18、弱くはないが、あまり強いわけでもない
シャシャカは、武器は使わず素手で攻撃してきた。武器を使うまでもないと判断されたのかもしれない。
頭に血が上って、つい戦い始めたものの、勝算はない。拳鬼の卜部さんに稽古をつけてもらったことが無かったら、既に死んでいただろう。かなりの速度と威力を持った左右の拳が、ひっきりなしに迫ってくる。
「ちょこまかと〜、鬱陶しい!」
酒ビンを割られた怒りが、少しずつ冷めていく。そうすると、怖さが強まっていく。
「おと〜なしく〜、死ね〜!」
しゃべり方に緊張感がないが、シャシャカの表情からは必殺の意思を感じた。
倒さないと、殺される。そう思った。
自分を縛るモノが、一つ外れた気がした。
自分の動きが、怒りに委ねるのではなく、冷静に、しかし今までよりも速く力の乗った動きに変わった。
シャシャカの左手の突きを、右腕の向きを変えることでずらす。続けて来た右のストレートを、右足を左側に15センチ程移動させて体をずらしてかわし、左足を前に進めながら、右手の掌をシャシャカの顔面へ打ち込んだ。
「ぶぐっ!」
シャシャカは、よろよろと後ろに下がり、しゃがみこんだ。
本来、追撃すべきだが、こちらも手のひらや肘などが痛い。上手く掌を打てたとは、言えないようだ。
「き〜さま〜!」
シャシャカが、ゆらゆらと立ち上がった。……目付きが、かなり怖い。
「全力で〜殺す!」
そう言うと、すまあとほん(だと思われる)を取り出し、操作しだした。
ザッ!
接近して、爪先で無防備な脇腹を蹴った。
「ナガッ?!」
シャシャカは、うずくまった。
「ひ、卑怯〜!」
「いや、あんたのが格上だし、隙があったのに攻撃しないのは、かえって失礼かなと」
シャシャカは、恨みがましい目でこちらを見ている。普通に戦えば、間違いなく僕では勝てない相手だと思われる。意識を刈り取るぐらいはしないと、不安である。
「三輪、終わった」
シャシャカにとどめを刺そうと動いた時、純野さんが戻ってきた。
「あ、潰しとくね」
「ぐげぇ〜!」
純野さんは、空気の塊を無造作にシャシャカへぶつけた。
「よし。三輪、お酒飲もう……!」
純野さんの目が、割れた一升ビンに向き、空気が凍りついた。
「三輪、こいつ殺すよ?」
「やめて」
「わたしの分、三輪にあげないよ?」
殺しちゃってもいいような気が、一瞬した。
「いや、やめてね」
「三輪。消せる時に消した方が、いいよ。こいつ、本来はかなり強い」
純野さんは、僕をまっすぐ見てから、改めて殺すことを提案してきた。
「いずれにせよ、純野さんに殺させる気はないよ」
純野さんは、しばらく僕を見てから
「そう」
……ぽつりと言って、背を向けた。
三輪は、弱くはないですが、一流には程遠い腕です。
当初は三輪が負けるはずでしたが、なぜか勝ってしまいました。




