第16話 12月の朝
12月の土曜日。
吐き出す息が真っ白に染まるほど、空気は鋭く冷え切っていた。
俺は駅前の待ち合わせ場所で、一人彼女を待っていた。
今日は、美咲とのデートの日だ。
じゃんけん3本勝負の上に順番が決まったらしい。
凪葉と美咲、二人から突きつけられた「デートを経て一人を選ぶ」という約束。その先陣を切るのが、今日の美咲だった。
(……正直、心臓が持ちそうにないな)
そんな不安を飲み込もうとしていた、その時だった。
「遥斗くん、お待たせ」
背後から届いた声に振り返った瞬間、俺は言葉を失った。
そこに立っていたのは、見違えるほど着飾った美咲だった。
柔らかなベージュのロングコート。その隙間から覗くのは、身体のラインを艶やかに拾い上げる白のリブニット。冬の厚手の生地であるはずなのに、彼女のしなやかなシルエットを完璧に強調している。
ボトムスはネイビーのフレアスカート。落ち着いた膝丈の裾から、黒のタイツとショートブーツが伸びている。
上品で、それでいてどこか華やか。
明らかに今日という日のために、心血を注いで選ばれたコーディネートだった。
肩までの黒髪も毛先まで丁寧に整えられ、控えめに光るヘアクリップが彼女の清楚さを引き立てている。
「……どう、かな?」
美咲が、上目遣いに少しだけ不安そうな色を浮かべて訊ねる。
「……似合ってる。すごく」
率直な感想を口にすると、彼女の表情がぱあっと春が来たように明るくなった。
「本当? よかった……! 今日、何を着ていくか、すっごく悩んだんだよ?」
くすっと愛らしく笑うと、彼女は迷いのない足取りで距離を詰めてきた。
「今日はあたしが、遥斗くんを色んなところに案内しちゃうから!」
「案内?」
「うん! 朝から晩まで、思いっきり遊び尽くすつもりなんだから」
いたずらっぽく目を細め、彼女は俺の耳元で囁くように続けた。
「……夜も、楽しみにしててよ?」
「おいおい……」
戸惑う俺を見て、彼女は満足そうに微笑む。
「ほら、行こう?」
自然な動作で俺の腕を取り、自分の胸に抱え込むように密着させた。
厚手のコート越しであっても、はっきりと伝わってくる美咲の豊かな弾力。
「美咲、胸当たってるって……」
何度も肌を重ねた仲だ。それなのに、冬の寒さの中で不意に伝わるその肉感的な温もりに、俺の下腹部がじりじりと疼き始める。
「いいの。遥斗くん、あたしのおっぱい、大好きでしょ?」
美咲は楽しそうに、弾むような足取りで歩き出す。
まるで、今日という一日を――その一分一秒を、すべて自分色に塗り潰してしまおうとするみたいに。




