13. その頃バルクァンでは
「テイラー聞いた! アマデウスが消息を絶ったそうよ」
「やあ、クリスタ久しぶりだな。君が特務機関に異動したお祝いに集まったとき以来かな? 相変わらず元気そうじゃないか」
ヴァイオレットとクリスタそして僕の三人は、同期に軍へ入隊し、新兵訓練では同じ班であった。厳しい訓練を助け合い励まし合いながらやり遂げた、所謂、同じ釜の飯を食った中である。
「なに呑気なことを言ってるの! ヴィーの乗ったアマデウスが行方不明なのよ。それも、消息を絶ってから既に三か月も経っているというじゃない」
「そうだな。既に三か月だ」
最初にその知らせを受けた時には驚いたが、三か月も経てば自分なりに事実を受け入れている。
「もしかして、もうとっくに知ってたの?」
「これでも一応ヴァイオレットの婚約者だからな。彼女の妹から色々聞かされているよ」
「色々って、まさかパープルの奴、ヴィーが行方不明だから、婚約者を自分に変更しろとか言ってるわけじゃないんでしょうね」
「まあな」
「あのパープー!」
クリスタが怒るのももっともだ。僕もパープルの態度には呆れている。
彼女は、ヴァイオレットが行方不明になる前から、姉の婚約者である僕にちょっかいをかけてきていた。僕はそれを、婚約者はヴァイオレットだからと拒否していたのだが、ヴァイオレットが行方不明になった途端に、自分がもう僕の婚約者になったかのように周囲に風潮していた。
彼女の行いは、二人が本当に血を分けた姉妹なのか疑いたくなるものだ。
「まあ、まあ。家同士の意向による婚約ではあったけど、婚約の契約は本人同士だ、ヴァイオレット本人が行方不明では、死亡が確認されない限り、八年間は婚約を解消はできない」
「死亡が確認て……、そんなに絶望的なの?」
「なにせディープスペースだからね。消息が途絶えてしまえばそれっきりだよ」
「それっきりって、捜索隊も出ていないの?」
「そういう契約の任務だからな」
「もう! だから、ディープスペースの探査なんて、危険な任務はやめなと言ったのに!」
「まあ、別に命令だったわけでも、誰かに嵌められたわけでもなく、本人の希望だったからな」
「それで、テイラーはこのままでいいの?」
「いいのかと言われてもな。ヴァイオレットとの婚約は家同士で決めたことで、お互い好き合っていたわけではないからな」
「このインテリ眼鏡! それでも、私たち死線を共に潜り抜けてきた仲間同士、親友だったでしょ」
クリスタが僕のことを「インテリ眼鏡」と呼ぶ時は、かなり頭にきているということだ。
「死線というのは言い過ぎだと思うが、厳しい訓練を共にやり抜いた戦友ではあるな」
「それなら、私たちでできることをしようよ」
「そうだな」
僕はヴァイオレットのため、いや、自分自身のために何ができるのか考えることにした。ああ、こんなことでは僕はパープルを非難できないな。
生まれてから学校を卒業するまで、女性に関心が湧かなかった僕は、きっと一生そんなもんだろうと、卒業を機に、親の勧めに応じてヴァイオレットと婚約した。彼女にも関心は湧かなかったが、彼女は大変美しい女性で、その見た目に非の打ち所がなかったからだ。
婚約して間もなく軍に入隊し、クリスタに出会ったのは新兵訓練の班が決められた時だった。最初はクリスタにも関心がなかったが、訓練期間の経過とともに、段々と二人に女性として興味が湧いてきた。そう、クリスタだけでなく、ヴァイオレットだけでもなく二人にだ。
節操なしと言われても仕方がないことだが、訓練中は三人で共同生活をおくっていたようなものだ。過酷な訓練に生存本能が活性化したのだろう。言い訳はともかくとして、僕は二人を女性として見ていた。
だからといって僕が何か特別な行動に出ることはなかった。二人のうちのどちらを取るか悩むことも必要なかった。なぜなら、このまま何もしなければ、ヴァイオレットと結ばれることは決定事項だったからだ。
その前提条件が今は崩れてしまっている。
深宇宙探査船DSDSは、その名のとおり深宇宙探査用に開発された特殊機能を満載した船だ。どんな状況に遭遇しても対処できるように設計されている。
そのDSDSからの連絡が途絶えたということは、ほぼ絶望を意味する。
ヴァイオレットが駄目になったからクリスタに鞍替えする。実にムシのいい話だ。だが、僕が関心を持てた女性は二人だけだ。こうなってしまっては、できることならクリスタを手に入れたい。
パープル? ノーサンキューだ。ヴァイオレットを蔑ろにする彼女には、関心を持てるどころか嫌悪感しか感じない。
それでも、僕の方からクリスタに連絡することはしなかった。それが、三か月経った今になって彼女から会いにきたのだ。これはきっと何某かの啓示だろう。
まずは、ヴァイオレットの安否の確認が必要だ。クリスタもそれを望んでいるだろうし、僕もヴァイオレットとの婚約が解消できなければ、次へ進むことができないからな。




