31、酒は大事です。
昼過ぎに、目を覚ます。痛む体を引きずって、酒屋へ行く。
「うん、残った金の9割ぐらいつぎ込めばいいか」
登雄流さんからもらった報酬の9割を使い、卜部さんに渡す酒を買った。
酒を持って、山へむかって歩いた。太陽は、少しずつ西へ傾いている。
時折、近くをトンボが飛んでゆく。
「ああ、酒が飲みたい」
目に映るものや、吹く風の心地よさに、酒が飲みたい気持ちが、かきたてられる。
「どうぞ、約束した酒です」
「……おお!ありがとう三輪さん!」
卜部さんは、大喜びだ。僕も酒をもらったら、こんな感じなのだろうが……。
「さて、今日の練習を始め……る前に、確認しよう。三輪さんは、太極拳をベースに戦っているね」
「そうですね」
「太極拳は、世間の評価はともかく、高い攻撃力が特徴」
「はい。師匠だった人の打撃を、初めてミットで受けた時は、衝撃的でした」
「ただ、三輪さんは対人戦を想定して練習してきたと思うんだ。そうすると、人型から遠いタイプに苦戦しやすいよね?」
「あー、言われてみればそうですね」
確かにそうだ。『金のデンキパイロット』のような手足が触手のヤツの方が、足は人型の『赤のデンキパイロット』よりも戦いにくいように感じた。
「まあ、ぼくも空飛ぶやつや、水の中にいるやつは苦手だったりするけどね」
「卜部さんも、基本素手ですからね」
「まあね。で、今は三輪さんだ。知り合いの妖獣使い達に、三輪さんの練習相手になるように言っといたから、明日以降行けばいいよ」
「ありがとうございます。……ただ、妖獣使いってのが気になりますが。まさか妖獣革命党ですか?」
卜部さんは、ニコニコしている。
「ええと、卜部さん?」
卜部さんは、やはりニコニコしているだけで、答えない。
「三輪さん、がんばれ」
「……うわあ」
妖獣革命党は、以前登場した是害院博士も所属する組織である。世界中の海、山、湖、大河などに妖獣を住まわせることを目的に動いている。
半分霊的存在である妖獣には、近代兵器は効かない。想いを込めた拳や、気合いを入れて打った手作りの武器や、妖術などでなければ、対処出来ない。
そんな存在(妖獣)でもいないと、権力や財力で世の中が動いてつまらん……というのが彼らの主張だ。
だいたい気のいい奴らだが……党首がなあ。
「さあ、今夜は三輪さんが普段やってる練習メニューをチェックして、独りで練習する時にいいのも伝えるよ」
ということで、卜部さんと練習した。
「……ありがとう、ござい、ました」
「じゃあ、いずれまた会おう。何かあれば、酒をくれれば手を貸すよ」
卜部さんは、練習前に渡した酒を大事そうに抱えて去って行った。




