10、園辺食堂(そのあたりしょくどう)へ
「うん。三輪の所へ行く。なぜなら、酒をくれるから」
「……もう、残ってないんですが。それと、酒をくれるからといってホイホイついて行くのは、いかがかなと思いますよ」
「三輪は弱いから、大丈夫」
…………。
「まあ、後で考えましょう」
「うん。それと、お腹空いた」
「はあ。ガイラルアッヴァーンさんも、グィー殿の所へ行く前に何か食べに行きませんか?」
「左様ですな。行きましょう」
財布をこっそり見る。二千円ぐらいある。
純野さんを見る。目が合った。……首をかしげられた。
小笠原さんの細胞から、世界を動かす勢力に造られた後、稼働実験中に彼らから解放したわけだが、常識はなさそうに思われる。それとお金も。
「念のため、お二人に聞きますが……ブタ呼ばわりされたことは、ありますか?」
前の仕事をしてた頃は、ブタ野郎とかよく言われたものだ。しかし、そのお陰?で、ブタ族しか入れない店に入る資格を得た様なので、悪いことだけではなかった。
さすがに無いだろうけど、あの店に二人も行けたらツケがきくので、助かる。
「私は、無いですな。冷血人間の印象が強くなるようで、そちらからの悪口は吐かれましたが」
「まあ、そうですよね。すると、ブタ酒場は入れないし、園辺食堂へ行きましょう」
園辺食堂は、橘さんという鬼がやっている店だ。一種の異界で、知る者が行きたいと思えば、出現する。
「おお」
「では、入りましょう」
三人で、出現した店の入り口へ向かった。
ガイラルアッヴァーンさんが、やや先を歩いている。
……くい。
純野さんに、袖を掴まれた。
「三輪。わたしは、閉じ込められていた場所でいつも、実験用のブタと言われていた。三輪も、ブタと言われていたなら、同じ」
「僕が、ブタ野郎呼ばわりされてたの、話しましたっけ?」
「なんとなく、わかる」
酒をたかってくるだけの人だと思っていたが、ちょっと違ったようだ。
「そのうち、ブタ族がやってる酒場にも行きましょうか」
「うん」
「いらっしゃい。三輪さん、久しぶりだな」
店に入ると、橘さんが声をかけてきた。
「こんにちは。信濃に移住してきた二人も、連れて来ました。何かあったら、よろしくお願いします」
「おう。この店をやってる、橘だ。よろしく、新しいお客さんたち」
「冷血人間のガイラルアッヴァーンと申す。よろしくお願いいたします」
「ああ、丁寧にどうも。冷血人間か、怪我すると血で何でも凍らす人らだっけか。で、そっちの女の子は……何か悪魔召喚士にそんな顔のが居たような?いや、何か違うな。……死神?」
「うん。純野悠羽子」
橘さんは、頷いている。
「ああ、やっぱり。よろしくな。知り合いの死神と、ちょっと似てたからな」
「あれ?橘さん、死神の知り合いもいるんですか?」
「まあな。卜部が連れて来たんだよ」
『拳鬼』卜部翠隼は、橘さんの親友だ。あちこちの異界を渡り歩いている。
「まあ、初めてのお客さん達だし、今日はただでいいや。あ、三輪さんは払ってな」




