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来訪者

随分と間が空いてしまいましたが、読んで頂けたら嬉しいです!



「頼む‼︎俺達を助けてくれ‼︎」


頭を下げる三人に、レオ以外のメンバーは首を傾げた。


「レオ。」


「…はぁ、はいはい。こいつらはシルヴァニアに入って直ぐに俺達を尾行してた奴らっすよ。」


思い返せばそんな事を言って調査に出たな…と思い出す。

だがあれから報告がなかったので、気にもとめていなかったのだ。


「俺達の事…話してなかったのか…?」


「言ったっしょ。俺達は俺達の都合があるの。余計なことに構ってる暇なんてないから。」


「余計な、こと…?酷い…私達は…」


涙ぐむ少女を、少女によく似た少年が抱き寄せる。


「仕方ないよ。でも…それでも、村を取り返す為には‼︎みんなを助ける為には‼︎僕達はあなた方を頼るしか道はないんだ!」


切れ長なサファイアブルーの瞳を真っ直ぐに向けて、少年はユノ達を見つめる。

まだ15.6歳くらいだろうか。

幼さも残る少年達の瞳には、悲壮な決意が宿っている。


「…レオ。」


「…はいはい。」


渋々話し始めた内容に、ガイアスの表情が険しく歪む。


彼らはオルグラド大森林の北外れにある、小さな村に住んでいた。

住んでいた…と言うのは、今はもう村にいないからだ。

ある日突然現れたヴァンパイアによって、村は一夜にして蹂躙、占拠され、30数名の村人達は大半が殺され、一部の者は操られて自我を失って隷属しているという。


「ヴァンパイアだと⁉︎」


ヴァンパイアは、魔人に次ぐ力を持つ人型上位種の魔物で、3000年前の戦いによりその数は激減し、魔王軍敗戦後北の大地まで逃げ延びる力がなく絶滅したとも言われている。


「俄かには信じられませんね。ヴァンパイアはその危険性から特殊討伐隊が編成され、徹底的に殲滅されたと記録に残ってますし…」


「奴らを一匹でも残せば眷属を増やすからな。ギルドも専門のヴァンパイアハンターを使って殲滅に回っていたらしいが、500年前にそのハンターギルドも解散されている。」


「もしかしたら、奇跡的に北の大地に逃げ延びた奴がいたのかもね。魔人が手助けしたなら可能性はあるよ。」


「プライドの高いヴァンパイアが魔人の手を借りるなんてあるんすか?奴ら犬猿の仲って話じゃないっすか。」


「それでも滅亡するよりマシだったんじゃないかな?純潔一匹残せば、復活の可能性はあるわけだし。」


「あんた達の推測は…多分当たりだと思う…」


金色に黒のメッシュが入った髪をグシャリと握りながら、青年が苦々しく語る。


「村を襲ったヴァンパイアは、俺達を相当憎んでいたみたいだった。それに…奴等が大陸に戻ったなら、真っ先に俺達を襲うのは納得もできる。」


「なるほど、お前達は人獣か。」


ユノの言葉に、アレンの手が剣にかかる。

人獣はヴァンパイアと並ぶ人型高位の魔物だと言われているからだ。

ヴァンパイアとは宿敵のような存在で、好戦的で戦闘能力が高く、知能も高い。


「待て、アレン。人獣は敵じゃない。公にはされてないが、ハンターギルドのメンバーは、殆どが人獣だったんだ。」


「それにね、人獣は魔物じゃなくて亜人だと思うよ。過去にどう分類されてたかは知らないけど、この子達の魔力は魔物とは違うから。」


グラナードの言葉に、少女は涙を浮かべて身を震わせた。


「本当に?」


「本当だよ。そりゃ人や獣人よりも遥かに魔力は強いけど、魔物とは質が違う。」


きっと彼ら自身もその事実を知らなかったのだろう。

オルグラド大森林の北の外れに村があったと言うなら、彼らは人から隠れて住んでいたと言う事だ。

見た目は完璧に人間だが、人として生きるには力が強すぎる。

かと言って、獣人の様な獣の特徴はない。

大半の人間が人獣を魔物だと認識している以上、彼らは正体を知られる事を恐れて生きてきた。

だから村が襲われても国に助けを求める事も出来なかったのだ。


「そっか…だから君達の村があるカティナ聖国じゃなく、勇者の末裔の国に助けを求めに来たんだね?」


「はい…。聖国の人間は魔物に容赦がありませんから、慈悲深い勇者の国に頼るしかなくて…。でも、誰に相談していいのかも分からず、途方に暮れていた時に、あなた方が来たんです。」


少年達は何とか警戒されずに近付こうと尾行したが、すぐにレオに発見されてすべての事情を話した。

けれど「気が向いたらね。」という曖昧な対応だけで立ち去ってしまった為、後を付けようとしたが牽制されて近づけず、気付いた時には王都を出ていて慌てて追いかけてきたと言う。

この宿にいる事に気付けたのは、レオの殺気を感知しての事だった。


それを聞いてレオがグラナードをジロリと睨むが、ユノの視線でシュンとしてしまう。


「だってヴァンパイアとか面倒じゃないっすか。ただでさえ魔王とか面倒事に巻き込まれて時間を無駄にしてるのに、ユノ様に話したら絶対引き受けちゃうでしょ!」


「確かにヴァンパイアは興味深いよね〜。」


「…そうじゃなくて…」


「何を迷う必要がある。お前の同胞だろう。」


ユノの言葉に、全員の視線がレオに集まる。


「え、嘘!レオくんの魔力は人間のものだよ?」


「私と魔力回路を繋いでいるからな。深く探らん限り分からないだろう。」


「ユノ様さぁ…一応秘密にしてたんだから、そんなにサラリと…」


それでもユノに反抗する気はないらしく、素直に認めたレオにガイアスは納得いった顔をした。

ユノの規格外過ぎる力に驚かされてばかりだが、レオだって十分規格外なのだ。

魔力回路を繋いでると言われて納得はしていたが、 そもそもそれを受け入れるだけの肉体的素養と、使いこなすセンスがなければ使いこなせない。


「もういいっす。どうせ北に向かうんだし、ついでに立ち寄れば済む話っすからね。」


「それじゃあ助けてくれるのか⁉︎」


期待に満ちた瞳を忌々しげに返し、深い深い溜息を吐く。


「ユノ様の言葉は絶対。俺はただ主人に従うだけっす。」


「主人でなく姉弟子だろう。」


キラキラと瞳を輝かせた三人は、揃ってユノの前に膝をつき、手を胸にあてた。


「俺の名前はベルガ。虎の人獣です。」


「僕はフィン。狼の人獣です。」


「私はリル。フィンの妹で、狼の人獣です。」


「「「ユノ様にこの身の忠誠を捧げます。」」」


「義理堅い種族だ。いいだろう。村を取り返すまで、その身の忠誠を受けよう。」


三人に向かいかざした手から、白い光が溢れる。


「え?今のなに⁉︎なに⁉︎」


「黙れ変態。…今のは人獣の『誓い』を受けたお返しに、魔力を与える儀式っすよ。人獣は義理堅い種族なんで、誓いを立てたら絶対に裏切らない。けど万が一裏切れば、与えられた魔力が心臓を潰すように自分の意思で自分達に術をかけるんす。」


「なんでそんな…」


「人獣の天敵であるヴァンパイアは人を操る魔物っすからね。人獣に魅了(チャーム)の魔法は効きづらいけど、絶対じゃない。その場合、操られて主人に敵対した時は、『誓い』の儀式が発動して主人を傷付ける前に自害する為っす。」


長年の宿敵であるヴァンパイアに操られるくらいなら死を選ぶ。

人獣の高潔さと忠義深さを象徴するかの様な儀式だ。


「ハンターギルドのメンバーも、ギルドマスターに対して忠誠を誓っていたと聞いていたが、そういう事だったのか…」


「君達のような若者が命を懸けなければならないなんて…。必ず村を取り返し、皆を助けよう。」


勇者の真摯な言葉に涙を浮かべ、それをこぼさぬように口を引き結び力強く頷く。

ガイアスも大きな手でリルの頭を撫でて、ベルガとフィンの背中を叩いた。


「ねぇねぇ、レオくんもミズリーさんに『誓い』を立てているのかい?魔力回路を繋いでるのはその為?」


「なんで変態に教えなきゃ」


「私達に『誓い』など必要ない。魔力回路を繋いでるのは、心配性な弟弟子が、私の居場所を常に把握する為と、私の暴走を防ぐためだ。」


「ユノ様…暴走癖は自分で理解してるんすね。」


暴走…と言う不穏な言葉に皆がゴクリと息を飲む。


「研究に没頭すると周囲も自分も気にならないからな。レオには何度も助けられた。」


「あぁ、その気持ちわかるなぁ!僕もよく食事を忘れて餓死しかけたり、魔力を使い切って死にかけるよ!」


「変態とユノ様を一緒にすんな。ユノ様の場合、研究でとんでも無いものを作ったり、消し飛ばしたりするから、俺はそれを封印したり防護結界で周囲に被害が出ないようサポートしてるだけっすよ。」


とんでも無いもの…と言うワードにファルシオンを思い浮かべながら、納得してもう何も聞くまいと視線を反らすガイアスとアレン。

もちろんグラナードと人獣三人組は瞳を輝かせて詳細を聞きたがったが、それはレオにあっさり却下され、面倒臭そうに話しを戻す。


「じゃあ村までの最短距離って事で、北上しつつオルグラド大森林に入るコースで決まりっすね。」


「あ、でも村の周囲には特殊な結界が張ってあって、余所者が侵入すると村にすぐバレちゃいます。」


「あぁ、それなら対策は考えてあるから大丈夫っすよ。それより…」


ちらりとユノの方を見ると、ファルシオンのネックレスを手に、なにやら魔力を使っている。

長くユノと一緒に過ごしてきたレオには…どうも嫌な予感しかしない。


「空飛ぶ船だけは絶対阻止っす…」


優乃の記憶で見た飛行機を思い出しながら、プルプルと首を横に振る。

あんな恐ろしい乗り物など、この世に存在してはならないと思いながら。


だが、レオの心配は杞憂に終わった。

出立を決めて外に出た一行の前に現れたのは、リムジンタイプのオープンカー。

ファルシオンの有能さに呆れつつも乗り込むと、人獣三人組も恐る恐るそれに続いた。


「や、柔らかい…」


「こんな高そうな布…僕達みたいなのが座ったら汚れちゃいます!」


恐縮し、走ってファルシオンに並走すると言う三人に、ユノは浄化(ピュリファ)の魔法をかけて身体と衣服の汚れを落とし、更に治癒(ヒール)も重ねて唱えた。

結果…三人は柔らかなシートに身を横たえて爆睡し、穏やかな寝顔を見せている。


「ずっと精神張り詰めてきたんだろうな…」


ベルガの少し硬い髪を撫でながら言葉を落とすガイアスに、アレンもフィンの柔らかな髪を撫でて頷く。


「本来なら守られているべき子供達が、たった三人でこんなに遠くまで勇者を頼って旅を…。その信頼に、私は応えたい。応えなければならない。この身に流れる血にかけて。」


「人獣にヴァンパイア…凄いよね‼︎まさか絶滅したと思われていた彼らに会えるなんて‼︎あぁ、どんな能力があるのかなぁ!」


「…勇者様の良いセリフが台無しっすよ。心配しなくても、変態が魅了(チャーム)にかかったら、俺が一撃で仕留めてあげるんで。」


「えぇっ⁉︎そこは助けてよ‼︎魅了(チャーム)って、人間には効果絶大なんでしょ⁉︎」


「強い精神力があれば平気なんで、その点は心配ないんじゃないっすか?」


「レオくんが僕を信頼してくれてる…」


「いや、あんたの場合、ヴァンパイアと人獣に興奮してすでにトチ狂ってるんで。」


「酷い‼︎でも否定出来ない‼︎」


「お前ら…本当に仲がいいなぁ。」


「やめてよ‼︎」

「そう思う⁉︎」


キャンキャンと言い合う二人の喧騒を聴きながら、ユノは瞳を閉じて柔らかなリルの髪を撫でた。


膝に感じるリルの暖かさと心地よい頭の重み。

パチンと指を鳴らして出した薄いタオルケットを三人に掛けて、胸の奥に湧き上がる暖かさに僅かに微笑むのだった。



next…

















同時連載の『公爵家令嬢に転生したけど、チート過ぎて生きづらい』もちょこちょこ書いておりますので、そちらも読んで下さったら嬉しいです!

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