33、国無幸世(くになし ゆきよ)
「三輪さんが、人型でない相手と戦うのに慣れるため……という話なので、とり丸辺りを喚びますよ」
「けけけけけ!純野さんは、私が相手をするわ」
「よろしく、フラウリーノ(エスペラント語で未婚女性につける〜さん)国無」
「けけけ、国無でいいよー」
うーん、純野さんの戦いも見たいなあ。
「昼顔くん、ちょっと向こうの戦いも見たいんだけど」
昼顔くんと国無さんは学生で、僕よりだいぶ若い。
「そうですか?じゃあ、しばらく見ましょう」
「ありがとう。国無さんは、妖獣喚ばないのかな?」
「ええ、あいつは妖獣より強いですから。異世界帰りの奴から奪った爆殺魔法や、妖気でコーティングした糸で戦うんですよ」
「爆殺魔法って、迷軍基地を消滅させたやつ?」
「そうですよ」
国無幸世は、迷利権国の基地を、手ぶらで爆破した人物だ。武器は魔法だったから、証拠が出なくて逮捕されることもなかった。
国無さんの見た目は、長く美しい黒髪、ぱっちりした目、艶やかな唇の美少女だ。
そのため、訓練帰りの迷利権兵に目をつけられ、襲われた……が、返り討ちにした。さらに後顧の憂いを断つため、妖獣に乗って基地に乗り込んだらしい。
なお、妖獣は監視カメラに写らない。
「けけけけけ!始めよう」
「うん」
純野さんは、右手を振って空気の塊を打ち出した。
「けけけ、素敵な技ね」
国無さんは、丈の長いスカートをはいているが、歩法を隠す意味もあるのかもしれない。おそろしく滑らかに、純野さんの攻撃をかわした。
「孤独な魂よ、憎しみを糧に黒き炎となり、我らの敵を爆ぜさせよ!呪殺属性爆殺魔法『リアルビースト』!」
……爆殺魔法は、火属性でも風属性でもなく、呪殺属性なのか。
「……異世界帰りの奴が使ってたらしいですよ、三輪さん。2月14日と12月24日は、威力が上がるらしいです」
「……僕にも使えそうな気がしてきたよ」
「あ、詠唱は『爆ぜろ』とか『爆発しろ』でもいいって言ってたかな」
国無さんの魔法は、結界の外なら山の一つ位は消し去りそうな威力だったが、純野さんは風の盾を作って防いでいた。
僕の方は、昼顔くんが何かしてくれた様で、特にダメージはない。
「昼顔くん、助かったよ。ありがとう」
「三輪さん、俺は何もしてません。あの魔法、たまに効かない相手がいるんですよ」
「……へえ」
どんな相手に効かないかは、聞きたくない。
「けけけけけ!」
「むう」
純野さんが、何かを払う動きをしながら接近する。
「幸世の糸、見えにくいのに上手く払うなあ」
「ああ、糸を払ってたんだ」
僕の目に見えない攻防がしばらく続いたが、不意に止まる。
純野さんの掌が、国無さんの側頭部に当たる直前の位置にある。
国無さんの貫手も、純野さんに当たる直前の位置にある。
「体術まで……。あれは追い詰められないと出さないんですよ。いやあ、純野さんって本当に強いですね」
昼顔くんが、そんなことを言う。
「けけけけけ!楽しかったわ」
「国無、強い」
引き分け、なのだろう。純野さんは、国無さんと握手をしてからこちらに来た。
「次は、三輪。がんばれ」




