第15話 アバターの素性
「もう、ビックリするじゃない。姿は見えないけど、頭の中に話てるの?」
突然の女神からの声かけ。
そうか、テレパシーみたいなもんか。
『そうです。声を掛けたのは天音さんが失礼な事を言うからです。その身体がゾンビとか、私の仕事に手抜きはありませんよ!』
「それは悪かった。だけど死体を復活させたのは事実なんじゃない?」
『仮死状態と言って下さい!いくら私でも完全に死んだ肉体を元に戻すとか、余りに世界秩序を壊すような事は致しません。そんな事をすれば私が邪神になっちゃうじゃないですか!』
「うん、何かゴメン。え?じゃあ、この子は死んでなくて私が憑依して身体を乗っ取ったって事?それはもっと嫌なんだけど」
『はあ、どうしてそういう結論になるのか知りませんが、そんな犯罪紛いな事を私が天音さんにさせる訳がないじゃありませんか。残念ながらアリアの寿命は終わってしまいました。彼女の魂はすでに輪廻に入り次の生まれ変わりに備えています。アリアの肉体は、生命活動停止ギリギリのところで私が仮死状態にして保存したんです。ですがその肉体も天音さんが入らなければ後数日の命でした』
「それは私が憑依したから仮死状態から復活出来たっていう事?」
『はい。この世界に稀な天音さんの魂の大きさ。そしてその魂に結びついた膨大な魔力がアリアの身体を蘇生させたんです。つまりは天音さんの力によるものです』
「ちょ、ちょっと待ってよ?!このアリアは女神さんが用意したアバターじゃ無かったの?」
『私は運命と時を司る女神。そんな物理法則を曲げる事は出来ません。私が力を使えるのは、その身体の《運命》を変える事。本来早くに朽ちてしまうはずだったアリアの肉体の運命を延命する方向に仕向けただけです』
「そう、なんだ⋯⋯。たまたま亡くなったアリアさんの肉体の運命を変え、仮死状態で保存していた。それを私に与えた、の、ね」
『⋯⋯アリアは私が世界を救う為に最初に遣わした救世主になるべき人材でした。つまり私の使徒だったのです。当然ながらその身体には私の権能が施され、この世界に稀な魔法の才を与えて有りました。ですが、どこまでも邪な邪神の企みにより、私の権能でも死ぬ運命から逃れられなかった。彼女が成長する事が出来れば、天音さんに頼る事も無かったかも知れません』
苦虫を噛み潰したように語るフォルトーナ。
彼女がここまで感情を顕にしたのは初めてではないだろうか?
アリアの死はフォルトーナにとっても、余りに受け入れ難い事象だったという事なのだろう。
「女神フォルトーナの使徒⋯⋯なんか女神さん、偉いんだね」
『天音さん?一応私、この世界を管理する神の一柱ですよ?この世界の信仰は創造神ラストラディーゼ様に次いであるんです。偉いのは当然ですからね!信仰する教会も全ての国家に存在して信者も数え切れないくらいっ』
「分かったから。そんな焦って説明しないでも大丈夫だからね」
『うう、このディスってる感じ。相変わらず天音さんの鬼畜を感じます。あの無理難題な『魂が離れてる側の時間経過無し』の条件まで要求された私は常に天音さんのサンドバッグ。酷いです』
「怒るよ」
『ああ、その返しにゾクゾクと』
「女神がヤバい事になってない?まあ、いいや。とにかくこの身体は大事なアバターだから、ここに休ませて戻ればいいか」
『時間の概念はご要望の通り数秒程度の誤差で一瞬です。刹那の危険が迫る事態でなければ、その身体に害が及ぶ事はありません』
「そうなんだ。あ、ちょっと聞きたいんだけど、アリアの死因は一体何なの?」
『⋯⋯麻薬中毒です』
「は?」
意味分かんない。
手の大きさや地面からの距離を考えるに、アリアは相当に幼い子供だとの認識に至っている。
そんな見た目年齢の子供に麻薬要素って、どうやったら関わってくるのよ?!
『天音さん、この世界はまだまだ発展途上。地球の古い世界に似た文明レベルです。残念ながら日本のように平和で社会組織がしっかりしてる国家はヒューズ2の何処にも存在しません。安定していて近い国家が無い訳ではありませんが、まだまだ何れも不安定。当然ながら社会的弱者に対する犯罪行為が蔓延し、この国でも例外ではありませんでした。アリアは彼女の能力を知った悪意ある者達の犯罪に巻き込まれ、私の使徒として活動する前にその命を奪われたのです』
「は?だって、この子は幾つだったの?」
『⋯⋯6歳になったばかりでした』
「私の義弟達と同じ年齢だった?!」
ギリッ
『あ、天音さん??!』
ズゴゴゴゴッ
バサバサバサバサッ
ギャアーッギャアーッギャアーッギャアーッ
ズズズズズズッ
突如見舞われた地鳴りと激しい振動。
激しく小屋が揺れ近くの森からは鳥のような生物が慌てて飛び出していく。
だけど私は驚くどころか有り余る怒りで一杯だ。
こんな小さい子を麻薬中毒にする犯罪行為。
その悪人達はアリアに一体何を強要していたというのよ!
『あ、天音さん、魔力が迸ってます。ちょっと落ち着いて!?』
「⋯⋯許せない。義弟達のような年端もいかない子供を麻薬中毒にするとか絶対に有り得ない!」
ズゴゴゴゴッ
グゴゴゴゴゴガガガッ
『天音さん、お願いです。このままでは天変地異が起きて近隣の村に被害が及びます。どうか心を鎮めてください。今、天音さんはアリアの魔法の才とご自身の魔力が結びついてます。アリアからの魔力波動は天音さんの魔力で災害級。このままでは天音さんが世界に仇なす者になってしまいます』
「⋯⋯⋯分かった、自重するよ。深呼吸すればいいのかな?ハースーっハースーっハースーっ」
ゴゴゴ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
私は大きく息を吸って深呼吸。
数回の深呼吸で心を落ち着かせるようにやってみると、ようやく辺りに静寂が戻ってくる。
今は最初に感じていた風の音だけだ。
「⋯⋯収まった?」
『はあぁ、勘弁して下さい!こちらの世界で天音さんの魔力は強力です。今後は自重をお願いします!』
「うん、今日ので色々分かったわ。私ってコッチでは結構ヤバい存在なんだね」
『その事には強く同意しますが、くれぐれも気を抜かないで下さい。邪神の力はソコかしらに振り撒かれてます。正直、アリアの死は邪神の呪いの結果でもあります。天音さんがいくら強力でも邪神の前では』
「分かってる。私が戦ってどうかなる相手じゃない事もね。だけどアリアの死は邪神のせいなの?今初めて聞いたんだけど」
『くっ、アイツは封印されている存在ながら、緩んだ場所から自分の未来に仇なす人物を自動で呪う仕組みを造ったんです。その呪いは極めて強力で、敵対勢力になりうる人物の因果律を最悪に変更する事を可能としています。呪われた者はあらゆる悪意の対象になり、本来悪人達が受けるべき因果応報を何の罪の無い善人が受けてしまう《運命の改変》が行われるのです』
「酷い、神様の所業とは思えない!」
『だからこその邪神です。邪神アロウスは世界を作り直す事を目標にしています。創造神ラストラディーゼに反旗を翻しヒューズ2の滅亡を目指す暗黒の支配者。闇の勢力の世界に変えようと今は着々と勢力を広げている。アリアはそんな邪神の呪いにかかり悪意を向けられた結果の死。まったく無念でなりません』
「だいたいは分かった。つまりアリアはそんな呪いにかかった挙句の死だった。だけど実際に麻薬を彼女に与えたのは悪人だよね?邪神に運命をイジられたとしても、根本は人の悪意の結果だよ。遠回しに運命の改変をする邪神は許せないところだけど、それに踊らされてアリアに悪意を向けた人間達も私は許す事は出来ないよ」
『その通りです。邪神の呪いは悪意の向かう先の変更に過ぎません。アリア以外に向かう予定の悪意が、邪神の呪いでアリアに向かうように仕向けられた。だけど結果的には被害者の差し替えに過ぎない話で、アリアが死ななければ別の誰かが死んでいた話です。元を正せば、やはり悪意を向けた人間が一番悪いという事になります』
「アリアの死のきっかけになった悪人は特定出来る?」
『天音さん!?』
「そいつに罪を償わせたい」
『天音さん、アリアはまだ6歳の幼女。悪人に捕まればまた最悪な状況になります』
「そんな事はさせない。だって私がいるんだ」
『⋯⋯天音さん、今は天音さんがアリアです。その姿で悪人を捜し回るおつもりですか?』
「あ、そ、そうか」
『天音さん⋯⋯この世界で保護者の居ない子供は人身売買の対象でしかありません』
「じ、人身売買!?」
『ましてアリアには元々水魔法の素質が有りました。その髪の毛の色は水魔法の才を表すサインでもあるんです』
「成る程。魔法の才は髪色に現れるんだ」
『この世界、魔法使いは大変貴重です。実は数万人に一人の割合。だからアリアに持たせた魔法の才、これを悪人達は見逃すはずはありませんでした。アリアは保護者が離れた隙に悪人に誘拐され、悪人達はその魔法の才を自分達の都合で使わせようと彼女を麻薬漬けにし従わせようとしました。ですが、子供のアリアに麻薬の後遺症が早く現れ、その結果が』
「聞きたくない、なんて酷い世界なんだろう!
あんまりだよ、酷すぎるよ」
ポタッポタッポタッ
ああ、熱いものが止まらない。
こんな異世界は願い下げだ。
ハッキリ言って、とても救世主なんて務まらない。
『アリアの為に泣いてくれて有難う。天音さんは私の見込み通り、優しくて正義感のある素晴らしい人でした。そのお気持ちだけで、アリアもきっと本望でしょう』
ぐすっ、ぐすっ。
私の涙はその後暫く止まらず、結局落ち着いたのは地球に戻ってからだった。




