16、酒ガ無イノカ?
「じゃあ、時春さん、失礼します。純野さんも、またね」
「今度来るときは、賽銭を頼むに」
「三輪、また」
帰って寝直した。
深夜、窓から入ってきた風が涼しかったので、散歩に出た。風に吹かれて歩くのは、酒が無くても心地よい。
ギョララララ!
「無能者ヲ排除シマス」
デンキパイロットだ。頭部には、発電所を表す地図記号と「金」の文字が書かれている。
酒を渡して追い払おうと思ったが……酒が無い。飲み代が無くなり、酒が切れていた。普段なら、いざという時のために、隠し酒があるが……それすら飲み尽くしていた。
「無能者ヲ、排除シマス」
デンキパイロットは、触手を一本出して、ゆらゆらさせている。これは、酒を催促する動作である。
「無イノカ?……無能者ヲ、排除、スル!」
ギョララララ!ギョララララ!
こちらに、渡す酒が無いことを察知したデンキパイロットは、8本の触手のうち4本を使って攻撃してきた。
僕は斜め前に避けたが、デンキパイロットは厄介だった。ニンゲンなら、横や後ろに入り込めば攻撃されにくくなるが、金のデンキパイロットのレーダーは、三百六十度に対応する。こちらを見失うことはなかった。
「うわわ!」
接近したことで、打撃や刺突の威力は低くなったはずだが、触手を巻きつけてきた。
「三輪さん、伏せるでやす!」
声に反応して、とっさに伏せた。
カシュッ!
「……ブタ族の秘技、豚足脚でやす」
金のデンキパイロットは、弱点である頭部の地図記号を削り取られていた。
「三輪さん、お久しぶりでやす。チャシュー・ヤキブッタでやす」
「おお、チャシューさん。信濃に来てたんですね」 「はい。我々ラ・メーンは、エアリアルを逃がしたため、雇い主だった組織を敵に回したでやす」
「それは……すみませんでした」
「いやいや、どうせ組織は我々を情報保護のために、消すつもりだったようでやした」
スーツをりゅうと着こなしたブタ、チャシューさんは、気にするなと前足を振った。
「で、ラ・メーンも組織が手出ししにくい信濃に避難したんでやす」
「そうでしたか」
「ただ、ラ・メーンの中にもエアリアルを引き渡せば組織に見逃されると考える者もいやして。……それを三輪さんに伝えるように、カラシミソフ副長と……ゴッドさんからもいいつかって、ここに来たんでやす」
「ありがとうございます」
お礼に酒でも……と思ったが、酒が切れていたのを思い出した。最後の酒は、時春さんの祠で、純野さんと朝から飲んで無くなってしまったのだ。
「どうも純野さんと飲むと、飲み過ぎがちになるな」
「エアリアルも、酒を飲むのでやすね」
独り言に、チャシューさんが反応した。
純野さんに、初めて酒をあげた時には、チャシューさんは居なかったのを思い出した。
「意外ですか?」
「意外でやすね。組織の研究所にいた時は、エアリアルは殺戮機械として扱われてやした。酒を飲んでも、楽しみそうにない……感情の無いモノみたいでやしたね」
顔には出ないけど、酒渡すとウキウキした雰囲気になるんだが……。
首をかしげていると、チャシューさんが言った。
「三輪さんに預けて、良かったみたいでやすね」
「だと、いいんですが」
「では、私はここで失礼しやす。ゴッドさんも会いたがってやした。ブタ酒場Tonにも、顔を出して欲しいでやす」




