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まだまだこれからだ!  作者: 九重


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まだまだこれからだ!

本日は3話投稿しています。

こちらから入った方は、2話前に移ってください。


これで、完結です!

「そこ、もっと丁寧に!」


「クソッ! なんで私が、こんなことを」


「しっかり磨いて!」


時が過ぎ、いつもの日々が戻り、以前と同じようにギオルのウロコを磨く暖。

そこには、一緒に鱗を磨く魔王――――いや、元魔王の姿があった。


「長生きはするものだな。よもや、魔王に体を磨かれることが日常になるとは、思いもしなかった」


呆れるギオルのセリフは、いつかどこかで聞いたような気がする。

暖たちと一緒の村で暮らすようになった元魔王。

手荒い洗礼をなんとか生き延びた彼は、その後、暖の下働きとなっていた。


「クソッ、何年経っても、屈辱だ。……この私が! どうして竜のウロコ磨きなど!」


「ワガママ、言わない」


「これはワガママなのか!?」


元魔王の叫びを、暖があっさり聞き流すのも、どこかで見た風景。

流石に元魔王が可哀想に思えるギオルだ。

次はディアナの家の掃除。次はネモとのリハビリという名の死闘等、元魔王は朝から晩まで働き詰めなのだから。



ギオルとは違い、微塵も魔王に同情していないリオールが、にこやかに暖に話しかけてきた。


「ウララ、そろそろアカリとハルトが幼稚園から帰ってくる時間ではないですか?」


「え、もうそんな時間?」


暖は、驚いて顔を上げる。

それと同時に、寝そべるギオルの頭の横の空間が、ボーっと光りはじめた。



「ママ! ただいま」

「たっだいまぁ!」



元気のよい二つの声がして、その場に可愛い男の子と女の子が現れた。

男の子は銀の髪と黒い目、女の子の方は、黒い髪と紫の目をしている。


二人の子供は、自分たちなど一飲みにしてしまいそうなギオルを怖がりもせず、一目散に暖に向かって駆けてきた。


「おかえりなさい。幼稚園では、イイ子にしてた?」


自分に飛びつく二人の我が子を抱きとめながら暖はたずねる。


「うん! もっちろん!」


「ウソはダメだよ。アカリは、ゆいちゃんとケンカしただろう?」


「アカリ、わるくないもん! ゆいちゃんったら、ハルトのかみをひっぱったんだよ。 アカリ、かたきうちしてあげたの! めには、めを、はには、はをって、いつもネモおじいちゃんが、いってるもん!」


元気の良い灯里(あかり)は、ネモやウルフィアの秘蔵っ子だ。おかげで女の子としては乱暴なのが悩みの種になっている。


「ちがうよ。ゆいちゃんは、ぼくがすきなんだよ。だから、ぼくのきをひこうとしたんだ。そうだよね? リオールおじちゃん」


一方、暖人(はると)は、リオールやラミアーと一緒に本を読んだり話をしたりするのが好きなインドア派だった。ちょっと子供らしからぬところが、気にかかるといえば気にかかる点だ。


おじちゃんと呼ばれたリオールは、嬉しそうにデレデレと笑って暖人の頭を撫でた。

――――美人エルフが台無しである。


「どっちにしても、ケンカはダメよ。あなたたちは、日本の子たちと違って魔法が使えるんだから。弱い者いじめだけはしないでね」


その様子に呆れながら、暖は子供たちに注意した。

言われた二人は、素直に頷き返してくれる。


「ひなたママも、いっつもそういっているもん」


「まさきパパは、いじめられたら、おれが“じゅうばいがえし”にしてやるって、やくそくしてくれたんだ」


二人は、笑ってそう言った。

相変わらず親バカ丸出しの妹夫婦に、暖は頭を抱える。




――――あの後、なんだかんだといろいろあった暖が、無事陽詩と再会したのは、一年後のことだった。


『お前は! 今まで何をしていたんだ!』


怒鳴りつけてくる義弟の顔はずいぶんと憔悴していて、何かあったのかとびっくりしてしまう。

なんでも、最後のディアナの言葉を聞いた陽詩が、かなり腹を立て、しばらく義弟と口をきいてくれなかったのだそうだ。しかも、その話を聞きつけた義弟の祖父まで揃って義弟を責め、この一年間の彼は、針のむしろだったのだという。



「それは、なんていうか、……お気の毒?」


『疑問符をつけるな! しかも、お前はちゃっかり旦那ができて、子供まで産んでいるし!』


義弟の言う通り、その時、暖と、一緒にいたアルディアの手の中には、双子の男女の赤ん坊がすやすやと眠っていた。


ディアナの予言はぴったりと当たったのだ。



『正樹さんったら、大きな声を出さないで。赤ちゃんが泣いたらどうするの?』


キツイ声で陽詩は、義弟を叱りつける。陽詩の赤ちゃんを見る目は、母性本能に溢れている。


病弱で体の弱い陽詩。彼女に出産は無理だと、暖の友人の女医は診断していた。その辺の事情を全て知って、それでも陽詩を伴侶へと望んだ義弟の、その点だけは暖も評価している。


そんな陽詩は、昔から、お姉ちゃんに子供が産まれたら我が子のように可愛がるのだと宣言していた。

彼女が、大好きなお姉ちゃんの産んだ双子の赤ちゃんにメロメロになったのは、言うまでもない。


『お姉ちゃん、お願い。この子たちに日本の教育を受けさせてあげてくれない? お姉ちゃんは、そっちの世界で暮らすことを選んだけれど、でも、この子たちには、間違いなく日本人の血も流れているわ。せっかく二つの世界の血を持つ子供たちなんだもの。大きくなって、この子たちが自由に好きな方の世界を選べるようにしてあげた方がいいと思うの』


なんと、陽詩はそんなことを提案してきた。

子供たちが日本にいる時は、自分たちの子として大切に育てたいとも。


陽詩の本当の目的が、ただただ暖の子供たちを可愛がりたいだけなのだということなど、明け透けだったのだが、驚いたことに、陽詩の提案を、アルディアが思いのほか気に入った。


「広い視点を持つことは、子供にとって大切なことだ」


真面目な顔で頷くアルディア。


『ありがとうございます。お義兄さん。……私たちが赤ちゃんを預かっている間は、どうぞ安心してお姉ちゃんとイチャイチャしてくださいね。単身赴任なんですもの。夫婦の時間は大切ですよね』


ニッコリと、可愛らしく笑う陽詩。




「……陽詩。……アルディア」


呆然とする暖だった。




そんなこんなで、暖の二人の子供たちは、日本とこの世界を行き来しつつ元気に育っている。

元々才能があったのか、ディアナの指導を受けた二人は、今では自力で異世界への扉を開けるまでになっていた。


「もとまおうのおじいちゃん! はやく、ウロコみがきおわらせて、アカリとデッキブラシでけっとうごっこしよう!」


「そのあとで、ぼくとまほうしょうぶだよ。きのうディアナおばあちゃんに、うんと、ひきょう(・・・・)なまほうをおしえてもらったんだ! はやくためしたい!」



――――いささか、元気すぎる気もするが。


元魔王は、派手に顔を引きつらせた。それでも、断らないあたり、彼も二人の子供たちを気に入っているのかもしれない。



苦笑しながら暖は、我が子をギュッと抱きしめた。


「それもいいけれど、まずはお家に帰りましょう。今日はとってもいい知らせがあるのよ」


二人は目を輝かせて、暖を見上げた。


「いいこと!?」


「パパ! パパでしょう!? パパ、ようやく王さまをリストラされたの?」


……変な日本語を教えるのは止めてほしいと、今度陽詩に伝えよう。

そう暖は、固く決意する。


「それもあるけどね――――」


暖は、二人の子供たちの耳にこっそりと、囁く。


聞いた二人は、顔を見合わせて「キャァ~!」と、歓声をあげた。



「わたしたちが!」

「おねえちゃんとおにいちゃんに、なるの!?」



ハイタッチして喜ぶ子供たち。

暖のお腹には、アルディアとの三人目の子供が宿っていた。


「やった! やった!」と騒ぐ二人は、リオールや元魔王ともハイタッチをし、ギオルの巨大な頭をよじのぼり、二本の角ともハイタッチする。


「みんなにも、おしえなくっちゃ!」


叫ぶなり、二人揃って駆けていった。

明るい子供の声が、村の中に響いていく。

賑やかに、晴れ晴れと。





その声に耳を傾けながら――――幸せだと、暖は思った。


ある日、突然温泉と一緒に、素っ裸で異世界召喚されてしまった暖。

どうなることかと思ったが、暖はこの世界で、かけがえのない幸せを手に入れた。


愛する人と仲間たち。

二人の子供と、そして、もう一人――――



そっと、自分のお腹に手を当てる。



(ううん。まだまだこれからよね。私は、ずっとこれからも、幸せに生きていくんだから。……みんなと一緒に)



暖は、笑顔で空を見上げる。


彼女の幸せな日々は、まだまだこれからも、ずっとずっと続いていくのだった。


長らくお読みいただきありがとうございました!

なんとか無事完結できました。

これも、応援してくださった皆さまのおかげです。

本当に、ありがとうございました。

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