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天然牢獄  作者: niya
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三日目。七時。

三日目。七時。

 ガルーダとスコーピオンとの弱肉強食の戦いが終わった後、まるで今までの戦いが嘘の

様に静かになった。時折、目の前に出来た窪地に興味を示し訪れる馬や鹿が現れるが、数

秒後には興味を失い去っていった。マウリにとっては今まで目にした生物が常識外のもの

ばかりだったが為に、一般的な生物を目にすると逆に新鮮さを覚えるまでの境地に至って

いた。

マウリは持ち込まれていた残りの食料を口にし横に寝転んだ。何もない時間を楽しんで

いた。楽しんでいたというのは言葉の表現で、ただ呆然とするいと言ってもいい。

時間はただただ流れていく。

昨日あれだけ睡眠を邪魔をされたが、今日こそは睡魔に飲み込まれてしまいたいという

願望が心を埋めていた。そして、現時点ではその願望は叶っている。食物を摂取した後、

睡眠に突こうと考えていたが、トラウマがフラッシュバックし緊張に晒され眠りに堕ちる

事が困難であった。しかし、時間が流れ次第に緊張に慣れたこともあり、睡眠に取り込ま

れていく。それは時間としては午前四時三十分程度のこと。それから時間が経過し午前七

時。刑期終了まで後僅かとなった時間だった。その時、また振動が独房全体を襲った。

「うわっ! うわっ!」

 表現し辛い音域でマウリは叫ぶ。その様子は心霊のドッキリにをされたユーチューバー

みたいであった。慌てて透明な壁に近寄るマウリ。そこには独房を叩くまる鎧竜みたいな

巨大生物であった。顔は非常に草食動物らしいおっとりとした顔立ちで、背中は硬い装甲

で覆われており、尻尾の先には巨大な骨塊を尻尾にもつ生物だ。例えるならアンキロサウ

ルスに近い容姿をしている。その尻尾に持つ骨塊で、何度も独房を叩いているようだ。

「な、何でこの建物叩くんだよ!」

 そう独房内で叫ぶマウリではあったが、振動に揺さぶられながらも周囲を見渡すと、他

の鎧竜達が木々に同じ行動をしている。そして、木の上部から落下した果実を食べている

ではないか。この独房を尾で叩く鎧竜もどうやら同じ事をしているようだ。

「簡便してくれよ」

 マウリがそう思ってもその間にもずっと尾で作業をし続けていた。鎧竜からみれば、こ

んなところに独房があるのが不自然な訳で、それに気がつかないのであれば同じことをす

るのは当然である。

マウリが振動に我慢をし続けている最中、マイクに微かに聞こえる程の聞き覚えのある

嫌な音が混入してくる。その不快音は徐々に独房へと近づいてくる。そして、徐々に不快

音に新たな音が混ざってくる。マウリには混ざった音が明らかに木が折られている音であ

ることが分かった。そして、もう一つの音も近づくにつれ鮮明になり、その発生源の記憶

もテレビの電源が入ったかのように明確になった。あのドラゴンだ。マウリがそう意識し

た瞬間に、昨日見た閃光がまたも空中を走る。鎧竜の群れが居る場所、そして、スコーピ

オンが作ったクレータの中央部に炸裂した。稲妻が接地し火花が上がる。木や鎧竜等の周

囲に、元の色を捨てさせ白く染めていた。

「やっぱりあいつか! あのドラゴンか!」

 昨日と同じ、朝日を背にこちらへとまるで花道から入場するプロレスラーの如く、マウ

リや鎧竜の群れに接近してきた。それを察知した鎧竜達も、ブブセラのような声を数多く

発し、仲間達にコミュニケーションを頻繁に図っていた。マイクから入ってくる音は、こ

こは南アフリカかと突っ込みたくなる状態であった。鎧竜達も近づいてきたドラゴンと距

離を維持しようと後ろに下がっていく。それでもドラゴンは距離を埋めようと前に進んで

いく。マウリはこの状況を注視している。

「どうなるこれ」

ドラゴンは前に前にへと進み、鎧竜との距離を埋めていく。鎧竜とドラゴンのスピード

を比較した時、早さはドラゴンの方が勝っているようだ。鎧竜が逃げようとするも距離を

それでも埋めてくる。このままでは鎧竜は餌食になってしまう。鎧竜の群れで体が一番大

きな奴が群れの進行方向とは逆の位置を向き、ドラゴンの方向を変えて進んでいく。ドラ

ゴンが咆哮するとそれに呼応して鎧竜も咆哮した。お互い前に進み突進していく。徐々に

向かい合う二体のスピードは更に加速していく。撒き散らす土の量も格段と増える。周囲

ある一定のリズムで刻まれていた足の音が、徐々に早まっていく。

そして、ドラゴンの腹部と鎧竜の頭部が衝突する。

衝突音が森の中を響き渡る。当然、独房のマイクも音声を拾っていた。マウリはまた食

い入るようにその様子を見ていた。鎧竜は大きいといっても四速歩行もあり、身体の大き

さはドラゴンの半分程度しかなかった。それでも鎧竜は、仲間を守ろうと果敢にドラゴン

に向かって行く。仲間への励ましなのか、それとも自分自身を奮い立たせようとしている

のか、クリンチの状態で鎧竜は雄叫びをあげる。負けじとドラゴンも吼えた。ここまで来

ると維持の張り合いだ。

「恐竜時代かよ」

 マウリの言葉が示するように激しい闘いが、依然マウリの前で繰り広げられている。鎧

竜は全力で前進しながらドラゴンを押す。ドラゴンの足元が土が盛り上がる。鎧竜は骨塊

のある尾を激しく動かし、ドラゴンの脇を何度も殴打する。その度にドラゴンが鳴き声を

響かせる。ドラゴンも対抗するかのように開口し、閃光を至近距離から放ち鎧竜を感電さ

せる。鎧竜の周囲を閃光が一瞬走りすぎていく。鎧竜も大きく叫んだ。ドラゴンの攻撃が

鎧竜へ確実に体力を減らしている。その間も苦し紛れではあるが、鎧竜も尻尾を使った殴

打を続けていた。

「あれっ」

 独房から見つめるマウリは異変に気がついた。鎧竜の尻尾が鈍い。明らかに動きが鈍く

なっているのだ。激しく動いてたはずなのに徐々にスピードを失っていく。そして、動き

が止まってしまった。明らかに鎧竜の呼吸が荒い。もう息が絶え絶えだ。そんな鎧竜に対

し、ドラゴンは大口を開いき思いっきり噛み付いた。激しい血飛沫を上げ、ドラゴンの顔

を鮮血が染める。鎧竜は苦悶の顔を浮かべ叫んだ。聞いたマウリは心が苦しいという感情

が支配する。長々と噛み続けるドラゴンであったが、鎧竜が叫ばなくなり動くこともなく

なることを確認するとゆっくりと口を開き開放した。開放された鎧竜は、身体から煙を立

ち上らせながら、ゆっくりと崩れ落ちた。ドラゴンは鎧竜の亡骸を踏みつけ、生命の灯が

消えていることを確認した。自分の考えが正しいことを確認すると、勝ち誇ったかの様に

今まで聞いた中で一番に大きな咆哮を挙げる。

「勝負ありか」

 そう言いながら周りを見渡すと、鎧竜の群れは既に消えていた。

「自分を犠牲にその他の命を守ったか。これもこの世界で生き残る方法か」

 ドラゴンは鎧竜の群れが消えたことを一切気にすることなく、ただただ目の前に転がる

餌を貪り食っている。周囲に色んな部位が飛ぶ。

「これで満足するか?」

 マウリの言葉に反応するかのようにドラゴンは食事を止めた。そして、顔を上げ視線を

マウリに向けた。

「えっ? マジ?」

 まるでマウリの言葉を耳にした様な反応。それはマウリには嫌な予感が心の中を走り回

って仕方がなかった。背中に一筋の汗が流れていく。

「気づいてた」

 最初にドラゴンが出現した時に視線が交錯した気がしていた。しかし、それは一瞬のこ

とで、ドラゴンもその後どこかに向かった為に気には留めなかった。しかし、ドラゴンが

マウリを見ていたことは間違いではなかった。ドラゴンは確実にマウリへと視線を送って

いた。

「これは…やばいかも」

 ドラゴンはマウリを睨みながら口を開き閃光を放った。放たれた閃光は、稲妻が宙を舞

い周囲を照らしながらマウリに目掛け飛んだ。マウリの独房低層階に直撃し、壁からドラ

ゴン花火のような火花を散らせた。一緒に薄い白煙が上がる。

「うわっ!」

 一撃目の閃光を放ち終えたドラゴンは、またも開口しマウリをターゲットとして捕捉し

二撃目を放った。二撃目は、一撃目から放ったポイントを修正し、マウリが居る頂上の独

房部分を捉えた。ドラゴンの閃光で壁一面が光で埋め尽くされ、室内は光により瞬間的に

白に全部が染められた。

「眩しい!」

 マウリは瞼を閉じ、光から自分の目を守ろうとする。それでも瞼を閉じても光が襲い掛

かっているのは分かった。スピーカーからも壮絶な音がけたたましくマウリの耳を激しく

刺激する。やがて、光と音の刺激が治まり静けさが包む。

「治まった?」

 マウリはゆっくり閉じていた瞼を開き、周囲の状況を確認した。目の前には暗闇が訪れ

ていた。しかし、奴はいた。ドラゴンはそこに居た。

「諦めてくれないかなぁ」

 マウリの身体を脂汗が流れる。ドラゴンは睨み続ける。数秒、緊迫した空気が続く。き

の緊張した空気を壊したのはドラゴンだった。その場に止めていたドラゴンの足は前に前

に進み始めていた。進む度に新たな足跡ができる。右足。左足。

「来てる! 来てる!」

 声を上げることしかできないマウリ。だが、ドラゴンには防音対策がなされている為、

マウリの声は届かない。声が届く時は、マウリに死が迫る時だ。またも口を大きく開き閃

光を放った。またも壁を閃光が染め上げる。

「またか!」

 マウリは両腕で顔を隠す。しかし、隙間から非常に多くの光が漏れる。

「うぐっ」

 マウリはなんとか堪えが、この光量は苦痛でしかない。またも光と音が治まり静寂を取

り戻す。ゆっくりと前を確認すると、壁の外にはドラゴンが聳え立っていた。その距離は

壁を隔てているが、その厚さしかないと言っても過言ではない。

「ち、近いよ…」

 届くはずもないのだがドラゴンに話しかけるように言葉を震えながら絞りだした。あま

りにも近いこの距離は、ドラゴンの観察が細部まで視認することができる。ドラゴンの皮

膚は爬虫類に近く、網目のように線が幾つも走っている。目は顔のサイズの割に小さく、

茶色をしている。今は閉じているが非常に大きな口をしており、数十本程の歯が外にはみ

出している。こういった情報も今のマウリには冷静に整理できる心理状況ではなかった。

「簡便しれくれよ」

 情けない言葉しかマウリの口から零れ落ちてこない。この状況では致し方ない。そう死

という結末に徐々に導かれつつあるのだから。

そうしている間にもドラゴンはまじまじとマウリを見つめ、鼻をひくひくと動かし匂い

の情報を手に入れようとする。しかし、何の情報も手に入らなかったのか、苛立ちから大

声で吼えた。もしかした脅かしの意味もあったのかもしれない。

「ひいっ」

 その脅しをする前からマウリは既に腰が抜け、その場にヘタリこんでいる。ドラゴンの

恐怖に心が包まれていた。身体中が汗に滝の様に流れ、呼吸が乱れる。ドラゴンは明らか

にマウリに対し、殺意が向けられている事を実感している。それでも、マウリは目を見開

き怯えながらその場で苛立つドラゴンを見つめることしかできない。

顔を上げ天空を見たドラゴンは強烈な雄叫び、そうそれはまるで大きな爆発音に聞こえ

るものであった。空気が振るえその振動が壁を更に揺らす。接合部が激しく軋む。

荒神の森に雄叫びが駆け巡り終え静まるとドラゴンは数秒だけ睨むと即座に多くの唾液

を撒き散らしながら大口を開け、独房に噛み付いてきた。牙と壁が接触した時、異様な音

が響く。そして、またも接合部が軋んだ。

「ひやぁぁぁぁ」

 マウリは日頃出すことのない声を出した。そして、背後に逃れようと下がるが、ドラゴ

ンの視線から逃げることはできない。ドラゴンは未だ壁を噛み砕こうとしている。ドラゴ

ンから恐怖のあまり視線をはずすことができないマウリに、はっきりと口の構造が刻まれ

ていく。

 透明な壁に唾液の痕なのか、それとも牙による傷なのか。ただただボロボロになってい

く壁。それは耐久性がどんどん損傷が進んでいくことを証明している。

「はは……ハハハハハハ」

 当然な状況ではあるが自分の命を狙われている状況であるが為に、冷静な状態ではいら

れなかった。壊れていく精神。そして、噛み続けるドラゴン。この状況がどれくらいかは

分からないがある程度時間この状況が維持されていた。

後方に摺り下がるが、進み過ぎて背後の壁に接触した。もうこれ以上は後方へは下がる

ことができない。片足で壁の側面を蹴り、尾で独房の一部を叩き付ける。その衝撃は、独

房に伝わり激しく揺さぶられた。マウリは身体を震わせることしかできない。

ドラゴンは独房を噛み続けた衝撃で、徐々に傷つきヒビが走っていく。マウリはもう自

分の終焉が脳裏を過ぎる。ただ、それを僅かに残った感覚だけで感じた。瞼を閉じ、自分

の最期を待った。すると、先程までの音が止まり、その代わりに全く違うまるで打ち上げ

花火のような重い破裂音が耳に届いた。何事かと思ったマウリは、閉じていた瞼をゆっく

りと開いた。マウリの目にドラゴンの頭部で何かが爆発している画だった。

「えっ?」

 マウリが呆然と見ていると、視界の外から何かが進入しドラゴンの胴体に刺さる。その

数秒後には、刺さった何かが爆発を起こす。吼えるドラゴン。その光景はその後も続く。

「何が…」

 ドラゴンの爆発部分は、黒く焦げて白煙を上げている。それでも巨大なドラゴンは死ん

ではいなかった。それでも突如の攻撃に疲労したのか動きが鈍くなった。それまで続いて

いた攻撃も、ドラゴンの動きを様子を見る為か治まった。ドラゴンはマウリに興味を無く

した様で、フラフラとしながら背を向けた。そして、どんどんとマウリから離れていく。

 マウリはただただその様子を眺めていた。

「助かった……のか?」

 ドラゴンは更に離れ、独房とドラゴンの間にはかなりの距離が生まれていた。森へ向か

うドラゴンは鎧竜の遺体を尾で掴むとそのまま引き摺り森の奥深くまで進んでった。そし

て、姿が見えなくなっていく。

高まった緊張が遠のき、マウリはただただ呆然としていた。仰向けにした身体を大の字

して横になっていた。服はびっしょりと濡れている。

マウリの耳にある一定のリズムを刻む音が届く。それは徐々にマウリの居る場所へと近

づいていく。そして、扉の前で音は止まった。マウリは、微かに残る力を振り絞り、首を

僅かに動かし扉を見た。そこには二つの影があった。

「?」

 扉が開き室内に二つの影が入ってきた。あまりに疲労していたのか、はっきりと影の正

体がぼやけて見辛い状況になっていた。よく凝らしてみると、その正体はマウリを独房に

収監した刑務官だった。手にはボウガンが握られている。

「おい! しっかりしろ!」

 若い刑務官が叫び、マウリの身体を揺らした。

「あっ」

 マウリは何とか残っている力を振り絞り、若い刑務官に応えた。

「息はあるな。いくぞ」

 ベテラン刑務官は、マウリの意識を確認すると若い刑務官に指示を促した。

「はいっ」

 二人は即座に、両脇から抱えると室内を出て行った。その時にマウリは気を失った。

次に意識を取り戻し、最初に目にしたのはまるで木々で囲まれた空だった。

「空」

 その言葉に気づいたのは、頭の上に立っていたベテラン刑務官だった。

「お目覚めか」

「外なのか? あそこを出たのか?」

「ああ。そうだ」

 マウリはベテラン刑務官の言葉を元に刑期が終了したことを知る。そして、マウリは自

分の状態を見回し確認した。マウリは担架で運ばれいた。前にはベテラン刑務官、後ろに

は若い刑務官が担架を握っている。

「このまま帰るのか?」

「いいや。この先の平地にヘリがある。そこでヘリと合流だ」

 マウリが顔を上げ、前方の広場がありそこにエンジンを止めたヘリが居た。

 帰ることができるんだという想いがふつふつと湧き上がってきた。同時にどうしようも

なく涙が零れる。どうしようもなく。どうしようもなく。

三人はヘリに向かって道を歩いてく。


 完                            

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