第5話
「これがヒューなんたらの今の状況?だとしたら終わってない?」
『私は女神フォルトーナ。時と運命を司る女神です』
「?」
彼女は改めて自身の名前を言いました。
女神の名前はさっき聞いたはずだけど、改まって言うなんてどういう事だろう。
んん?
今何か続けたよね?
「時と運命の女神?」
『はい。私の権能は時間と運命の裁定。今見せているヒューズ2の映像は未だ確定されていない未来の可能性の一つを示しているに過ぎません。未来は一つでなく様々な事象の積み重なりが紡がれた結果となります。過程の条件が変われば、その確定未来も変われるのです』
「確定されていない未来?もしかして⋯⋯」
『そうです⋯⋯。これは天音さんがヒューズ2の救済を断った場合の未来。全ての生き物が死滅した終末を迎えてしまった最悪な情景です』
「ちょ、ちょっと待ってよ?!私が救済しなかったら異世界が死滅するの?重いんだけど!!」
『残念ながら天音さんが救済を拒んだ場合、ヒューズ2は終わります』シクシク
「未来は確定してないんだよね?そんなうつむき加減に当てつけに話さないでよ!あと泣くんじゃない!」
『ああ天音さん。アナタはそんな血も涙もない人ではありませんよね?きっとヒューズ2の救済に頷いてくれると信じております』
「私の良心に涙で訴えるのは止めてくれる?信じるのは勝手だけど私は忙しいので無理だから」
『天音さん!』
「そんな《断わるなんてあり得ない》って顔は止めてよ?!だいたい何で異世界は死滅する訳?まだその理由を聞いてないよ」
『アロウスの邪神という悪神のせいなんです。ヤツが復活して世界を闇に閉ざしてしました。闇の勢力が台頭し、生ある者達を全て飲み込んでいったのです』
「アロウ⋯⋯?邪神、それって神様なの?」
『かつて神だった者で、創造神の方針に逆らい、命を喰らう闇の者達に力を与える悪神です。創造神に代わり、ヒューズ2を闇の世界に作り変えようとする、生ある者全ての敵です』
ズゴゴゴゴーッ
バリバリバリバリバリッ
映像には真っ暗な黒い雲が現れ、その中に赤色のイナズマが迸る。
姿は見えない。
ゾッゾクッ
「うっ!???」
息苦しい?
悪寒と動悸が酷くなり、手にはいつの間にか冷汗をかいていた。
それは只の映像のはず、だけどまるで世界そのものを相手にしてるみたいな存在感があり、心臓を鷲掴みにされているようなこの緊張感。
そう感じさせるものがその雲の彼方から、迸る衝撃なようなものを放ち此方を伺っている?!
そんな確信めいた実感が、その映像から読み取れてしまった。
怖い。
言いしれぬ恐怖が私を襲い、とめどなく滴る冷や汗は止まる気配も感じない。
これが邪神なの?
こんなものが私が救わなければならない世界の、そこに生きる全ての人々の敵なの?!
絶対に勝てる分けがないよ!!
プツンッ
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
映像が消えフォルトーナは改めて此方に向き直ったけど私は呼吸を整えるので精一杯、すぐに彼女の話を聞ける状態ではなくなっていた。
これは夢の中でのお話なのに、この苦しさには本物みたいにリアリティがある。
私、眠っているんだよね??!
「フォルトーナ、ちょっ、ちょっと待って。今息を整え、るから」
『邪神に当てられたんですね』
「あ、当てられた?」
『大丈夫、天音さんが聞ける状態になるまで待ちますから』
「う、ん」
彼女の顔は私に縋りを求めているものの、何かを覚悟したと思わせるもの。
その真剣な眼差しは簡単に断れそうもない圧がある。
だけど、夢だからって簡単に安請け合いするほど安直にもなれない。
そして先程の邪神の映像。
姿が見えないのに私の心臓を握り潰す勢いだった。未だに身体に震えが残っているのが分かってしまう。
夢のはずなのに、この場を逃げ出したいと思ってしまえるほどの緊張感と恐怖。
こんなの関わる事自体が悪夢でしかない。
申し訳ないけどここは断りの一手だ。
「女神さん、私は名も無き子育て中の女子高生、邪神と戦うなんて出来るわけ無いですよ」
『天音さん、名前ありますよね?』
「例えよ!とにかく時間も無いし無理。それより私は三つ子達とどうやってこの先生きていくか、ソッチの方が重要なの。異世界まで手が回らないだってば!」
『ならば、この世界で生きるのに必要な物を用意しましょう。アナタの憂いが無くなれば、私の世界を救って頂けますよね?』
「う、だけど何が必要か分かってる?先ずはお金。私達四人が将来に渡り問題なく暮らせるくらいのお金が必要なの。あと信頼にたる大人ね。私は未成年だから色々問題があるの。あと2年くらいは三つ子を見ていてくれる人が必要だわ」
『分かりました。お金は皆さんが将来に渡り、苦労しないくらいの金額を用意致しましょう。大人の問題は⋯⋯間もなく解消されるでしょう』
「え、本当に?」
『もちろんヒューズ2の救済を請負ってくれればです』
「それは先に返事出来ない。空手形を切られるかも知れないし、さっきも言ったけど、私は戦う事なんて出来やしない。出来ない事を請負うつもりは始めから無いよ」
『ソコは大丈夫です。私は天音さんに勇者のような活躍は望んではいません』
「え、だって、あんな邪神が復活するんでしょ?戦わないなら私はどう異世界を救済するっていうの?」
『それは天音さん次第になるかと』
「私次第???」
私次第って何なの?
女神フォルトーナの言葉は私を困惑させた。
だけど彼女は私の困惑をよそに話を続ける。
『先ずは天音さんの承諾を得る為、私が頑張る番ですね。天音さんの望む結果になるよう女神として努力させて頂きます』
「?!」
❇❇❇❇❇❇
《《コケコッコー!!》》
am03:23
ガバッ
「あの名古屋コーチン、ふざけんな。まだ2時に寝たばっかじゃん?!たまには3時間寝かせろよ!」
う、疲れてるのに起き上がっちゃったよ。
くそう何度めだよ!
いい加減にしてほしい。
アイツ、絶対にローストチキンにしてやる。
ただでさえ訳わからん悪夢?見て、寝た気が全くしないのに物理で鳥野郎に起こされるとか、休まる暇も無いじゃない!
「あ、何の夢見てたっけ?」
何か怖い夢と良い話を聞いたような?
そうだ、時と運命を司る女神だっけ。
またラノベのような夢を見たんだわ。
おかしいなぁ。
私、ラノベには全然興味なんかないのに。
「う、ふぁああ〜っ、駄目だぁ」ドサッ
背伸びの体勢取りながら再びベッドに沈む私。
悪夢と変な夢のせいで完全に眠気が吹き飛んだ。
うん、寝れる気がしない。
ノソリ
「⋯⋯歯でも磨くか⋯⋯⋯」




