのねあのねっ!! アヤカねっ!! 【異世界】からやって来たのっ!!」
神々しい光と共に現れた美しき【異世界】の少女・アヤカ=シムラ。
【異世界】。
その単語は私を刺激させるのに充分すぎました。
私の貶された発表が、この少女の存在によって今こうして認められている。
こんなチャンスを逃す訳にはいかない。
何としてもこの少女を利用して【異世界】の存在を発表しなくては…。
そう決意してから、私はアヤカに毎日の様に媚びへつらいました。
取り入るのは簡単でした。
アヤカは私の容姿が好みらしく、ちょっと好意を寄せている素振りを見せたり,テストの内容をちょっとだけ教えれば“自分に好意がある!!”と勘違いして擦り寄ってきました。………それとは反比例に、サイナはいつもアヤカから逃げる様に避けていました。
きっとサイナも気付いていたのでしょう。
アヤカの眼に宿る、醜い欲望の輝きを。アヤカの内面を。
「アヤカねっ。神様に「莫大な魔力」を貰ったの!! 『魔法』が使えるの!!」
アヤカはこの世界に行く際に【魔法】を使える様にしてもらったそうです。
【魔法】。
『魔力』という存在を媒介に起こす自然や物理の法則を無視した摩訶不思議な技術。
【魔法】を用いた者はかつて昔に存在しており、主に国を束ねる者や救世主と呼ばれる者などが伝説として残されている程に特別な存在にしか使えず、世界中の者が欲する存在。
アヤカが【魔法】を使うのを、学校で見せてもらった事があります。
「うっふふ~、どうでしょ~? アヤカの【魔法】は何でも出来るの~。」
花壇の花を摘んで、その花を「宝石の花」に変えました。
生徒達はアヤカの【魔法】に驚き、拍手喝采の嵐で讃えました。
最初は私も驚きましたよ。まさか自然や物理の法則を無視した摩訶不思議な技術が本当に存在しているとは!!………………………………ですが。
その『お披露目』から少しして。
アヤカが花を摘んだ花壇全ての花が枯れ果て、
何名かの生徒達が所持していたアクセサリーの宝石が全て濁り曇ってしまいました。
「ふぅ~ん、今度は綺麗なお花がいいな~。」
「アヤカが王様に頼んで新しい宝石をプレゼントしちゃうっ!!」
騒ぎになってるにも関わらず、アヤカは相も変わらず明るく美しく振る舞っている。
それからサイナが飛び級でオルボーア学園を卒業し、
アヤカがオルボーア国の王女として即位し、
ナターシャが学園を自主退学して、
ウィル=ヴィレッジ領が独立して、
私はオルボーア国の宰相として復帰しました。
【アヤカ様は光と共に現れた異世界の美しき少女。】
【魔法を使え、繁栄をもたらす女神として現れた存在。】
【これで他国や他大陸に脅かされる事もなくなる。】
【オルボーア国は南大陸随一の王国となる。】
【私達の暮らしは一気に楽になるわ。】
【万歳!!】
【万歳!!】
【アヤカ王女様、万歳!!】
…私はすぐに気付くべきでした。
アヤカの使う【魔法】の発動には、『他人の幸福』が支払われている事に。
アヤカはそれを承知で躊躇無く【魔法】を使っている事に。
それが後に、私達にとって取り返しの付かない結末を引き寄せてしまう事になってしまうという事に。
■■■
それから数年した今。
南大陸各地の不作や天災。西大陸への商売品を積み込んだ商船の事故。段々と税金や物価が高くなり、比例して起きる暴動や内乱。更にはアヤカの『魔法』が、オルボーア国民の幸福を吸い取って発動されている事に気付いた事実。
数年前まで賞賛を送っていた民衆は暴徒の合唱を怨嗟一杯に奏でながら暴動を繰り広げ、オルボーア国はあっという間に落城した。
そして今の私はマスクを被り,黒のローブで身を隠し、“魔女を殺す処刑人”として此処にいるのです。
私達が生まれ育ったこの国を、最後まで見届ける為に。
これが私の唯一の償いですから。
この国はもう駄目だ。
アヤカは最初から間違っていました。
アヤカ。貴女は最初から間違っていたんですよ。
【魔法】なんか使わなくても、王女の立場になったのだから、まず最初に王女として周りを幸せにすれば自然と崇め奉られ,【魔法】だって王族や貴族や自身の為にのみ使うのでは無く、大勢の幸せの為に使えば『他者の幸福』を代償にしている事にも知られずに済んだのに。
恐らく『貴女に【魔法】を与えた者』も、救済措置として貴女に与えたと思います。
ただひたすら他人の幸せを吸い上げれば、幸福は尽き果て【魔法】は使えなくなる。そして自分の首を絞める結果になる。【魔法】を使うには、周りの他人や大勢がまず先に幸せになる素地が必要。
コレが奪いに奪った結果なのですよ?
【我等の幸せを奪った魔女を殺せ!!】
【我等の幸せを奪った魔女に報いを!!】
【魔女を抱き込んだ王族達を皆殺しにしろ!!】
彼女を処刑しても、もう元には戻れないのに。
それでも自分に出来るのは、昔の自分と同じだった彼女の息の根をこの手で民衆の憎しみを少しでも収める為には仕方ありません。
今まで学を教えてきたこの手を人を殺す手とさせてしまう事…。
こんな私には相応しい自業自得です。
一生涯背負って生きよう。
そうして私は。
喚き暴れるアヤカの足元に。
ボッ。
火を付けた。
「――――――――――――――ッ!!!!」
嗚呼、サイナ………。
どうか赦して下さいとは言いません。
どうか貴女の人生に素晴らしき幸福があらんことを………。
そしてアヤカは【オルボーア国を不幸に貶めた魔女にして悪女。】として処刑。
その褒め称えられた美貌を醜く焦がす火荊によって。
かつて貶めた姉にしてサイナの前世・志村彩那と同じ死に方であったのは何とも皮肉な末路であった。
…以上で【『また奪われて、『××』だけが残りました。』 ~末路編~】は終了です。
まさかここまで皆様に評価やブックマークを頂けるとは
皆様本当に有難う御座います。
皆様の想いを糧に次回作の投稿ですが…。
物語が穴だらけだったり、熱しやすく冷めやすい性分だったり、別投稿小説サイトでも色々とやってたりしてるので、そちらの方でも手が離せずに次回作を投稿するのが少し先になったりしそうです。
それでも見捨てないでくださるととても嬉しいです。
それでは。
P.S.
次回作の詳細は[活動報告]にて記載しました。
独り言状態ですが見て下さるととても嬉しいです!!