第16話 戻れない(アルカディーテ大陸)
ザッザッザッザッザッ
私は今日も異世界にいる。
この短期間に数度、私は異世界に来ていた。
もちろん地球時間は進んでいる。
前回飛んだのは地球時間で七日前の夜だった。
まだアリアの身体に馴染んでいないのと、義弟達の世話や自身の事で何かと忙しかったからだ。
異世界のアリアで過ごした時間は前回の分を含めても数十分。
そして、このアリアへの移動は私の一存で出来ている。
あと異世界名だけど、ヒューズ2は惑星の名前で神様達の隠語だそうだ。
人々の世界の認識は大陸単位で違うらしい。
だからアリアの身体がある大陸名、《アルカディーテ》と唱える必要があり、そうする事で視界がアリアに変わるのだ。
で、帰る時は《マイホーム》って唱える。
何か安直だけど、この辺は私の勝手な解釈でどうとでもなるそうだ。
随分いい加減な設定だが、まあ、あのフォルトーナの事だ。
少しネジが外れているから仕方ないんだろう。
こんな事を言うと、また女神のブーイングがありそうだが、実は最近彼女からのコンタクトを受けてない。
神様にしては色々と忙しくしていたから、ついに休暇でも取れたのか?と思っていたら、事態は意外と深刻だった。
『あ、天音さん、来てしまったんですね?!』
「フォルトーナ、久しぶり。地球では1週間が経過したよ。どうしたの?最近は連絡を寄越さないけど。ん?来てしまったって???」
『実は私、地球での、活、動が、出来なく、なってたん、です。だから天音さん、に、コンタクトを取れなくて、ああ、取り返しの、つかない、事に⋯⋯』
「地球での活動が出来なくなった、取り返しがつかない??それはどうゆう事?あと、さっきから聴こえづらいよ??」
『は、い。簡単に、云え、ば、地球の天音さん、の夢に顕現出来るだけ、の、力を失った、と云う事で、しょう、か』
「力を失った⋯⋯まさか私の条件のせい?」
『そう、ではありません。天音、さん、とアリアの繋がりは、天音さん、の、魔力や、魂の結び付き、に、依存して、います。私は初期、に、天音さんの、魂が、行き来出来る、よう、に、道を、整備、した、だけ。取っ掛かりを、造った、に、過ぎません。だから継続、して力を使って、いる訳では、なく、全ては、天音さん、のお力に、よるもの。それだけ、天音さん、の、魂と、アリアの身体の、親和性が高い、と云う、事で、す』
「分かったけど、ねぇホォルトーナ、大丈夫?さっきからずっと伝わりにくいよ?」
『天音、さんに、重大な、話をしな、ければ、なりませ⋯⋯』
「重大な話?あ、ちょっとボリュームが小さくなってる。更に聴こえ辛くなってるよ?!もっとハッキリ言ってホォルトーナ!」
『ごめ、んなさい天音、さん。どう、か、この世界、を救って⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
「ホォルトーナ?ホォルトーナ?!どうしたのホォルトーナ!!」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
それから暫く呼び続けたが、フォルトーナが話かける事は二度と無かった。
これはどういう事なんだろう。
何かイレギュラーが発生している?
彼女に何事か起きているんだろうか。
「何かヤバい事になっていそう。一旦地球に戻る方が良さそうだ。『マイホーム』!」
シーン
「?」
おかしい。
今、確かに『マイホーム』って唱えたのに、視界が私の部屋に変わらない?
本当なら私の部屋のベッドに戻ってるんだけど、辺りを見回しても視界は変わらず私の身体はアリアのまま???
「どういう事!?『マイホーム』!『マイホーム』!『マイホーム』!?」
シーン
ざすっ
「そ、そんな⋯⋯⋯⋯」
思わず膝をついて空を仰いだ。
帰れない。
なら、私はアリアのまま?
このままずっと一生に?
「なら弟達は?私は帰らないと弟達の面倒は誰が見るのよ!?こんなの聞いてないし冗談じゃない!フォルトーナぁ!!!」
再び彼女の名前を絶叫したが、やはりフォルトーナは応えなかった。
私が戻れない原因が彼女にあるのは明らかだった。
その後、様々に言い方を変え試してみたが私が地球に帰れる気配は見えず、やがてアリアの息が切れて、気付くといつの間にか草むらに倒れこんでいた。
考えてみたらアリアは年齢が6歳の幼女だ。
しかも蘇生したばかりで体力がなかった。
それを痛覚十分の一で疲れにも鈍感になっていたらしく、その後に感じた激しい目眩と倦怠感はどうしようもなかった。
結局なんとか動けるようになったのは二つ目の朝を迎えてからの事。
朦朧とする意識に鞭打って、なんとか覚醒に意識を集中した。
「ヤバい、パニックになるのは後にしよう。今はアリアを動けるようにするのが先だ」
このままではアリアの身体もろとも異世界に骨を埋める事になる。
それでは弟達に会えないしアリアの身体に申し訳ない。
そんな事は許されないし、あってはならない事だった。
ぐぅ〜っ
「そ、そうだよね?蘇生してあれから一日くらい?この身体は何も食べてないんだった」
頻繁にアリアになっていたのに肝心な彼女の身体の状態にまで思いが至っていなかった。
まだ慣れないのと日本での生活が主体だったから本当にウッカリだ。
アリアに申し訳ないわ。
止まらない腹の虫と激しく続く倦怠感。
このままでは本当に動けなくなってしまう。
「せ、せめて水でも飲まないと!あ、どこかに井戸があるはず?!」
甲高いアリアの声。
本来ならもっと綺麗に聞こえるのだろうが、激しく感じる喉の渇きに明らかに声質は嗄れ声。
立つことが出来ずに地面を這いつくばって、辺りに意識を向けてみると、小屋の外れに石を組んだ井戸のようなもの?
なんとか辿り着いて石組みに手をかけるも、立つ気力がまったくない事に気づき、そのまま限界を迎えて仰向けに空を見る。
幸いにも今は明るく温かい日差しの中。
青空に白い雲が流れ季節は春の小春日和か。
「体温が急激に奪われる事態は免れたけど、このまま夜を迎えれば万事休すだわ」
大の字で日差しを受け少しだけ体力が戻るも、このままでは最悪の結果しか想像がつかなかった。
「衰弱死か野生動物に食われるかだな。どちらにしろ迎えたくない未来予想図⋯⋯だ、わ」
動くのもおっくうになって目を閉じた。
ここでフォルトーナの悪口を言えば彼女が応えてくれるかも?などと呑気な事を考えて、ふと思った。
そういえば私って魔力があるんだよね?
だったら魔法が使えるんじゃない。




