38、伝言
いずれ羽田淳とも会うだろうという不吉な予言を残し、グィーさんは帰って行った。ガイラルアッヴァーン氏も、グィーさんと共に去った。
「はあ。ブタ酒場でも行くか」
「わたしも、行くよ」
本当は、より強くなるべく練習すべきだが、羽田淳の話を聞いて、酒に逃げたくなった。
「いらっしゃいまし」
「こんばんは、マスター。あれ?……ゴッドさんがいない」
「ゴッド様は、出雲に向かわれました」
「ああ、もうすぐ神無月だから……」
ゴッドさんがいないブタ酒場は、少し静かで、灯りがやや暗く感じた。
「ところで三輪さん、そちらのお嬢さんは?」
「純野さん、ですね」
「わたし、純野悠羽子。よろしく、マスター」
「よろしくお願いいたします、純野様。トン・ブヒーガーと申します」
「様は、やめて」
「これは失礼をいたしました、純野さん」
「うん。その方がいい」
マスターから渡された酒を飲む。
「ゴッドさん、無事に出雲に着くかなあ」
「もちろんです。あ、ゴッドさんから三輪さんに伝言がありました」
「伝言、ですか」
「そうです。もし三輪さんが来るなら、伝えるように言われていました」
「聞かせて下さい」
何だかはわからないが、ゴッドさんは言葉は荒っぽいが、ブタ族やブタ扱いされた者に優しい。
「では、お伝えします。『酒もいいが、修業しろ!お前は、最強にゃなれねえだろうが、今よりは強くなれるぜ、ぶふぃ』とのことです」
「……伝えてくれて、ありがとうございます、マスター」
結構、耳に痛い。
「はあ」
「三輪さん、どうぞ」
マスターから新しい酒を渡され、飲む。
「三輪、修業しよう。明日から、わたしも、一緒」
「……純野さん」
「わたしも、まだシャシャカのロボットには、勝てないかもしれない。でも、わたしを造った神は、シャシャカより強い。他にも、強い者はいた」
「三輪も、巻き込んでしまった。だから、わたしは、強くなる」
現時点では、勝ち目は無い。けれど……。
「僕も、強くなりたい。よろしく、純野さん」
純野さんと酒を飲むのは、楽しい。死神なんかとして、お偉い神のために使われる純野さんは、見たくない。
僕は、羽田淳の域には達することは出来ないだろう。けれど、少しでも純野さんの助けになれるようにはなりたい。そう思った。
「よろしく、三輪」
僕らは、グラスを掲げてから残っていた酒を飲み干した。
「三輪さん、純野さん。こちらもどうぞ」
マスターは、もう一杯ずつ酒を注いでくれた。
帰り道、星がよく見えた。秋の夜は、少し気温が低くなっていたけれど、星の光は暖かく感じた。




