第58話 アルフレッド回想2
過去
アルフレッド視点
オレは指を口に立てたまま音を立てないようにドアに移動しドアノブを掴むと、勢いよくドアを開けた。
「っ?!」
「貴様は!」
ドアの前で聞き耳を立てていたのは、身なりの良い衣服を着た若い男。
明らかに平民ではない。
「何者だ、何故にこの場にいる?」
「わ、私は、その⋯⋯」だっ
「逃がすか!」ダダンッ
「ぐあっ!!」
男は即座に逃げようとした。
オレは男の腕を即座に掴むと、そのまま引き倒して取り押さえた。
怪しさしか感じられないその男。
もしや、何者かの諜報か?
「ルベールか?」
「き、局長⋯⋯!」
「何だ、知り合いか?」
「局員の一人だ。だが」
「?」
カツッカツッカツッカツッ
男はどうやらジョージの部下のようだ。
なら問題はないか。
しかしジョージは真剣な面持ちのまま、オレを素通りしてルベールという部下の前に立った。
どういう事だ??
「ルベール、アヘナ麻薬の出どころ調査を命じたお前が何故ここに居る?調査はどうした?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ルベールはジョージの言葉に俯いたまま答えない。まさか取り込まれたのか?!
「ジョージ、コイツは⋯⋯」
「アルフレッド、何もいうな。分かっている」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ジョージが見つめる先はルベールの首筋だった。
よく見てみれば首に輪のような紋様がある。
これは魔法制約の証。
ある指定された情報を話すと激しい痛みを伴い話せなくなる。
お互いの信頼を確実にする場合に使う禁じ手だ。
「ルベール、お前」
「局長、すみません。失敗しました。家族が」
「それ以上喋るな!」
「ぐぁ、人質に⋯⋯あぐ」
「馬鹿者、喋るなと言っただろう!!」
ルベールは咳き込むと、激しく苦しみ出した。
魔法制約の激痛は普通じゃない。
無理をすれば命に関わるのだ。
それでも話そうとするルベールには、まだジョージに対する忠誠心が残っているのか。
「分かった、ルベール。お前は家族の救出に全力を上げろ。だからもう喋るな、行け!!」
「申し訳、ありません」ガタンッ
ルベールは俯いたままドアの外に出て行った。
魔法制約は双方の同意に基づかなければ契約は成立しない。
恐らくだが奴は家族を害するとの脅しに打ち負けて制約を結ばされたのだ。
そしてその魔法制約は喋らない事だけじゃないのだろう。
明らかにもっと辛くキツい制約があるに違いないのだ。
「不味い事になったな。此方の捜査情報が筒抜けだ。何か打てる手があるか」
「ルベールは文官から引き抜いた優秀なやつだ。だから実働部隊とは別に税収部門から糸口を探させていた。家族がいた事も配慮してだ。最も危険でない担当にしていた筈だったんだが甘かった」
「お前のせいじゃない。恐らくだが、あの男もそれなりにお前の役に立ちたくて、つい深入りしたんだろう。お前が責任を感じる必要はない。お前もあの男も最善を尽くしただけだ」
「分かっている。分かっているが、だからこそもっと上手く出来なかった事が悔やまれるんだ」
「ジョージ………」
「私は既に幾つもの十字架を背負っている。そして今からそこにルベールとその家族が加わるのだ。全ては私の責任においてだ」
「オレが動ければよかったんだが……」
「アルフレッド、お前はお前の責任を果たせ。これから自領の民の為に裁量を振るうのだろう?そして私には帝国人民全てに対する義務と責任の為にその裁量を振るわねばならない。より多くの人々を助ける為に、だ。どのような犠牲を払ってもな」
「済まん。北部問題に片が付いたら必ずお前の手伝いをする。だから今は無理はするな。家族の為にも」
「ああ、分かっているとも親友。私は合理的な人間だ。だから負け戦はしない。もう一度体制が整うまで一時撤退する事としよう」
「頼むぞ。お前は帝国の良心リングルベルなんだ。簡単に消えられたら恨むからな」
フッ
オレの言葉に滅多に笑わないジョージが笑った。
どうやらオレの忠告に従い一時の捜査継続断念を受け入れてくれたらしい。
正義感の塊のようなコイツには苦しい選択だったろうが合理的判断も出来る男だ。
これで一先ずは大丈夫だろう。
その後オレ達は別れた。
お互いのやるべき事を再認識して今出来る事をする為に。
だがオレは知らなかった。
これが親友との今生の別れとなるなど、思いもよらない事だったのだ。




