風
おれの友達でしょっちゅう風に吹き飛ばされている男がいる。
しょっちゅう、急に場から姿を消す。
別段、相手が年上男じゃなくても吹き飛んでいた。
たとえば話をしていて、海外バンドのことを話していて、その相手が早生れの同級生の男子でも、そよとでも先輩風を吹かされるともう駄目で、つまり奴は、一年じゅう吹き飛んでいた。
風を感じている類いの男でも奴は異常なレベルで感じている。
密室空間は厳禁だった。
壁に、天井に、調度品にぶつかって、あちこち彼の血で汚れた。血がついているのを見て他の同級生は、彼がここにいたんだということを認める。
高校では、先輩たちは奴の姿を目視で捉えることができない。
同学年のなかにも前髪でしか奴を捉えていない者が少なからずいるくらいだ。顔を記憶している者となると更にその数は減った。
彼の髪はいつ見ても乱れていて、という文しか多くの人々には口にできない。
しかし、少なくともこの点だけははっきりしている、彼は地上を歩く努力を、私たちより、私たちの妹や弟よりも怠っているのだ、そういうふうに周囲からは思われている男だった。
おれらは中学になったくらいの頃からの知り合いで、奴は、おれにだけはちょくちょくとメールを送ってよこしてきた。
いい訳のメールだ。
ときには、町の外れまで、風によって彼の体は舞い上がっていくから。
奴にとって夕方というのは落とした持ち物を拾い集めるためにある時間だった。
へそまがりな物語収集家として、遠くからおれは奴に、あらゆることを語りかけた。
豆粒大の奴に手を振っておれは合図する。向うから見えてないのは分かりきってる。そうだとしても手をおれは振る。
多くの場合、おれと奴は豆と豆だ。
しかしこんなおれらでも発見をした。
豆と豆、でもそれだってちゃんと二人だということができた。そんなでも友達でい続けることはできた。
遠くから見ていると、たまに動くのが見える。逆に、全く動かないまま、ひとつところに腰を下ろしたままでいることもある。何か燃やしていることもある。
いつだってくしゃくしゃの彼の髪について、友情は何をするわけでもない。
それはただ継続している、という事実がひとつ。
どっちとも、そのことについて首をかしげている。
しかしともかく、風のせいで途切れたいくつもの物語があることや、足の踏み場はいくらでもあること。おれにはそういう、実際に知っていることがある。そして実際に友達にもそれを知っていてほしい。
彼も地上を歩く努力をしている、ちゃんとこっちにはそう見えていることを、何よりいつも知っていてほしい。




