第六章 世界はまた繰り返す③
メシアが事件を起こす日、以後Xデーと呼ぶことにする、まで二日。学校では授業そっちのけで戦争を未然に阻止する方法を考えた。だが、実際何をすればいいのか全く思い浮かばなかった。なので、学校を終えた俺は、保土ヶ谷に電話をすることにした。
昨日教えてもらった電話番号を打ち込む。
「もしもし」
「その声は都筑か?」
「はい」
「戦争を防ぐ方法であれこれ頭を悩ませていたが、結局思いつかず私に電話をかけてきた。そうだろう」
自信たっぷりの口調で言われて余計腹が立つ。まあ、非があるのは自分なので何も言えないが。
「まあ、そうですけど」
「ちょうどよかった。君に伝えたいことがあったんだ。一時間後にS駅の某ファミレスに来てくれ」
ツーツーツー。何という短い電話。二十秒もたってないぞ。しかも、俺が返事をする前に、一方的に電話は切られた。俺が拒否しないのを見込んでそうしたのだろう。そう推測できる理由は簡単。俺は協力してもらっている立場であるため意見を言いにくいことに漬け込みやがって。しかも、すでに「いいですよ」という返事を頭の中で用意してしまっていたのが、余計悔しい。この女は人をいらだたせる天才かよ。
S駅はうちの学校の最寄り駅で、IPUの支部から地下鉄で一本で行ける位置にある。つまり俺が行きやすいかつ自分も電車ですぐ行け、しかも俺のほうが近いため自分は待たずに済むという完ぺきな場所選びを行っていた。もう腹立ちを通り越して尊敬するレベル。
ファミレスに入って四〇分が経過した。奥の壁に囲まれた四人席に座っている。店員に最初は二人用の席に案内されたが、「後で友達が来るんで」といって四人用の席にしてもらった。このファミレスはうちの学生も多く利用しているし、このそばを通る者も少なくはない。二人用の席に女性といるところをクラスの人なんかに見られたら、どんな噂が立つか分かったもんじゃない。我ながらに見事な判断だった。
「待たせて悪かったな」
ちょうど一時間後に、保土ヶ谷はスーツ姿で現れた。その口調には、謝罪の気持ちが一ミリも入っていない。
「いえ」
ここで文句の一つも言えない自分が全く情けない……。
「まず、都筑に謝らなければならないことがある」
「えっ……?」
いきなり意外な言葉でスタートした。
「調査の結果、戦争を未然に防ぐこと我々の力では不可能と判断した。IPUは知っていたんだ。メシアの作戦を。そのうえで、奴らを潰そうと上は考えている」
「ちょっと待ってください、どうして奴らの作戦まで知っているのにIPUは何もしないんですか?」
「今までIPUが奴らをせん滅できなかった理由、それは奴らが行動を起こさなかったからなんだ。集会結社の自由は憲法二一条で保証されているから、組織があるだけじゃ攻撃できない。証拠でもつかめば別だが、奴らのガードは固く我々は確たる証拠はつかめずにいたんだ。だから、IPUはこの機会をチャンスだととらえている」
「そんなの……おかしいだろ。目的が間違ってる。事故を未然に防ぐためにあんたらはいるんだろ? メシアを捕まえるために人が犠牲になったら、意味ないじゃないか」
すると、保土ヶ谷は顔を赤くし、目に涙をためながら言った。
「私だってそう思うわよ! でも、止められなかった。私には……力がないの。今は、とても組織を動かすことなんてできない……」
いつも強気な彼女が弱い顔を見せたのは、それが初めてだった。俺は自分が言ったことに後悔した。彼女のほうがよっぽど悔しかったんだろうな。せめておれにできることなら何かしてあげたいどんなささいなことでも。思わずそう思った。
「何か方法はないのかよ」
「一つだけ方法はある。でも……」
「一つあるのか? 俺は何でもやる!」
「なんでもやってくれるの? じゃあ、がんばってね」
「えっ?」
彼女は涙をひっこめると、ニヤッと笑った。
だまされたああああ。
都筑龍馬とファミレスで会った後、保土ヶ谷は会社に戻り、自分の部屋に戻っていた。そこには、彼女のほかにもう一人の姿があった。
「すべて計画通りに通りにやったわ」
「ああ。ご苦労だった」
その男は言った。
「作戦の時、彼にはおとなしくしていてもらわなくてはならないからな」
そういうと、男はニヤリと笑った。
Xデーまであと二日を切った。正確に言うと、現在は四〇時間前。時刻は二三時を回ったところだ。こんな夜中遅くに俺は、東京郊外のとある山の中に一人たたずんでいる。
戦争を止める唯一の方法、それは相手を説得すること……って短絡的すぎるだろ! 頭の中お花畑か。なんで俺一人で敵の真っただ中に行かなくちゃならないんだよ。なんかの罰ゲームかこれは。いや、罰ゲームでもこんなことしないよ普通。
お前は我々の組織に入ったことはまだバレていない。それに、メシアには友人もいるのだろう。すべてはお前次第だ、だって。理由としてはなにかもの足りない気がするが……。でも、これしか方法がないなら、やるしかない。それに、零にも約束したしな。
俺は目の前にある薄暗い洞窟へと入っていった。IPUはすでにメシアのアジトもつかんでいたらしい。
いかにもアジトという雰囲気の洞窟内を携帯の光を頼りにひたすら進んでいく。もう敵の巣の中に入っている。くれぐれも慎重に進まねばならない。そのとき。
バチバチッという音が洞窟内に響き、あたりには火花が飛び散った。そして、首元に強い衝撃を感じた。何が、おき……。その瞬間、俺は意識を失った。




