第18話 初めての魔法
『ギオェエーーーーーーーーーーンッ!』
ドスンッ
「ひっ、な、何!?」
地面を揺るがす重量物。
耳に響くけたたましい鳴き声。
未だにクラクラする頭を必死に上げて、見上げる私の瞳に映ったのは聳え立つ羽根の壁だった。
大きな鳥の羽根の塊??!
「鳥の羽根の、壁?」『ゴワァアアッ!』
ゴウッ
「きゃあっ!!」
バァンッ
「かはっ!?」どさっ
私が認識した羽根の壁、それと共に再び放たれた鳴き声は理由の分からず立ち尽くす私に新たな衝撃波を齎した。
それは一瞬で立っているのがやっとの私を、ものの見事に数メートル先に吹き飛ばす。
せっかく立ち上がれたのに吹き飛ばされ、私は小屋の壁に叩きつけられ、更にバウンドして草むらに逆戻りしたのだった。
「痛タタっ、一体何が!?」
痛覚十分の一でもそれを超えたら痛いものは痛い。直ぐに起き上がるつもりだったが、最早まったく立てる気がしない。
私の体力は元々殆ど残って無かったからだ。
そして頭痛と目眩は最高潮。
そのせいで現状の把握もままならない。
私は何に襲われているの?!
ドスンッドスンッドスンッ
「?!」
何か重いものが近づいて影が太陽を遮った。
逆光で見えないが明らかに人間ではない。
草むらから見えるのは巨大な鳥の足か何か。
コレって完全に何かの肉食系生物だ、よね?
しかも恐ろしくデカい!!
「わ、私は鳥の様な巨大生物に狙われてる?このままではアリアの身体が喰われてしまう!」
つまり絶体絶命の大ピンチ、だ。
どうするどうする、考えろ。
このまま何もしなければ巨大動物の腹の中だ。
私はこれからどう行動すべき??
どうすれば、アリアの身体を守れるのか。
だけど同時にある考えが脳裏を過った。
それは、このままアリアに何かあれば私は元の身体に戻れるのではないだろうか、という一つの思い。
そしたら地球の天音に戻れ、義弟達に会えて何も無かった事にならないだろうかと。
『ゴワァアアアァァーッ!!』
ゴウッ
ズダンッ
「ぐ、はっ!!ば、馬鹿だ、私はっ」
今一度発せられた鳴き声は衝撃波の様なものに変質し、立とうと腕を伸ばして身体を支えた私を再び地面に縫い付けた。
その時に気づく。
これはこの生物の捕食能力の一端だと。
だけどそんな事より私は今、自分自身の考えに無性に腹が立っていた。
私はさっき何を思った?
このままアリアの身体を野生動物に食べさせたら、アリアの身体から解放され地球に戻れるとか思わなかったのか。
そして何事も無かった様に地球に戻り、リセットして平和に過ごせるつもりなの、かと。
アリアの死に疑問を持ち、この世界の不条理さに激しい怒りを覚え激白したのは誰だった?
フォルトーナから依頼された救世主の仕事、それより先に《アリアの無念を晴らしたい》、《彼女に代わって復讐をしてやりたい》、そう決意したのは誰だった?のかと⋯⋯⋯。
その時だった。
そう思ったら突然、熱いものが腹下辺りから込み上げてきたのだ???
急激に、何かに覚醒したような鋭い感覚が現れ、一瞬辺りの風景がスローになる。
それは間違いなく今迄体験した事の無い感覚。
自分自身の動きも含め、目から入る情報はその全てがスローになった。
これは何、なの???
『ギエェエーーン!!』ゴヷッ
「!!!」
そしてスローながらも迫る大きく鋭い黄色のクチバシ!?
それが初めて私の視界に捉えられる。
一見地球の鳥のクチバシに似てるが、バカでかく鮫の歯のようなものがビッシリと生えていた。
依然として相手の全容は分からないが、明らかに肉食の巨大生物だと理解するに至る事が出来た。
巨大生物は完全にアリアである私をターゲットとし、餌にしようと確実に迫ってきている。
感覚ではスローに見えるが自分の動きから想像するに、実際は数秒以下の出来事なのだろう。
だけどスローに見えるからと言って避けられるかと云えば、私の動きはそのクチバシよりずっと遅くて、これは間違いなく間に合わない。
(駄目よ天音。ここは生き延びて彼女の無念を晴らし正規の形で地球に戻るの。戻れるとしてもアリアの身体を犠牲に戻るのだけは絶対に駄目!)
心の中で自身に問いかけるも、身体はクチバシより早くは動かない。
もはやアリアの身体を無傷に保つのは不可能だと目を瞑った。
ガガンッ
『グワァ?!』
「?」
何故か金属が跳ね返るような音がした?
と、思い目を開けたら、巨大生物は弾かれたように吹き飛んでいた??!
下方の荒地側まで吹き飛んだ巨大生物。
土煙を上げて倒れ込んだ。
分からない。
一体何が起きたのか?!
『グワアアアッ???』ブルブルブルッ
頭を振り自身の吹き飛ばされた理由を探すように辺りを見回しているのは巨大な、鳥?
巨大生物が吹き飛んで下がった事で、ようやく生物の全体像を捉える事が出来たようだ。
身体全体は白い羽毛に覆われ、ずんぐりむっくりした全体からは寧ろ愛らしさすら感じられる。
顔はどちらかといえばペリカンを連想されるが、決定的な違いは3メートルはあろうかと思われるその体躯と鮫のように鋭い歯が際立つ黄色のクチバシがある事だろうか。
『グワワッ!』
バサバサバサバサバサッ
ドスンッ
「ああっ?!」
地球の鳥との違いに違和感半端ないが巨大鳥は羽ばたき、あっという間に私の目の前に辿り着く。
そしてそのまま離れてくれる選択肢は無いらしく私に固執しているようだ。
完全に獲物と認識されてしまったらしい。
最悪だ!
ドスンッドスンッドスンッドスンッ
『ギャワワワッグワーッ!!』
「くっ?!」
私に腹を立てたのか、真っ赤に目を充血させ急接近する巨大ペリカンもどき。
その動きはコミカルで愛らしい姿と合わせて何処ぞのマスコットにも通じるとは思うが、大きな体躯と充血した目で開けた鮫歯のクチバシはギャップと合わせて恐怖しかない。
そして鳥?は餌だと思っていた弱小な存在に吹き飛ばされた事がよっぽど腹に据え兼ねたようだ。
だから何が何でも私を食べなければ気が済まない、というように怒りを顕にして迫ってくる!
「だ、だったら!」
私は無意識に巨大ペリカンもどきに手を向けていた。
オタクな親友を信じるなら、さっき巨鳥を吹き飛ばしたのは私自身の力によるものだ。
つまり私は既に魔法が使える状態のはず。
ならば『武器のように何かを出しヤツを飛ばす』事も可能なはず。
そう思った時、翳した手の先に何かが集まる力を感じた!?
(『アリアには元々水魔法の素質が有りました。その髪の毛の色は水魔法の才を表すサインでもあるのです』)
そういえばフォルトーナが言ってたっけ。
アリアの魔法の才は水魔法。
水に関わる物理現象の全てに関わる魔法の才。
本来なら私は使えるはず。
なら私は水を放つ。
出来れば強い勢いで飛ばしたい。
水を強い勢いにするにはどうするか?
自然科学で水とは岩をも削れると習った。
岩を削り大地を削り深い渓谷すら創り出す。
本当は風景すら一変させる力を持つ水の力。
それがこんなデカいだけの鳥に負ける訳はない。
ドスンッドスンッドスンッドスンッドスンッ
『グワアアアッ!』
目を赤く染め迫る巨大な鳥。
だけど私に焦りはない。
もちろんスローに見える非現実が余裕を齎したのは否めないが、それでも負けない確かな確信が私にはあった。
それはアリアと私の二人分。
私には二人分の運と力があるはずだ。
「社会科見学で見た町工場、あそこで水を使って物の成形をやっていた。使われてた機械の仕組み、あれは何だっけ?あ、今思い出した!!」
バシュンッ
ズババババババババーッ
殆ど無意識だった。
手の先に何かが溢れる一瞬の感覚。
その直後に放たれた一筋の水の束は、まるでレーザーの様にか細い線となり空間に飛び出した。
その向かう先はあの巨鳥。
真っ直ぐ真正面から迫る巨大な的だ!
『ギア?⋯⋯⋯ガガッ????』
刹那の先に目を開けた私の視界に映ったもの。
そこからは向こう側の景色が見えていたのだった。
そう。
私が見ていたのは巨鳥の腹に空いた大きな穴。
そこから見える向こう側は、間違いなく私が認識するバックグラウンドに相違なかったのである。




