第65話 アルフレッド回想8
現在
アリア視点
「無事に魔森の玄関口に拠点を築けたオレは、宰相との約束通り辺境伯爵の称号とブロンキス町の支配権を手に入れた。帝都に上京して謁見に臨んだオレに宰相は驚きを隠せなかったが、期待されていない絶望的な命令をこなしたんだ。渋々ながらもオレに辺境伯爵の爵位を渡さざるおえなかったさ。そしてその時にリングルベルの、親友ジョージのその後を知る事が出来た………」
そうして義父は弟サーベルのいたチェン族に伝わる《魔獣避け》の力でブロンキス町の元となる拠点作りに成功した彼は辺境伯爵の爵位を手に入れたという訳だ。
その時の話を自慢話のように軽快に話ていた義父だったが、リングルベルの話になり顔が少し強張った。
私を見る目に陰りが見られ、これから語る話が並大抵な話でない事が伺い知れる。
話の流れからすればリングルベル当主であるジョージの安否の事だろう。
そして、恐らくそのリングルベル当主であるジョージこそ、アリアの…………。
「元から覚悟は出来てます。それでも私は全てを知りたい」
「分かった。なら包み隠さず全てを語ろう」
❇❇❇❇
過去
アルフレッド視点
帝国歴529年
帝都
拠点作り成功からの帝都に帰還、そして宰相から辺境伯爵の爵位を手に入た日。
オレは直ぐ様ジョージの安否を問い合わせた。
ジョージと別れた日から1年余り経っていた。
だが殆どの問い合わせ先は口を噤み、突然閉鎖された治安局の事を話せる人間は誰も居なかったのである。
(ジョージ………)
宰相は最初からオレを目の敵のように扱っていた。
メンデル領に対する無関心は今に始まった事ではないが蛮族チェン族との話し合いに難癖を付け、その後の無理難題は明らかに悪意だ。
オレが西部への開拓団を申し出なければいずれ、あからさまな反逆の冤罪でもなすり付けていたところだろう。
そしてその一連の悪意は、オレがジョージと交友関係にある事と無関係ではないはずだ。
だが貧乏地方貴族のオレと違い、ジョージは先代皇帝からも一目を置く帝国貴族の名家。
リングルベルに対する絶対の信任は、いかに宰相といえど手は出せないだろう。
そう思っていたのだ。
ザワザワザワザワッ
それから三日、ようとしてジョージの安否が知れないままオレは帝都外れの酒場に居た。
時折何者かの視線を感じるのは恐らく宰相が使っている間者か何かだろう。
オレが未だ帝都に留まり治安局の事を聞いて回っている事が気に食わないのかも知れない。
「そろそろ潮時か……」
これ以上この場に留まっては非ぬ疑いをかけられるかも知れない。
とはいえ西部開拓は宰相自身が強く推し進めてきた案件で、ようやく進展が見られたのはオレ達のお陰だ。
だからこそ奴は渋々ながらもオレに辺境伯爵の地位を叙爵し更なる開拓を依頼してきた。
今後も魔森を切り開き領土を広げよとの事だ。
魔森はまだまだ未知な領域で奥地に向かう程に強力な魔獣が現れる。
以前から宰相は多大な犠牲を払っても西部開拓に人手を費やしてきたと聞いていた。
オレ達の拠点作り成功は西部開拓事業に大きな前進をもたらしたに違いないのだ。
(何故宰相が魔森の開拓に執着しているのか不思議だが、チェン族の《魔獣避け》もそろそろ底を尽く。当面は拠点の要塞化を推し進め開拓はお茶濁しにするしかない……)
エール片手にそんな事を思っていると、また何者かの視線を感じた。
その方向に目線を向けると、酒場の隅にボロボロなローブを被ってエールをやっている男がいる。
どうやらこのローブがオレに視線を送っていたようだ。
(宰相は未だオレを疑っているらしい)
そう思っていると何やら無償に腹が立った。
宮廷内で不正を働くような貴族を重用する一方で、ジョージ達のような真面目に帝国の事を憂いて行動する者を排除しようとする人物が政権の中枢にいる理不尽。
こんな事がまかり通るならいずれ帝国は暗黒に包まれてしまう。
(皇帝陛下はどうしているのか……)
現皇帝はまだ三十代だが、元々病弱で長く伏せっている。
皇帝と皇帝派だけはリングルベルに絶対の信任を置いていたはず。
だからこそ重要なポストである治安局長官にジョージを据えていた。
治安局の公権は貴族の身分に関わらず権限が及ぶ。
だからこそ数々の不正行為を露見させ、ジョージの有能さに元老院も口出す事叶わ無かったんだ。
しかし陛下が病に臥せる様になっると宰相は直ちに動く。
奴は元老院の重鎮たちを巧みに取り込み短期間で元老院を掌握した。
そうして宰相派はより強固になり代わりに皇帝派は次々と様々な不正が発覚して力を無くしていったのだった。
もちろんその殆どが冤罪であったのは間違いなかった。




