第11話 信頼出来る大人
「げほっげほっ、な、何で?!」
「何を考えてるか分かるけど、今のアンタは服を着た方がいい。そのままだと風邪ひくよ」
「わ?あわわ、す、すみません、こんな格好で」
「それに急いだ方がいいね。理由は外に保育園のバスを待たせてるから。皆んなアンタが迎えに出るのを待ってるさね」
「うわっ!?ヤバいって、あ、だけどアイツは?」
って見たら、コーチンおばさんの後ろに倒れている小太りな覆面が約一匹?
口から泡を吹いていて、どうやら気絶してるようだ。
しかも何故か、名古屋コーチンの雄鶏がその上でふんぞり返ってる?
あと、助けて貰っておいてなんだけど、コーチンおばさんも何でここに居るんだ?
「ここはアタシに任せな。早く服着て行ってやりなよ。お迎えだろ?」
「あ、は、はい!」ババッ
ダッ
おばさんに言われるまま用意したジーパンとTシャツ着込んで、そのままダッシュで玄関に向かう。
玄関は開いたままになっていて、既にチビ達と保育園の先生が待っていた。
「あ、あまねママー!」
「うわわん、あまねママー!」
「あまねママー!!」
「ああ、チビ達!待たせたよ」
義弟達は何故か目に涙を溜めて、私に抱きついてきた。
それをしっかりと抱きとめて、その途端に何故か私の目にも熱いものが流れる。
弟達の温もりが伝わり、改めて生きている事を実感した。
ああ、本当に生きていて良かった!
「お姉さん、大丈夫ですか?」
「あ、先生、お待たせしてすみません」
「いえ、その、お祖母様に取り込み中だから少し待っててって言われて⋯⋯まあ5分、10分の待ちは時折あるので、いいですよって伝えたんですが⋯⋯⋯」
「待ってて?お祖母様???」
「あの?違うんですか??」
「⋯⋯⋯お隣の⋯⋯」
「え?」
「いえ、何でもないです。弟達の送迎、有難う御座いました」
「は、はい。それでは空ちゃん、尊ちゃん、大ちゃん、また明日ね」
「「「せんせー、さよーうならー!」」」
バタンッ
ブロロローッ
義弟達は手を振っている。
保育園バスが先の角を曲がって見えなくなるまで、手を振る義弟達はいつもの事。
夕焼け小焼けは秋の空。
さあ、皆んなで家に入ろう。
「はい?」
「あ、お隣の方ですか?少し事情を聞きたいんですが」
弟達と家に入ると、開いた裏口の向こうから警察官が覗いていた。
何で裏口?と思いつつ脱衣所に目を向けたが、店長もコーチンおばさんも、そしてあの、ふんぞり返ってた名古屋コーチン雄鶏も姿無く、すっかり藻抜けの殻だった。
どういう事??
「「「おまわりさん!!!」」」
「はい、はい、おまわりさんですよ。おまわりさん、ちょっとお姉さんにお話あるから君達はそこで待っててくれるかな?」
「「「はーい」」」
そこからの警察官の話はこうだった。
隣りのコーチンおばさんの家に店長が侵入?
そしてコーチンおばさんの色香に迷い、店長がコーチンおばさんを襲って逆に襲われた???と。
いや、なんの冗談?!
「お前なぁ、いくらモテないからって、あんなしおしおオバチャン襲って何が嬉しの?その許容範囲の広さに俺たちゃ皆んな脱帽だわ」
「あぐ、ちが、俺は確かに、オバチャンじゃなく」
「はあ?何言ってのか分からないよ。とにかく家宅侵入と家主への暴行未遂。あと強盗容疑も付けとくから。んじゃ、別荘行こうか。暫く臭い飯になるけど、そんだけ肥えてれば丁度いいだろう」
「あ、俺のスマホは?」
「スマホ?お前、最初から持ってなかったぞ」
「いや、た、確かに?そこの!」
「あ?これか?うわっ粉々じゃないか。ミニSDカードも割れてんぞ。お前、スマホに万力でもかけたのか?」
「馬鹿、な!?」
「もう、いいだろう。ほら行くぞ!」
「ち、ちくしょう。な、何で!」
店長はそのまま連れていかれた。
それを垣根越しに見ていたら、垣根が穴だらけでコーチンおばさんの家と素通り出来る状態?!
だから警官が裏口から覗いていたらしい。
それから警察官は隣りの騒ぎで何か気づいた事があったか、それだけを聞いてきた。
私が何を喋ればいいか迷っていたら、コーチンおばさんが出てきて『こっちの家は関係ないよ、被害者はアタシだけだから』って叫んだんで、警察官の事情聴取はうやむやになった。
コーチンおばさん、もしかして私を庇ってくれたのか?
見ず知らずで付き合い浅いのに何でよ?って見たら、コーチンおばさんがウインクしてた。
何故か足元の名古屋コーチン雄鶏までウインクしてたから思わずフリーズしそうになったけど、成り行きでお辞儀した。
うん、後でちゃんとお礼しにいこう。
❇❇❇❇
「おばちゃーん!」
「コーチンおばちゃーん!」
「名古屋のおばちゃん!」
「はあ?誰が名古屋コーチン糞ババァだい?!あんたら、とんだませガキだね」
「いや弟達はそこまで言ってない、です」
『ゴゲゴッゴーッ』
あれから色々あって、コーチンおばさんこと本浄院雅子さんとは随分と仲良しとなり、今は親戚のような関係にまでなっていた。
それで当初彼女が私達に関わる理由を聞いてみると、神様のお告げを受けたんだと言っていた。
いや、それを聞いた時はもちろん引いたよ?
やっぱり見かけ通りで頭も少しおかしいのかってね。
だけど、引っ掛かったのは次の彼女の言葉だったんだ。
「じゃじゃあ?あの時、私が店長に襲われる事を事前に神様から《お知らせ》があったと??」
「そうなの!私の信奉するこの辺りを守護する土地神さま、八重寿海老右衛門の神様が天音ちゃんが殺されるから助けよ!ってお告げを貰ったんだよ。だから数日前から天音ちゃんの動向を追っていた。そしたらあの男が天音ちゃんが帰宅した後から家に入って行ったでしょ。それですぐに駆けつけた次第よ」
「エビの土地神さま、私はそんな土地神さまを信仰してないんだけど」
「エビじゃなくて八重寿海老右衛門の神さまよ!だけどこうも言っていたわ。異世界の女神からのお願いだって」
「え?」
「頼まれたんだって。異世界の女神さんにね。貴女の運命を変えて欲しいって。天音ちゃん、本当はあの男に殺される運命だったんだって。だけど異世界の救世主になる者だから、何としても助けて欲しい、そう頼まれたそうよ」
「!!」




